ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第4回

comprehensiveな容量メカニズムがミッシングマネーを補う


Policy study group for electric power industry reform

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 前回までで示したとおり、電力システム改革と政策支援による再生可能エネルギー(自然変動電源)の大量導入が進行すれば、電気を安定的に供給するために必要な従来型電源を維持することが難しくなる。また、投資回収が見通しにくくなることから、新たな投資も難しくなる。競争環境下で投資回収の予見性が低下するのは当然であるが、電気の場合、貯蔵ができない技術面の制約から、固定費回収を考慮しない、限界費用による市場価格形成になりやすいという点で、他産業にない特徴がある。

<限界費用による価格形成にはメリットもあるが、持続可能ではない>

 もっとも、限界費用による価格形成は、現在存在する電源を所与として、全体の電力供給コストを最小化することを意味し、これはメリットである(これを「広域メリットオーダー」と呼ぶ注20))。さらに、FIT法の政策支援により限界費用ゼロの自然変動電源が大量に導入されるならば、これらの電気を、広域メリットオーダーを通じて有効活用することは理に適う注21)

 kWh市場が限界費用で取引されるなら、広域メリットオーダーは市場取引を通じて自動的に達成される。他方、そのようなkWh市場においては、電源の固定費回収に必要な収入を十分に得ることができないリスクが課題となる。容量メカニズムは、電源に対して、kWh市場とは別の収入源を確保し、収入の不足分(つまりミッシングマネー)を補う。

 容量メカニズムとは、「電気の供給力(kW)を維持していることを経済的な価値(以下「kW価値」と呼ぶ)と定義して、発電量(kWh)とは無関係に、その対価が支払われる仕組み」である注22)第1回であげた新聞の例で、限界費用(つまり紙代とインク代)で新聞の価格が決まってしまうとしたら、新聞社は事業存続のためにどのような政策支援を求めるか想像してみる。紙代とインク代以外の固定費(取材や原稿作成に係る経費、記者の人件費、印刷工場の設備費、流通網に係る経費等)を、新聞の販売収入とは別途の収入として得られるような仕組みを求めるだろう。電力市場における容量メカニズムは、このようなイメージである。貯蔵が利かないという他産業にない技術面の制約から、持続性のない価格付けに陥りやすいので、他の産業にない制度が必要という発想である。

 ミッシングマネー問題の解消手段として、容量メカニズムは不要であるとの論もある。最近の欧州諸国の動きを見ると、フランス、英国が容量メカニズム(容量市場)の導入を決めた一方、ドイツは導入を見送る方針である注23)。日本でも、八田・三木(2013)が、北欧において、容量メカニズムの議論がないことを引き合いに出しながら、容量メカニズムを導入するのではなく、kWh市場の市場機能を十分に発揮させることにより、ミッシングマネー問題を解消して必要なkWの確保を目指すべきと論じている。

<ミッシングマネー発生のメカニズムを確認する>

 筆者は、山本・戸田(2013)で、自由化されたkWh市場において、ミッシングマネー問題が発生するメカニズムを示した。同時に、理論上は、ミッシングマネーが発生しない可能性もあることを示した。ただし、現実の市場において、実際にミッシングマネー問題が解消できるかは、リスクがあると考えている。

 筆者が示したミッシングマネー発生のメカニズムは、次のとおりである。Joskow(2006)を参考にしている。

 利用可能な電源種がn個あるとする。これらの電源の間に;
 V1>V2>・・・>Vn  かつ  F1<F2<・・・<Fn  の関係が成立するとする。
 ここで、Vi、Fiは、電源種i(1~n)の可変費(限界費用)、固定費である。
 このとき、全ての電源種iについて、自己が最も経済的(=固定費と可変費の合計が最小となる)なる稼働時間(の幅)が存在する注24)

 更に、需要が所与であれば、個々の電源種の稼働時間を当該電源種が最経済的である稼働時間と合致するように組み合わせることが可能であり、これが、最経済な電源ミックスとなる。この電源ミックスは、需要が決まれば一義的に決まる。
 
 図12にn=3の場合のイメージを示す。前提は以下である。

需要は、年間最大需要=2,200万kW、年間最小需要は1,000万kWで、需要持続曲線(需要のデュレーションカーブ)は図6のような右下がりの一次関数注25)になる。
利用可能な電源種は、次の3種類とする。
 ベース電源: 固定費 2.4万円/kW/年 可変費(=限界費用) 2円/kWh
 ミドル電源: 固定費 1.6万円/kW/年 可変費(=限界費用) 3.5円/kWh
 ピーク電源: 固定費 0.8万円/kW/年 可変費(=限界費用) 8円/kWh
電源ミックスは最大需要である2,200万kWを満たすものとする。現実の電力システムでは、周波数調整能力、予備力などを加味して、2,200万kWよりも大きな設備量となるが、ここでは捨象する。


注20)
経済産業省 (2013a)による、広域メリットオーダーの定義は次のとおり。「最も効率的で価格競争力のある電源から順番に使用するという発電の最適化を、事業者やエリアの枠を超えて実現すること」
注21)
既に導入され、初期投資がサンクコスト化している自然変動電源は、限界費用ゼロの電源として有効活用されるべきである。しかし、自然変動電源は初期投資が割高であるので、これから投資するものについては、初期投資の負担に見合った価値があるかどうかを考慮する必要がある。
注22)
容量メカニズムの中で、kW価値の水準をオークションなど何らか市場原理に基づいて決めるものを、容量市場と呼ぶ。
注23)
ドイツ経済エネルギー省(2015)
注24)
電源種k、電源種k+1について、Vk>Vk+1かつFk>Fk+1となる場合を想定する必要はない。この場合、電源種kはあらゆる稼働時間において電源種k+1に経済性で劣後するので、経済性以外の付加価値がなければ、建設されることはない。
注25)
実際の日本の電力需要のデュレーションカーブは、ピーク時間帯の傾きが大きく、ベースの時間帯の傾きはなだらかになる。