ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第9回

問題が顕在化するドイツで電力市場改革の動き


Policy study group for electric power industry reform

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 今回より3回に分けて、ドイツの電力市場改革を取り上げる。ドイツは、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めた結果、自然変動電源(太陽光発電と風力発電)の発電電力量に占めるシェアが2014年実績注38)で15%となっており、その帰結としてミッシングマネー問題が顕在化している。特にミドル需要からピーク需要への供給を担うガス火力発電所において影響が顕著であり、図20に示すように設備利用率が急速に低下し、卸電力市場価格の下落も相まって採算が悪化している注39)

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図20:ドイツにおけるガス火力発電設備利用率の推移
(出所)ドイツ経済エネルギー省Webサイトに基づき筆者作成

<ドイツ政府、電力市場2.0を打ち出す>

 こうした中、ドイツ政府は、2014年10月に「ドイツのエネルギー変革のための電力市場」と題するグリーンペーパー注40)を公表した。グリーンパーパーは、ドイツの電力システムは、「コントロール可能な電源が需要に追随する電力システム」から「柔軟な電源、柔軟な需要及び蓄電システムが太陽光発電や風力発電の変動に応答する電力システム」への変革の途上であるとの認識を示すとともに、ミッシングマネー問題を解決し、柔軟かつ持続可能な電力市場を構築する政策として、2つの選択肢を示した。選択肢は次の2つである。
 第一の選択肢:kWh市場の改革 【電力市場2.0注41) 案】
 第二の選択肢:容量市場(capacity market)注42) の導入【容量市場案】

 ドイツ政府は、これら選択肢について関係者から意見を募り、その結果を踏まえて、第一の選択肢【電力市場2.0案】を進めていく方針を、2015年7月公表のホワイトペーパー注43) で明らかにした。

 なお、いずれの選択肢を採用するとしても、不測の事故等の際にも電力供給が維持できるよう、戦略的予備力(ホワイトペーパーでは「容量予備力(capacity reserve)」と呼んでいるので、以下ではこの呼称を用いる)を導入する。2つの選択肢のいずれを採用する場合でも、実際に機能するには時間がかかると想定され、保険的な制度も導入する必要があるとの政府の判断である。

 第5回冒頭の表現を用いれば、ドイツは、「ミッシングマネー解消の原資を特定の時間帯に発現するプライススパイクに期待する」ことを選択した。すなわち、今の市場構造を大きく変えず、より適切にプライススパイクが発現するようkWh市場の改革を進めていくこととしたわけである。

<多数の支持を集めた電力市場2.0、容量市場は南ドイツの州が支持>

 上記の2つの選択肢(電力市場2.0案、容量市場案)に対して、関係者(州政府、産業用需要家、産業団体、環境保護団体等)から寄せられた意見を紹介する。全体の傾向は図21のとおりであり、電力市場2.0案支持が多数派となった。

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図21:2つの選択肢に対する意見分布
(出所)ドイツ経済エネルギー省(2015)に基づき筆者作成

注38)
ドイツ経済エネルギー省Webサイトによる
注39)
2015年春には、大手電力会社エーオンがイルシング火力発電所4号機・5号機の停止許可を政府に申請している。同機は、2010~2011年に運開したばかりの最新鋭のガスコンバインドサイクルである。熊谷徹(2015)による。
注40)
特定の政策決定のプロセスにおいて「議論のたたき台」として政府が提出する提案書のこと。これをもとに議論した決定事項がホワイトペーパー(白書)となる。ドイツ経済エネルギー省(2014)
注41)
ドイツ政府が、グリーンペーパーで打ち出した概念である。次々回でもう少し詳しく掘り下げる。
注42)
comprehensiveな容量メカニズムのことであるが、ホワイトペーパーでの呼称を用いる。
注43)
ドイツ経済エネルギー省(2015)