MENUMENU

ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第12回

もう一つのプライススパイク発現策 運転予備力需要曲線(ORDC)


Policy study group for electric power industry reform


印刷用ページ

<ORDCも市場の機能不全を前提としている>

 以上が、ORDCの具体的な仕組みである。ORDCは、「容量メカニズムは不要である」とする論、すなわち「市場機能を十分に発揮させれば、kWh市場で適切な頻度でプライススパイクが発現し、ミッシングマネーは解消する」という考え方には立っていない。ORDCは、それだけではミッシングマネーを解消することは難しいと認識しているから導入される措置であり、その点は容量メカニズムと共通している。

 ORDCのミッシングマネー解消策としての考え方は以下である。

需給がタイトなときの電気の希少性を反映する、あるべきkWh価格は、「停電による機会損失の期待値」であり、これが適切に発現するならば、ミッシングマネーは解消する。
しかし、単に市場参加者の行動に委ねるだけでは、適切なkWh価格の発現は難しい。
そのため、適切にプライススパイクが発現するよう、あらかじめ定めたルールに基づいて、需給がタイトな時のkWh市場価格を調整する。

 なお、市場参加者の行動だけでは適切なkWh価格が発現しない理由として、考えられるのは以下である。

1)
市場参加者は、情報が不完全であり、VOLLもLOLPも認識できない。
2)
発電事業者が高値(=自己の限界費用を大きく上回る価格)で応札するには、次の障壁がある。
市場で約定できず、収入がゼロとなるリスクを甘受しなくてはならない。
上記のリスクを自己だけが負うにもかかわらず、プライススパイクが発現した場合の利益は、全ての発電事業者が享受する不合理を甘受しなくてはならない。
独禁当局による競争法運用の不透明さのリスクに直面しなくてはならない。すなわち、発電事業者が高値入札を行った場合、それが電気の希少性を適切に反映した結果であるのか、市場支配力を濫用した結果であるのかの判断は難しい。独禁当局が下す判断について、発電事業者は予見が困難である。
3)
需要家がDRにより高値で応札するには、次の障壁がある。
市場での約定に備えて需要を抑制する準備を常に整えておかなくてはならない。
容量メカニズムを導入しないことを前提とすれば、その準備の対価は支払われない。準備に費用がかかるのであれば、約定した時のkWh価格で回収することしかできない。

<ORDCと容量メカニズムを比較する>

 それでは、ORDCとcomprehensiveな容量メカニズムについて、ミッシングマネー解消策としての得失はどのように評価されるか。筆者は次のように考える。

筆者は、第7回及び第8回で、プライススパイクにミッシングマネー解消を期待する場合のリスクとして、1) 市場における価格形成により、プライススパイクが想定した頻度まで発生しないリスク、2) 気象条件などの影響でプライススパイクが想定した頻度まで発生しないリスク をあげた。ORDCはこのリスクを解消するものではない。対して、容量メカニズムはこのリスクとは無縁である。
どちらも市場原理に規制的要素を持ち込む措置であることは共通である。他方、ORDCの方が制度としてはシンプルである。将来、kWh市場の機能が改善し、措置の必要性が薄れることを想定するなら、ORDCの方が制度がシンプルな分、フェードアウトが容易である。
ホーガン教授は、プライススパイクを発現させるORDCの方が、需要家の市場参加(つまりDR)が促されると主張する注47) 。筆者はこの主張に対して懐疑的である。筆者の知る限り、日本で市場を開拓しようとしているDRアグリゲーターは、いつ発現するか予見が難しいプライススパイクよりも固定的な基本報酬(kW価値)を得ることを望んでいる。

<ORDCと容量メカニズムは併存可能である>

 なお、ORDCとcomprehensiveな容量メカニズムは、排他的なものではなく、同時に導入することが可能である。これはホーガン教授も認めている注48) 。日本における容量メカニズムの検討でも、ORDCとの併用は選択肢たり得ると筆者は考える。この点については、稿を改める。

注47)
Hogan, W. W. (2014)
注48)
Hogan, W. W. (2014)。なお、「市場参加者の入札行動や入札価格とは無関係にプライススパイクを発現する仕組み」は、Shortage Pricing又はScarcity Pricingと呼ばれる。ORDCはShortage Pricingの一種である。そして、PJM等、米国北東部のRTO/ISOは、comprehensiveな容量メカニズムとShortage Pricingを併用している。
<参考文献>
 
Hogan, W. W. (2014) , “ELECTRICITY SCARCITY PRICING AND RESOURCE ADEQUACY

執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

記事全文(PDF)



電力システム改革論を斬る!の記事一覧