ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第3回)

容量メカニズムの制度設計に向けて


Policy study group for electric power industry reform

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3-4 kW総義務量を小売事業者にどのように配分するか

 次に、kW総義務量が全体として確保されるように、個々の小売事業者にkWの確保義務を配分する。この配分は、排出権取引制度では、国全体の排出枠を個別の産業や企業に配分するプロセスに相当するが、何らか過去の実績に基づいて、未来の義務を決める、そのために激しい利害対立が起こる注6)排出枠と違い、kW総義務量の配分は需要の実績に基づいて行うことが出来る。例えば、N年度における小売事業者Aの需要が、全体の需要のX%を占めていたとしたら、kW総義務量のX%を小売事業者Aに配分すればよい。もっとも何を需要実績として定義するかについては、選択肢があり得るので、そこで論争は起こり得る注7)。しかし、一旦実績の定義が決まれば、毎年の実績に基づいて機械的に義務量の配分を算定するだけになる。

3-5  kW価格をどのように決めるか

 kW価格をどのように決定するかは、容量メカニズムの成否を決める重要な要素である。例えば、PJMにおける初期の容量市場に倣えば、kWを購入する小売事業者による買い入札とkWを販売する発電事業者等による売り入札による板寄せによって、kW価格を決める方法がある。容量「市場」と聞いてまずイメージするのは、こうした方式だと思うが、この方式の下では、kWの取引価格は大きく上下動する。

 容量市場も排出権市場も、kWを確保する義務や、温室効果ガス排出量を枠内に収める義務といった義務を、ペナルティ付きで人工的に設定するからこそできる市場である。こうした市場は、宿命的に価格は乱高下する。排出権価格で言えば、経済が好調で温室効果ガス排出量が増えてしまう状況下では排出権価格はペナルティの額に貼り付き、景気が低迷して排出量が減少した時は、排出権はほぼ無価値になるため、ゼロ近くまで価格が下落する。それとほぼ同じことが、PJMの初期の容量市場では起きていた注8)

 そのため、PJMが、2007年度(2007年6月1日から始まる年度)から、新たに導入した導入したRPMでは、個々の事業者がkWを購入するのではなく、PJMがシステム全体のkWの必要量を一括して買い上げ、かかったコストを小売事業者に配分・請求する。PJMによる買い上げの際は、Net CONE(電源維持に必要な固定費の額) 注9)を用いてVRR(Variable Resource Requirement)と呼ばれる右下がりの買い入札曲線(需要曲線)をPJMが人工的に作っている。イメージを図3-2に示すが、図中の点a~cの意味は以下のとおりである。

 点a:(kW量、kW価格)=(kW総義務量×0.97、Net CONE×1.5)
 点b:(kW量、kW価格)=(kW総義務量×1.01、Net CONE×1)
 点c:(kW量、kW価格)=(kW総義務量×1.05、Net CONE×0.2)

図3-2:RPMにおける入札曲線

(出所)PJM (2012)を筆者が加工

 PJMにおける初期の容量市場とRPMについて、需要曲線のイメージを図3-3に示した。(ア)が初期の容量市場、(イ)がRPMである。人為的に需要曲線に勾配が設定されているため、(イ)の方が、価格の乱高下は抑制される。

図3-3:PJMにおける初期の容量市場とRPMの需要曲線の比較(イメージ)

(出所)筆者作成

 そもそも容量メカニズム或いは容量市場を導入する目的は、通常の電力市場(kWhの市場)だけでは、コストの回収にリスクがあることから、それを補って投資回収の予見性を高めることである。容量市場もまた、価格が乱高下してリスクが大きいのでは、目的を果たせない。その点では、RPMは初期の容量市場よりもすぐれた制度である。人為的に需要曲線を作るところが、自然な市場原理を逸脱しており、違和感を持つ向きもあるかと推察するが、もともと容量メカニズムのベースとなっている、kW総義務量も市場原理で決まっているわけではない。容量メカニズムの制度設計において、kW価値を市場で決めることも必須ではなく、目的に適うものであれば、一括補助金注10)のような形で一定額を定めることも選択肢になり得る。

 日本のように電源建設のリードタイムが長い場合、例えば建設に10年かかる電源への投資判断に市場で決まるkW価値を用いようとすれば、10年前にkWを募集して入札を行わなくてはならない。しかし、10年後の需要想定では、不確実性が大きく、適切な市場のシグナルとは言い難いであろう。そうであれば、予め一定額をkW価値として定めてしまう方が、容量メカニズム導入の目的に適っているともいえる。

 いずれにせよ、kW価値の決め方は重要な論点である。今後の検討においては、市場を用いない方法も含めて、選択肢を幅広く捉えることが重要と思われる。

3-6  kWの実効性をどう判断するか

 kWの実効性とは、当該発電設備等が、kWhのニーズがあった時に、供給力として見込める確実性の度合いをいう。電気は基本的に生産即消費であるので、計画外停止率が高い電源、再生可能エネルギーのように稼働のコントロールが難しい電源は、kWの実効性が低いことになる。容量メカニズムを導入しても、実効性の高い電源も低い電源も同じkW価値が支払われるのでは、安定供給のために必要なkWを維持する目的に適わない。実効性の低いkWに支払われるkW価値は減額される必要がある。

 ただし、実効性に万国共通の定義があるわけではない。海外の先例を参考にしながら、まずは実効性の定義を定める必要がある。例えば、フランスでは、「所定のピーク時間帯(年間200時間程度)に稼働或いは稼働可能であること」と定義されている。同時に、それぞれの発電設備等が、実効性の定義に適った運用がなされているかどうかモニタリングする仕組みも構築する必要がある。

 この実効性をモニタリングする仕組みの構築は、容量メカニズムを導入する上で、物理的な課題である。kWhは計量器で明確に計測できるのに対して、kWの実効性の監視はより難しく、手間もお金もかかる。極力コストをかけずに意味のあるモニタリングが出来ることが理想であり、実効性の定義を検討する段階から、そのような意識を持って議論を進めることが重要であろう。

注6)
過去の実績に基づいて排出枠を決めると衰退産業が有利になる等。
注7)
1日最大電力、最大3日平均電力、年間上位200時間の平均電力、消費電力量、あるいはこれらの組み合わせ等。
注8)
電力改革研究会(2012)参照
注9)
米国では、エンジニアエリング会社であるWhitman, Requardt and Associatesが、電力会社の発電設備の建設コストの経年データを整理した統計(Handy Whitman Index)を定期的に発行している。NetCONEはその統計を基に算定される。
注10)
一括補助金については、例えば八田達夫(2008)参照
<参考文献>
・経済産業省(2013b)『”第2回制度設計WG 資料3-2事務局提出資料 新たな供給力確保策について“』
・電力改革研究会(2012) 『容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その1
・PJM(2013) ”PJM Manual 18: PJM Capacity Market Revision: 20
・八田達夫 (2008) , 『ミクロ経済学I』東洋経済新報社

執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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