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固定価格買取制度導入の経緯・失敗の原点(その3)


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(前回は、「固定価格買取制度導入の経緯・失敗の原点(その2)」をご覧ください)

4.施行後に顕在化した制度上の問題点

 調達条件が事業者の言い値であったこと以外にも、固定価格買取制度を失敗に導いた制度上の欠陥が数々明らかとなってきた。これらの制度欠陥は、固定価格買取制度を運用するための政令や省令、あるいはガイドラインの類に宿ったものである。急速な導入を目指すあまり、社会的モラルや制度上のガバナンスが軽視された結果にほかならず、当時制度設計に当たった関係者の責任は強く指弾されるべきであろう。ちなみに、法案成立から詳細制度設計・初期運用を担った資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長(2011年9月~2013年7月)の新原浩朗(現内閣府官房審議官)の元職は、管直人総理秘書官であった。

1)価格決定タイミング問題
 調達価格決定のタイミングを、設備認定または系統接続申込のいずれか遅い方の属する年度の価格とし、また、設備認定から運転開始までの期限が規定されていなかったことから、「とりあえず」高い調達価格を確保しておいて、その後はゆっくり実行を考えるということを可能としてしまった。太陽光モジュール価格が低下傾向にあることから、意図的に設備の施工・運転開始を先延ばしして、利ザヤを稼ぐ事業者がいるということも指摘された。その結果、調達価格見直し直前の年度末に設備認定が殺到、2014年3月には1ヵ月間に2700万kWを超える設備認定が行われた。しかし、制度開始から約3年が経過した2015年3月末時点で運転開始に至ったものは2012年度認定分で45%、2013年度認定分でわずかに13%に留まっている(図7)。

図7 設備認定と運開量の累積推移 (出典:第1回再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会)

図7 設備認定と運開量の累積推移
(出典:第1回再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会)

2)設備認定要件問題
 調達価格の決定には行政による「設備認定」が必要であり、「設置場所の決定」と「設備仕様の決定」が要件とされた。しかし実際には、早期に高い調達価格を確保しようとする事業者による認定申請が殺到した。申請を受ける側の各経済産業局は、限られたマンパワーの中で認定業務を行っていかざるを得なかった。図8に、九州経済産業省が制度導入から約2年間にわたって処理した再エネ特措法に基づく手続き件数推移を示す。年度末の3月には2500件に上る設備認定申請が行われ、これとは別に、年報、変更認定、軽微変更、廃止など毎月数百件~2000件の申請手続きが行われていることが分かる。九州経済産業局はこれらの申請手続きを、「当局の5名の担当職員だけでは処理できず、局内の職員を十数名動員のうえ、特別チームを編成し処理を実施した」としている注22)
 年度内に認定を受けられなければ、買取価格が下がってしまうため、事業者からのプレッシャーは相当に強かったものと想像できる。その結果、地権者の了解を得ていない事案や農地法や河川法に抵触する場所での案件なども通ってしまうなどの問題が多数発生した。このため、認定後未運開である400kW以上の設備について再度聴聞を行い、将来稼働しない案件の認定取り消し作業が、膨大な行政コストをかけて現在も行われている。

図8 九州経済産業局における再エネ特措法に基づく手続き件数 (出典:九州経済産業局、固定価格買取制度における運用と課題、第5回新エネルギー小委)

図8 九州経済産業局における再エネ特措法に基づく手続き件数
(出典:九州経済産業局、固定価格買取制度における運用と課題、第5回新エネルギー小委)

注22)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/001_03_00.pdf
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3)軽微変更問題
 一旦認定を受けた後、事業者、設備規模などの見直しが、調達価格の変更を伴わない「軽微変更」として簡単に行うことができた。このため、権利の転売や案件分割による「太陽光分譲」、運開後の規模の拡大など、制度が想定していなかった様々な「ビジネスモデル」が登場し、投資案件として拡大した。中には国民負担拡大につながるような悪質な変更(連系コストが電力会社負担となる分割による低圧連系)も多くみられたのである。2014年10月15日に開催された第5回新エネルギー小委員会において、九州経済産業局より、次のような実例が紹介された。

平成24年度に買取価格が決定した10kWの太陽光発電設備について、平成26年2月の運転開始後、同年3月に変更認定手続きが行われ、1,990kWに増設されている。
平成24年度に設備認定を受けたメガソーラーについて、発電事業者が4回変更され、その都度、変更手続きが行われ、現時点でも発電事業がほとんど進捗していない。
平成26年3月に同一事業者が、同一地番において290件の各49.5kW(合計約14MW)の設備認定を受けており、本来払うべき社会的コストが負担されていない。

簡易なフェンスで分割された太陽光分譲ビジネスの例(2015年6月筆者撮影)

簡易なフェンスで分割された太陽光分譲ビジネスの例(2015年6月筆者撮影)

4)情報非開示問題
 設備認定の情報が非開示とされたため、自治体が太陽光計画を事前に知ることができず、条例や法律に違反する状態で建設が行われたケースや、地元や周辺住民に何の情報もないまま、景観や防災に影響を及ぼすような施設が建設されてしまうケースが発生した。前記の新エネルギー小委員会において九州経済産業局より次のような実例が示された。

設備認定を受けた太陽光発電設備の建設に関連して、自治体に事前相談等なく開発されている事例や景観に関する住民とのトラブル等の事例が発生している。管内自治体からは、認定情報を共有してほしいとの要望が出ている。
県が管理する河川に隣接して太陽光発電を設置されているが、造成に当たり、県土木事務所に事前相談なく開発行為を実施。認定状況の情報提供がないため、施工、造成が進んだ段階で、問題が確認され、県の対応が後手に回っている。
農地転用許可が出来ない1種農地、農業振興地域にて、太陽光発電を設置、売電をしている事例が増え、対応に苦慮している。

5.制度改革に向けた動き

 固定価格買取制度導入から2年経った2014年6月に新エネルギー小委員会が再開された。本来は、同年4月に決定されたエネルギー基本計画注23) に基づく、2030年に向けた再生可能エネルギー導入施策を議論するはずであったが、審議の最中に接続保留問題注24)やFIT電源の市場転売によるさや抜き問題注25)など、新たな問題が次々に露見したことから、顕在化した制度欠陥の修正や国民負担拡大抑制の議論に終始することとなった。2015年9月には、基本政策分科会の下に新たに設置された「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会」において、固定価格買取制度の抜本改正が議論され、太陽光抑制と風力や地熱などの長期計画的な導入拡大にむけた制度改革の具体策が示された注26)。しかし、将来の国民負担の拡大がどの程度に収まるのか、今後本格化する電力システム改革とどのように整合させていくのか、長期的な電力安定供給をどのように確保していくのかなど重要な課題については、検討未着手である。
 少なくとも太陽光については、固定価格買取制度の初期導入加速策としての役割はすでに終わっていることは明らかだろう。今後は、中長期的かつ持続可能な形での再エネ導入制度の在り方について、地に足をつけた検討を行うことが求められる。

注23)
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001.html
注24)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/004_haifu.html
注25)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/012_haifu.html
注26)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/saisei_kanou/006_haifu.html

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