電力問題・原子力発電に関する報道を考える


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「環境管理」より転載:2024年3月号 vol.60 No.3)

 エネルギー問題のなかでも特に電力問題は、わかりづらい。瞬時瞬時で需要と供給を一致させなければならない「同時同量」をはじめとする電気の物理的・技術的特性はもちろんのこと、加えて外交や国際情勢、環境問題、経済学などとにかく幅広い知識と視点が必要とされるにもかかわらず、わが国では総合的に学ぶ機会はほとんどないのだから、一般の方がとっつきづらいと感じるのは当然だろう。
 メディアによる情報提供が極めて重要な役割を担うこととなるが、電力問題や原子力発電に関する報道には、その正確性に首をかしげざるを得ないものも多い。一部には、大手電力会社や原子力発電に負のイメージを与えることが目的化しているのではないかとすら思わされるものもあるのは残念なことだ。
 批判すべき点は批判すべきで、それが政策や事業の健全な発展に寄与すると筆者は考える。しかし、昨今の電力問題・原子力発電に関する報道は、批判が目的化していないだろうか。最近の報道を振り返って考えてみたい。

能登半島地震の復旧と電力システムを巡る報道

 元旦に能登半島を襲ったマグニチュード7.6の地震は、電力インフラにも極めて大きな被害をもたらした(写真1)。犠牲者のご冥福と、被災された方の生活が1日でも早く回復することを、心よりお祈り申し上げる。冬の北陸で停電すれば、生活は極めて困難なものとなるし、災害復旧を進めるためにも電力の確保が急がれることは言うまでもない(写真2)。
 1月24日に日本経済新聞に掲載された「電力供給、進まぬ分散 大手寡占で災害時にリスク」という記事は、再エネや蓄電池で災害に強い独自の電力供給網を創るべきだ、と説いた。発電や送配電は大手の寡占が続いており、大手の大規模発電所と送配電網に頼る構図は災害時のリスクになりかねないとの主張だ。


写真1 被害状況(電柱の傾斜・折損・混線)
出所:北陸電力株式会社

 わが国では急速に人口減少が進んでおり、それに伴って、水道や電気などネットワーク型のインフラの維持が困難な地域が増えている。分散型システムの導入が一つの重要な選択肢であることには筆者も同意する。しかし、今回の震災からの復旧が遅いという批判から、いまの電力システム改革論を展開するのはいただけない。そもそも「送配電は大手の寡占」などという表現は、この記事の書き手が、電力システム改革を根本的に理解していないことを示している。
 電力システム改革によって事業参入が自由化されるのは、基本的に、発電と小売り事業だ。一般送配電事業は規制事業として残る。規模の経済が働く事業であるし、この分野まで自由化すれば、複数の会社が同じ地域で送電鉄塔や電柱への設備投資をすることとなり、設備が乱立することになりかねない。
 しかし筆者が指摘したいのは、こうした理解不足ではない。災害復旧に対する課題意識を安易に電力システム論に結び付けることの危うさだ。東日本大震災後の計画停電を契機に、日本は「わが国の電力システムの脆弱性が露呈した」として電力システム改革に急速に舵を切った。例えば当時、「価格メカニズム(需給がひっ迫したときには、値段を上げて需要を抑える)があれば計画停電が防げた可能性があった」という主張が一部の経済学者からなされたが、東京電力が震災で失った供給力は太平洋岸・東京湾の火力発電所など、全体の三分の一程度にもなる。価格メカニズムによって計画停電を全く行わずに済んだとは考えづらい。そうした検証も行われず、一足飛びにシステム改革が断行されたわけだが、自然災害への対応力という点ではむしろ改革前の方が高かった可能性もある。
 東日本大震災に際しての東北電力の復旧への取り組みについてのユニークな研究がある。「日本の電気事業の災害対応状況(東日本大震災を中心に)」(電力中央研究所社会経済研究所 後藤久典氏)だ。震災直後、東北電力管内では全需要家の8割にあたる約450万戸が停電したが、それを3日で約80%、8日で約94%と驚異的な復旧を果たしている。災害からの電力復旧に際しては、単に設備を修復すればよいわけではない。病院や警察、消防署などの公共機関の状況を確認して復旧の優先順位づけをする、電気を再送することで火災が起きたりすることの無いよう(例えば地震で倒れた電気ストーブにそのまま通電してしまえば火災発生のリスクがある)需要家側の設備の安全を確認しながら進める必要があるため、設備復旧の技術力のみならず、綿密な作業立案能力、コミュニケーション力など総合的な現場力が必要とされる。東北電力宮城支店への聞き取り調査を実施し、発電・送電・配電・総務・広報・営業といった全部門が情報を共有したことが素早い復旧につながったことを指摘している。なお、本研究は東日本大震災後の復旧を分析したものであり、今回の能登地震を含めてそれ以外の災害との比較は行われていない。災害はそれぞれ異なる性質を持っており、復旧スピードなどは安易に比較できないことは申し添えたい。


写真2 復旧作業
出所:北陸電力株式会社

 日本経済新聞の記事では、再エネや蓄電池を活用した分散型システムがレジリエンスに優れるとするが、そうした分散型システムも震災で被害を受けることもある。産経新聞が1月18日に報じているが、能登半島地震の被災地にある大規模太陽光発電所(メガソーラー)の少なくとも3カ所で、斜面崩落など地震による被害を受けた可能性があることが、金沢工業大の調査で分かったとのことだ。停止した太陽光発電には感電リスクがあるので、消火や救助活動の妨げになることある。単に分散化すればよいのではなく、マイクロインバータの導入などの配慮が必要だ。
 そして、日経の記事が言うように、地域の事業者が電力供給網を構築するのであれば、設備のストックなども彼らが確保しておかねば迅速な復旧は叶わない。DIYで修理できるような設備形成でなければ、より復旧への時間がかかることもあり得るだろう。電力システム論に持ち込むのであれば、こうした全体への目配りが必要だ。
 なお、能登地震の復旧には全国の大手電力会社が2月初旬までに延べ4,754名、高圧発電機車31台、高所作業車261台、工事車両・業務車両等661台と、大規模な応援体制を採っている*1。以前から災害時の応援に関する協定はあったが、2019年7月以降は、被災会社からの要請を待たずに体制を整えて、要員や資機材を、被災した電力会社に隣接する地域に移動して待機する「プッシュ型応援派遣」という制度が導入されている。こうした改善をより高めていくことが必要であり、そうした検証をメディアには期待したい。

志賀原発を巡る報道

 能登地震を巡って、志賀原子力発電所の安全性に関する記事も多く見られた。東京電力福島第一原子力発電所事故の二の舞になるのではないかと人々が懸念するのも当然であり、情報発信が重要であることは論を俟たない。具体的な情報は、北陸電力や電気事業連合会、あるいは原子力規制委員会がそれぞれウェブサイトで特設コーナーを設けているので、確認していただければと思う。
 今回の震災で、法令に基づいて原子力規制委員会に報告された事象は、変圧器からの油漏洩だけだ。その件についての読売新聞の報道は、目を疑うタイトルとなっていた。事後北陸電力の抗議を受けて修正されたが、もともとは「志賀原発の変圧器、最も強い揺れに耐える『クラスC』でも壊れる…修理見通し立たず」という見出しで変圧器が地震に耐えられなかったと報じたが、耐震重要度分類は、最高がSで、その下にB、Cと続く。変圧器はCクラスで一般産業用機器と同等の耐震性でよいとされている。もちろん壊れないに越したことはないが、原発の安全性は「多重防護」で確保されるものだ。即ち、何かが壊れても他の外部電源やら電源車やらで安全性を確保するという考え方で設備を形成する。いずれにしても、記事を出す前に、耐震クラスの分類と意味を確認すれば、詳細は知らずとも“最も強い揺れに耐える”という誤った記述はせずに済んだだろう。
 そのほかにも、例えばNHKは 志賀原発の周辺で放射線量を測定する116カ所のモニタリングポストのうち、最大18カ所で一時データが得られない状態になっていたことを報じている。このこと自体は間違ってはいないが、この記事は重要なことを伝えていない。原子力発電所敷地内に北陸電力が設置したモニタリングポスト7カ所はいずれも「地震発生前後を通じ正常に測定しており、異常は確認されていない」(電気事業連合会「能登半島地震による各原子力発電所への影響について」)が、地元自治体が設置した敷地外のポスト116カ所のうち18カ所のデータ取得に不具合が生じたというのが正しい。
 震災によって人々の心に不安が生じているときには、徹底して正確な情報伝達を心掛けていただきたいと切に願う。

気候変動政策に関する報道

 気候変動対策や再生可能エネルギーの導入については、判で押したように「日本は出遅れた」とされる。日本が出遅れていることも多々あるだろうし、目標の野心度を引き上げることに熱心かといえばそうではないかもしれない。しかし、日本が「できていること」について全く触れない報道が多すぎる。
 例えばNHKの「クローズアップ現代」の30周年特別番組は、「先週閉幕したCOP28で厳しい目を向けられていたのが日本」、「二酸化炭素を多く出す石炭火力発電の廃止時期を、G7で唯一示していないことなどが理由」としている。さらに、「温暖化対策をコストである」と考える風潮が強かったため、「日本は変われなかった」と桑子真帆キャスターと国谷裕子氏がため息をつきながら語り合うという内容だ。今もすべてのやり取りがウェブサイトで見られるので是非ご覧いただきたい。
 そこでは、わが国が、掲げた目標ラインに沿って、着実に削減を進めていることは全く触れられていない。G7諸国は、野心的な目標を掲げるが、2021年時点で米国は10億トン、EU(欧州連合)は5億トン以上目標ラインを上回っている。EUの中で最も排出量の多いドイツは1億トン強、フランスも約1億トンのオーバーだ。図1のグラフはG7諸国の目標ラインと進捗を示したもので、昨年11月28日、COP28の直前に官邸で開催されたGX実行会議に環境省が提出したものだ。この資料については、24年1月19日に電気新聞が一面で報じたが、それ以外には筆者は残念ながら目にしていない。


図1 G7メンバーの排出削減の進捗状況
出所:GX実行会議(第9回) 伊藤環境大臣提出資料

 クローズアップ現代でもこうした実績はもちろん、再生可能エネルギーの導入量でいえば日本は世界6位、太陽光発電は3位であることも、水素について世界で初めて国家レベルでの戦略をまとめるなど、むしろ前のめりであることも全く触れられていない。
 筆者は「日本はもう十分やっている」と主張したいわけでは全くない。しかし、今後取り組むべきことを明らかにするには、何がどこまでできているのかを考える必要がある。わが国のCO2削減が、製造業の海外流出や競争力低下による生産量の減少によるものなのか、削減に取り組んだ効果なのかによって、戦略は当然変わる。「なぜ日本は変われないのか」といった精神論ではなく、こうした検証に繋がる議論を喚起するのが報道の役割ではなかろうか。 
 同番組のアンバランスさは、昨年10月の再生可能エネルギー、特に太陽光発電の普及に関する特集でも見られた。有識者として招いた飯田哲也氏が、九州電力管内に複数の太陽光発電に投資している投資家であることは、公開資料で確認できる(資源エネルギー庁「FIT制度・FIP制度再生可能エネルギー電子申請」のサイト)。番組内で彼は、九州電力や中国電力管内の出力抑制に触れ、「ヨーロッパとかではもっと太陽光発電や風力が多いのに、これを止めずに吸収できる仕組みを電力の中で作っている」として、日本でも出力抑制の回避策を採ることを求めている。しかし欧州等でも出力抑制は行われているし、調整力となる火力発電を過度に抑制するなどすれば、電力安定供給上のリスクを高めることとなる。九州電力管内の太陽光発電に投資している立場を明らかにせず政策提言させることを、NHKはどのように考えているのだろうか。
 再生可能エネルギーの出力抑制について、未だに「再エネの電気を捨てている」として非難する報道も多い。例えば2月10日に朝日新聞に掲載された「『国にはしごを外された』再エネ出力抑制急増 拡大の足かせに」がそれだ。しかし、電気が同時同量を保たねばならない財である以上、需要が無い時に発電することは出来ない。再エネの拡大に伴って、先に出力抑制をする火力発電の稼働率が低下し、休廃止する火力発電が急増したことで供給力(kW)不足が目下の課題となっている。需要が無い時に発電を抑制することは、発電事業の基礎中の基礎であり、出力抑制をすることで更なる再エネの受け入れも可能となる。いまだに「再エネは既存電力や政府からいじめられている」というポジションをとった記事が、再エネの拡大に寄与するとは、筆者には思えない。
 再生可能エネルギー導入政策はこれまで、事業者の性善説に立って設計されてきた。しかし、地域での自然破壊などさまざまな課題も引き起こし、更なる再エネ拡大の最も大きな障壁は、国民、地域住民の理解と協力を得られなくなっていることだと感じている。再エネのメリットばかりを強調し、事業者の性善説に立った制度設計を促してきた報道にもその責任の一端があることに、そろそろ気が付いてもらいたいと思う。

まとめとして

 いくつか直近で目についた報道の妥当性について検証したが、これらは氷山の一角、大海の一滴であり、むしろここで取り上げる気力も湧かないという記事も多い。電力問題・原子力発電に関しては不正確な報道が極めて多いのだ。
 政府や大手企業に対して批判的検証を行うのが報道の役割であることは理解しているが、事実に基づく批判であるべきことは言うまでもない。被災された方の不安を煽ったり、大型の従来型電源と再エネの対立構造という古典的な構図に立つ報道は、むしろ日本のエネルギー転換を遅らせることを懸念する。
 これまで政府やエネルギー事業者が情報発信に積極的ではなかったことは反省すべきだが、近年その姿勢も変化している。賢明な皆さまにはぜひ公的機関や事業者が出している直接的な情報に当たることをお勧めするし、報道関係者の皆様にはそれらの発信の中にある事実を踏まえたうえで、電力問題・原子力発電について、建設的な批判をお願いしたい。そして、日本で「エネルギー教育」を定着させていくべきであることを強く主張したい。

*1
なお、能登地震の被災地には、大手電力会社だけでなく、スタートアップ企業からも多くの支援が寄せられている。筆者が分散型インフラの構築に向けた取り組みの中で知己を得た、小規模分散型水循環システムの技術を持つWOTA株式会社や、名古屋工業大学北川教授が提供するインスタントハウスなどの活躍にも心から敬意を表したい。
【参考資料】
1)
電気事業連合会「能登半島地震による各原子力発電所への影響について」
https://www.fepc.or.jp/sp/notojishin/
2)
北陸電力株式会社「令和6年能登半島地震関連情報 停電・志賀原子力発電所等」
https://www.rikuden.co.jp/power_generation/noto_earthquake.html
3)
北陸電力株式会社「読売新聞社に対する当社の抗議内容について(2月5日掲載)」
https://www.rikuden.co.jp/opinion/index.html?1707108232
4)
東北電力株式会社
https://www.tohoku-epco.co.jp/information/1238940_2521.html
5)
中部電力パワーグリッド「防災の取り組み 他の電力会社への応援派遣体制(プッシュ型応援派遣)」
https://powergrid.chuden.co.jp/anteikyokyu/setsubi/bosai/
6)
産経新聞「能登半島地震で太陽光パネルに被害相次ぐ 和歌山の山林火災では消防士が感電の危険」2024年1月18日
https://www.sankei.com/article/20240118-SWD4RJ6DUJM2HKNG73WSTTVBKM/?fbclid=IwAR3mCUJXQqmrnFlfg0oNmspgXjZBxBpcgxX4FRdy1moV0TUslD-tZMfQ5Qo
7)
ATOMICA「耐震重要度分類」
https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_2699.html
8)
電力中央研究所社会経済研究所 後藤久典氏「日本の電気事業の災害対応状況(東日本大震災を中心に)」公益事業学会政策研究会シンポジウム「パラダイム転換期のエネルギー事業構造の再構築」中間報告
https://www.jspu-koeki.jp/sinpo/docs/20120229_5_goto-shi.pdf
9)
原子力規制委員会「令和6年能登半島地震による原子力施設への影響及び対応」
https://www.nra.go.jp/nra/kaiken/r6noto_earthquakedisasterresponse_atomicfacility.html
10)
内閣官房 GX実行会議(第9回)資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai9/index.html

【取り上げた報道】
1)
日本経済新聞「電力供給、進まぬ分散 大手寡占で災害時にリスク
送配電網、参入少なく 蓄電池コストなど重荷に」2024年1月24日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77900690T20C24A1EP0000/
2)
NHK「志賀原発 モニタリングポスト欠測“通信障害が原因か”対策へ」(2024年2月7日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240207/k10014350531000.html
3)
NHK クローズアップ現代
放送30周年 年末拡大SP「国谷裕子×桑子真帆〜激動の時代を越えて〜」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4860/#p4860_14
4)
2023年10月4日 電気代の不安▼住宅用太陽光パネルで“創エネ”暮らしどうなる?
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4830/
5)
朝日新聞「『国にはしごをはずされた』 再エネ出力制御急増 拡大の足かせに」2024年2月10日
https://www.asahi.com/articles/ASS296KBTRCXTIPE01N.html/