トランプ政権の環境エネルギー政策2017(4)

エネルギー省(DOE)の予算案骨子


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 トランプ大統領は、3月16日に2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の予算案骨子(Blueprint)を議会に提出した。連邦予算は、この骨子をもとに連邦議会の審議・修正のプロセスを経て、5月にも詳細が公表される見通しである。

 トランプ大統領は、国民の安全を第一優先に掲げ、国防省や国家安全保障省など防衛予算を540億ドルに引き上げるため、その他の部門での連邦予算の削減を図っている。気候変動プログラムに係わる環境保護局(EPA:Environmental Protection Agency)の予算は約31%削減の58億ドルで、「トランプ政権の環境エネルギー政策2017(2)」にまとめたが、本稿ではエネルギー省(DOE: Department of Energy)の予算から、トランプ政権のエネルギー政策の方向性を探りたい。

エネルギー予算の概要

 エネルギー省(DOE)の2018年度予算は280億ドルで、2017年度予算から17億ドル削減の5.6%減となっている。予算案骨子では、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E :Advanced Research Projects Agency-Energy)や、エネルギー政策法第17条に基づいて行われている原子力発電や再生可能エネルギーなどの革新的エネルギープロジェクトに対する融資保障プログラム(Title 17 Innovative Technology Loan Guarantee Program)などを廃止する計画だ。

 エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は、オバマ前大統領の下、DOEがプログラム部局の新規部門として立ち上げたもので、ハイリスクであるがゆえに産業界だけでは支援しきれないエネルギーに関連する創造的で型にとらわれない研究に焦点を当ててきた。ARPA-Eは、応用研究で、かつハイリスク・ハイペイオフな研究を対象とし、助成期間は最長3年、1件あたりの投資総額は200~500万ドル、最大2000万ドルを原則として、現在はクリーンエネルギーに関する長期的な事業に投資を行っている。トランプ政権は、ARPA-Eへの予算打ち切りの理由として、「エネルギー関係の研究開発に資金投入し、革新的技術を商業化するのは、民間部門で進める方が適している」と説明している。

 筆者が2月上旬に行ったワシントンD.C.でのヒアリング調査でも、トランプ政権は市場ベースで競争力あるエネルギーの支援は行うが、多額の補助金が必要となる実証事業や先端科学技術への支援は積極的に行わないだろうという意見が多く聞かれた。今回の革新的エネルギー研究開発の打ち切りや大幅な削減は、おおかた予想通りの措置と言える。

 しかし、これに対して、革新的エネルギーの研究開発予算の打ち切りは、米国の国際競争力の低下につながり、科学技術の進展や気候変動対策を無視するものだと批判の声が研究機関やロビー団体、メディアなどで相次いでいる。原子力エネルギー協会(NEI)のコースニック理事長は、原子力の研究開発予算が削減されることについて、「革新的エネルギー技術の開発者を不安に陥れている。十分な予算を研究開発に充ててほしい」との声明文を発表している。

 一方、ユッカマウンテン最終処分場の承認手続きの再開に予算を充て、原子力設備の増強予算を前年度より14億ドル増やしている。また、送配電グリッドで障害が発生した際の信頼度向上対策や電力系統のサイバー・セキュリティ対策を強化するなど、送配電インフラへの予算措置を講じている。これは、トランプ大統領がかねがね主張している「インフラ投資」を促す施策につながる。

ユッカマウンテン計画に予算措置

 トランプ大統領は、この予算案の中で、原子力発電所によって発生する使用済燃料の処分場計画であるユッカマウンテン(ネバダ州)の許認可取得、および中間貯蔵プログラムの開始のために、1億2,000万ドルを計上している。ユッカマウンテンは、ラスベガスの北西160kmに位置し、ネバダ核実験場と空軍訓練場に隣接する砂漠地帯にある。(図1

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図1)ユッカマウンテン  出典:DOE

 米国では、使用済燃料は、再処理せずに地下200~500mに地層処分することを前提に、1982年の放射性廃棄物政策法に基づき、1997年にユッカマウンテンに探査研究施設の建設が行われた。約20年間の調査研究後、2002年に連邦議会の承認を得て、ユッカマウンテンは高レベル放射性廃棄物、および使用済燃料の最終処分場として決定された。2008年、DOEは原子力規制委員会(NRC)に建設許可に係る許認可申請を行い、2012年10月から処分場の建設を開始し、2020年3月に処分場の操業を開始する計画だった。しかし、オバマ前大統領は就任早々の2009年1月、地元ネバダ州出身の上院院内総務ハリー・リード議員(民主党)の強い反対を受けて、ユッカマウンテン処分場計画の見直しを公約に掲げ、2011会計年度から予算をゼロとし、同計画を白紙撤回していた。

 そうした状況から一転、トランプ政権は、ユッカマウンテン許認可取得を進める方針を打ち出した。ユッカマウンテン処分場計画への予算措置について、「放射性廃棄物に対する連邦政府の義務の履行を加速し、国家安全保障を強化し、将来の納税者の負担を軽減することになる」と説明している。

予算案骨子の全文はこちら。エネルギー省(DOE)の予算は19~20ページに記載されています。
America First: A Budget Blueprint to Make America Great Again

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