米大統領選、トランプ氏が大統領になる日は来るのか(3)
~米商工会議所21世紀政策研究所の見方は?~
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
※【米大統領選、トランプ氏が大統領になる日は来るのか(1)、(2)】
2月上旬に民主党寄りとされるシンクタンク・アナリストにヒアリングした内容については、本題の(1)と(2)で書いたが、日本時間の3月18日時点、彼らの読み通りの結果となっている。では、共和党寄りとされる米商工会議所21政策研究所の研究者は大統領選の行方をどう見ているのだろうか。あわせてオバマ政権が昨年10月に施行した「クリーン・パワー・プラン(クリーン電力計画)」についても聞いた。
3月15日の5州の予備選が行われたミニスーパーチューズデーでは、実業家のドナルド・トランプ氏が大票田の南部フロリダ州など3州で勝利し、主流派の支持を受けたマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)を地元フロリダ州で破り、共和党の指名レースから撤退に追い込んだ。国民の怒りを背景にトランプ旋風が吹く中、中西部オハイオ州では、地元のジョン・ケーシック知事がトランプ氏との一騎打ちに勝利する結果となった。これまで一勝もしていなかったケーシック氏が背水の陣で臨み、代議員66人を獲得し、共和党主流派は7月の党大会をにらみ指名獲得の望みをつないだ。
トランプ氏が最終的に代議員数の獲得トップとなっても、指名獲得には代議員の過半数(1237人)が必要で、その条件を満たさなければ、7月の党大会で決選投票に持ち込まれることになる。トランプ氏は代議員数でトップを走っているものの、最終的に過半数に届くかどうかはまだ見通せない状況である。
党大会の決選投票に持ち込まれると、予備選に出馬していない候補の担ぎ出しも可能になる。トランプ氏の指名を阻止したい主流派内では、対抗馬を1人に集中させて戦わせるシナリオを立てているとの見方もされている。こうした動きをけん制するように、トランプ氏は、「20人や100人足りないくらいで指名獲得ができなければ、暴動が起きる」と発言し、「トランプ降ろし」に対して警告した。
一方、民主党は、ヒラリー・クリントン元国務長官が5州すべてで勝利し、指名獲得に向け前進している。それでもバーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)は選挙戦から撤退しない構えで、2人の戦いは長期化する可能性も出ている。しかし、最近の米メディアの報道から、クリントン氏の視線の先は、もはやライバル候補のサンダース氏ではなく、共和党のトランプ氏に向けられている。両陣営とも「クリントンVSトランプ」を意識したネガティブキャンペーンをさっそく展開し、互いをおとしめ合うCM合戦も大きく報じられている。
2月上旬に米商工会議所21世紀政策研究所の研究員にトランプ大統領誕生の可能性を聞いた際、今の状況を予見するかのような答えが返ってきた。
「トランプ大統領の可能性は、対峙する民主党候補者が誰かにも依るだろう。サンダース氏が相手ならば、トランプ氏は間違いなく勝つ。しかし、クリントン氏が相手ならば、トランプ氏が勝つのはきわめて難しいだろう。共和党主流派は、トランプ氏は大統領にふさわしくなく、指名を獲得させたくないと考えている。トランプ氏以外のクリントン氏に勝てる候補者を擁立する必要がある」と厳しい口調で答えた。
それは誰かと聞いてみると、ルビオ氏が有力だと答えたが、同氏は3月15日に指名獲得レースから撤退している。この一か月の動きは21世紀政策研究所の研究者も読めない状況になっている。
出所:CNN
クリーン・パワー・プランの行方は?
昨年10月に施行された「クリーン・パワー・プラン」は、オバマ大統領の指示を受けて、EPA(環境保護庁)が策定し、2030年までに発電部門のCO2排出量を2005年比32%削減し、各州に石炭火力発電から天然ガス火力発電、再生可能エネルギーへのシフトを義務付ける規制である。クリーン・パワー・プランは、昨年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で、米国が提出した温室効果ガス削減目標の達成に欠かせない排出削減策でもある。EPAは、各州に対して、州単位の目標を設定し、今年6月までに実行計画の提出を求めていた。
クリーン・パワー・プランの施行後、石炭産業が盛んなテキサス州など27州や電力会社、業界団体は、クリーン・パワー・プランは地元経済に大きな打撃を与えると主張し、昨年10月に実施の無効化の訴えを米最高裁判所に求めていた。
そして2月9日、最高裁は、クリーン・パワー・プランの実施を一時的に中止する判断を下した。これにより、コロンビア特別区連邦控訴裁判所が見直しを行うまで、クリーン・パワー・プランの実施は見送られることになった。控訴裁判所は、6月2日に口頭弁論を行う予定で、規制が合法かどうかを判断することになる。
今回の最高裁の判断が下される前に、21世紀政策研究所の研究者にヒアリングしており、クリーン・パワー・プランの行方について聞いていた。
――クリーン・パワー・プランはどうなると思うか?
「EPAに温室効果ガスの規制権限があるか否かが、裁判における最大の焦点だ。EPAは電源構成の転換を州に求めているが、これは大気浄化法(Clean Air Act)で認められたEPAの権限を逸脱し、州の権利を侵害したものだ。規制は地元経済に壊滅的な悪影響を与え、共和党のみならず民主党からも規制に反対する声があがっている。我々は、クリーン・パワー・プラン施行後、異を唱える各州に対して、削減実行計画の提出を延期するよう助言してきた。このまま放置しても、クリーン・パワー・プランは無効だと法が判断を下す可能性は高いだろう」と話した。
クリーン・パワー・プランに反対している共和党にとって、大統領選の主要な論点として、最高裁の判断は有利な状況になったといえる。
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- クリーン・パワー・プランのこれまでの経緯については、「クリーン・パワー・プランで米国は世界の低炭素技術をリードできるか」に書いているのでご参照ください。
◎次回へ続く