ドイツの電力事情⑬ ドイツで最も影響力のある経済学者の指摘

-さらなる再エネ拡大には蓄電技術の採算性の確保が必須-


国際環境経済研究所理事・主席研究員


 ドイツ国民の圧倒的な支持を得て突き進んできた「Energiewende」。エネルギー転換ともエネルギー革命とも訳される通り、脱原発・脱化石燃料をはかり再生可能エネルギー主体の経済に切り替える歴史的挑戦として、注目されてきた。
 ドイツ政府はこれまで、国内外に順調な進展をアピールし続けてきたし注1)、再エネによる電力の割合を2020年までに35%、2030年までに50%、2040年までに65%、2050年には80%とする目標を掲げさらなる再エネの導入に取り組む姿勢を見せている。
 しかし、再生可能エネルギー導入法(EEG)に対しては多くの批判が寄せられている。2014年2月に連邦政府の研究・イノベーション専門家委員会(EFI)がその年次報告書注2)において、再生可能エネルギー法は「電気料金に追加的なコストをもたらしただけで、気候変動対策には役立たなかった。また技術開発の促進に影響を与えたとも言えない。よって、この法を継続することは正当化されない。」と痛烈に批判した注3)ことに続き、2014年11月には経済諮問委員会(通称、5賢人委員会)注4)が「ドイツの再生可能エネルギー支援策は非効率」と断じている注5)。2014年8月の改正により、買取総量の上限は導入されたが、再エネの種類ごとに支援額を設定する仕組みが変更されなかったので、根本的な問題解決にはなっていないとされたのだ。こうした指摘は、ドイツを倣って再エネ導入政策の設計を行った日本は真摯に受け止める必要がある。

 そして、このほどまたドイツ国内の学者から、Energiewendeの課題を指摘する見解が示されたので紹介したい。ミュンヘンにあるIfo研究所のハンスヴェルナー・シン所長は、5月13日にベルリンで開催された会議において、太陽光・風力の更なる導入によって生じる系統安定化対策コストに警鐘を鳴らした。氏の試算によれば太陽光・風力をこれ以上拡大するには、ドイツ国内に現在35箇所ある揚水発電所を500箇所以上にまで増やすか、あるいは、電気自動車BMWi3を1億5,900万台導入する必要が生じるという。経済的に見合う蓄電が不可能な現状では、「再生可能エネルギー導入のさらなる拡大は限界である」と述べたという注6)

 自然変動電源である太陽光・風力の電力を有効に利用するカギは蓄電技術の開発・コストダウンだ。拙著「誤解だらけの電力問題」の中で「電気は究極の生鮮品」と表現した通り、「同時同量」(電力の需要と供給を瞬時瞬時で一致させること)は電力の基本であり、発電するタイミングを人間がコントロールできない自然変動電源の出力平準化及び貯蔵のためには蓄電技術が必要になる。しかし残念ながら蓄電池はまだコストが高い。
 我が国の経済産業省が平成24年1月に設置した蓄電池戦略プロジェクトチームが同年7月に出した「蓄電池戦略」注7)によれば、「再生可能エネルギーの導入拡大等に伴う、電力系統の安定化を図る場合、現状では蓄電池と揚水発電を比較すると、導入コストベースで比較した場合、 揚水発電は約 2.3 万円/kWh のところ、NAS 電池で約 4 万円/kWh、鉛蓄電池が約 5 万円/kWh、ニッケル水素電池で約 10 万円/kWh、リチウムイオン電池で約 20 万円/kWh と相当のコスト差がある。 また、寿命(耐用年数)は、揚水発電が約 60 年である一方、NAS 電池が 約 15 年、鉛蓄電池が約 17 年、ニッケル水素電池が約 5~7 年、リチウムイオン電池が約 6~10 年であり、現在では、これも差がある。」としている。日本政府は、蓄電池産業の市場規模が今後急拡大すると見込まれること、我が国企業が技術力で優位性を有していることから(携帯電話、ノート PC 等の民生用ポータブルデジタル機器向けのリチウムイオン電池などにおいては、韓国企業が市場支配力において勝るようになっているが)、代替手段である揚水 発電と同額の設置コスト(2.3 万円/kWh)まで低下させることなど具体的な目標を掲げて技術開発の支援を行うこととしている。2015年1月、住友電気工業がレアメタルを使用せず、生産コストが現在の十分の一程度となる次世代蓄電池の開発に成功したことなどが報じられているが注8)、しかし、技術開発はまだ途上だ。
 蓄電池がコスト的に見合わないため、国際送電線で他国と連系しているドイツは、近隣諸国を蓄電池と考え、連系を強化する方針だ。今年2月、ドイツーノルウェー間の海底直流送電線建設契約が調印された注9)。亘長623km、送電容量140万kW、建設費用は15億~20億ユーロ(1,950〜2,600億円。1ユーロ130円で計算)とされる。2020年完成を目指しており、この連系線によりドイツの風力発電で生じた余剰電力をノルウェーの揚水式水力発電所に蓄え、電源が不足するときにそれを利用する計画であるとされる。しかし島国である日本は閉じたグリッドであり、現状においてはドイツを範とすることはできない。

 2014年の「ドイツで最も影響力のある経済学者」に選ばれた注10)彼の指摘はドイツ国民の耳にどう届くのだろうか。そして、ドイツを手本に設計された我が国の再エネ導入政策はどうあるべきか。再エネを正しく有効に活用するための、系統安定化対策はどうあるべきか。我々も早急に検討する必要がある。

注1)
COP20で行われたドイツ政府主催のサイドイベントにおいても、Energiewendeの順調な進展がアピールされた。この様子については筆者の「COP20参戦記(その2)ドイツ政府主催のサイドイベント」をご覧頂きたい。
http://ieei.or.jp/2014/12/takeuchi14121103/
注2)
EFI(独名:Expertenkommission Forschung und Innovation、英名:the Commission of Experts on Research and Innovation)2014年サマリー(英語)P9に記載。
http://www.e-fi.de/fileadmin/Gutachten_2014/EFI_Kurzfassung_Englisch_2014.pdf
注3)
German Energy Blog による報道
http://www.germanenergyblog.de/?p=15384
注4)
http://www.sachverstaendigenrat-wirtschaft.de/index.html
注5)
German Energy Blogによる報道
http://www.germanenergyblog.de/?p=17315
http://www.germanenergyblog.de/?p=14737
注6)
http://www.finanztreff.de/news/ifo-chef-sinn-sieht-grenze-der-energiewende-schon-heute-erreicht/10509533
注7)
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/028/pdf/28sankou2-2.pdf
注8)
http://bizgate.nikkei.co.jp/smartcity/kanren/201501091315.html
注9)
http://www.welt.de/wirtschaft/energie/article137303596/Norwegen-wird-zum-Speicher-fuer-deutschen-Oekostrom.html
注10)
http://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/wirtschaftswissen/f-a-z-oekonomenranking-2014-hans-werner-sinn-gewinnt-13134115.html

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