提言「GX実行会議の計画に沿った次期エネルギー基本計画を策定せよ!」

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【状況認識】

■世界の分断・対立の長期化の中、我が国のエネルギー安全保障強化が最重要課題に

  • 我が国のエネルギー危機は、2015年に始まった欧州主導の気候変動対策を無批判に受け入れ、2016年からの行き過ぎた電力全面自由化が大きな契機である。その結果、再エネ偏重と化石燃料排除の国際動向を受けて電力供給危機が急速に進展した。
  • 2022年冬・夏の異常気象が追い打ちをかけ、電力供給危機(予備力激減、節電要請、火力復旧での綱渡り)が顕在化し、国民生活と経済活動に大きな混乱と悪影響を与えた。
  • 上記に加えて、ロシアのウクライナ侵攻という暴挙により国際秩序が破壊された結果、天然ガス等の価格が急騰し、世界はエネルギー資源の争奪戦に突入した。さらに、対ロシア経済制裁で世界経済の不透明感は一層増幅し対立と分断の構造は長期化の様相を呈している。その結果、欧米諸国の現下の最大関心事は「エネルギー安全保障と経済安全保障の同時強靭化」であり、日本も例外ではない。

■日本の原子力政策大転換の意味は大きい

  • 政府は、この危機的状況を乗り越えるべく、2022年7月にGX実行会議を立ち上げ、「原子力再稼働加速、新増設リプレース/次世代革新炉の開発建設、運転期間延長、バックエンド対策推進」の4項目からなる原子力政策大転換を表明。これは東電福島原発事故以来の政策の漂流に終止符を打ち、原子力の持続的最大限活用によりエネルギー安全保障の一層の強化を目指す政策の大転換と高く評価できる。
  • この政策大転換を後戻りせず着実に遂行すべく、政府は2023年2月、エネルギー関連の5つの法改正案を閣議決定。原子力基本法に「地球温暖化の防止」、「福島第一原子力発電所事故を真摯に反省」の文言を追加し、原子力発電利用の価値を明示したことは原子力の持続的利活用の観点から意義深い。
  • 一方で政府は、電力需給逼迫と脱炭素に向けた取り組みを進めるために、原発の活用が不可欠としていながら、「可能な限り原発依存度を低減する方針」は変わらないとしており、これでは国民や産業界の理解は得難い。真摯で合理的な説明が求められる。
  • 高レベル放射性廃棄物の最終処分は、再稼働加速・新増設・リプレースの推進と不可分の課題であり、政府が前面に立った具体的行動が不可欠である。又、東電福島原発事故の傷跡は社会に重くのしかかっており、廃炉促進、処理水放出、福島地元復興等の諸課題の着実な解決が求められる。

【原子力の持続的活用に向けた主要な課題と解決策】

■国民、住民の理解・協力が大前提である

  • メディア等による国民意識調査によれば、原子力に対する世論は好転している。昨年末のNHKの世論調査では、原発再稼働・新規建設に賛成(45%)が反対(37%)を上回った。関係者の地道な取り組みの表れと言える。
  • 再稼働した原子力プラントは国民、住民に受け入れられ、安定・安全運転を継続している。九州電力の再稼働した原発4基の設備利用率は91.4%に達し(2021年)、安定供給、料金抑制、脱炭素に大きく貢献している。
  • 政府・電力は、原子力の真の実力と価値を国民に繰り返し説明し、理解を得ることが肝要である。

■GX実行計画と整合する第7次エネ基の策定が急がれる

  • GX実行計画に凝縮された原子力政策転換が第7次エネ基にどのように反映されるか国民が注視している。次期エネルギー基本計画で検討すべき重要ポイントは以下の通り。
第6次エネ基では、根拠を示すことなく「再エネ主力電源化」と「原子力の依存度低減」を併記した。第7次エネ基では、「原子力の依存度低減」を削除し、「新増設、リプレース」による持続的最大限活用を明記することが、GX実行計画との整合性の為にも肝要である。我が国に相応しいエネルギーミックスを改めて追求すべきである。参考までに、我々有志が提案している「調和電源ミックス提言」の結論を図1に示す。

図1:調和電源ミックス説明図
出典:2050年に於ける電力安全保障と脱炭素社会を目指して
~再生可能エネルギー・原子力・火力調和電源ミックス~
(牧英夫、新田目倖造、金氏顯、早瀬佑一他2022年6月)
調和電源ミックス提言(本文)のURL:http://www.engy-sqr.com/media-open2/20220615maki-honnbunn.pdf

エネルギー計画策定には、100年オーダーの長期構想をベースにしたうえでエネルギインフラ整備に必要な20~30年スパンの計画が不可欠である。第7次エネ基は、2050年を目標年に置き、そこに至る総論ではなく、各論の実行計画が望まれる。エネルギー基本政策を画餅に終わらせないために、基盤的・横断的施策を最後まで責任をもって担務しつつ省庁縦割りを脱却して立地自治体・産業界と連携し確実に遂行する強力な司令塔機能が必要である。

以上に述べた「状況認識」並びに「原子力の持続的活用に向けた主要な課題と解決策」に照らし、以下の提言を発信する。

<提言その1第7次エネルギー基本計画では政策目標と道筋を示せ!>

2050年の数値目標と経過目標も併せて明示せよ

  • 第7次エネ基では、2050年を目標年とし、責任ある数値目標と実行計画を示すことが求められる。目標は単なる数字の辻褄合わせではなく、克服すべき諸課題について具体的対策に深く踏み込んだ10年単位の経過目標も併せて明示することが国民理解の観点からも必要である。

「再エネ主力電源化」を見直し、「脱炭素電源の早期主力電源化」を謳うべし

  • エネルギー資源貧国であり経済大国である日本の最優先課題は、エネルギー安全保障の強化を世界のエネルギー情勢に翻弄されずに堅持することが第一命題である。その上で、国際公約である2050年CNへの挑戦を続けることである。
  • 第6次エネ基では、2050年CNに向け無謀とも言える「再エネの主力電源化」を掲げ、原子力・火力を過小評価した。第7次エネ基では、安定供給・脱炭素・コストで優位に立つ脱炭素電源である「原子力+再エネ」を21世紀の主力電源に位置付けることが肝要である。
  • 尚、「原子力+再エネ」だけで全需要を賄うことは現実的ではなく70%程度が限界であろう。再エネのバックアップ電源として脱炭素火力も含め責任ある計画策定を求めたい。

原子力の持続的活用を実現する基盤的施策の明示が重要だ

  • 60年運転を実現しても、21世紀後半には大半の既設原発が廃炉を迎える。原子力の継続的活用には60年超運転並びにタイムリーな新増設リプレースの実現が鍵である。(図2参照)
  • 新増設・リプレースには、これまでの60基に及ぶ豊富な建設・運転・保守経験を最大限に生かせる革新軽水炉を中核として、運転サイクル延長による稼働率向上(目標90%)や定期検査の合理化(運転中検査の実施)等のさらなる生産性向上により原子力の価値を高める努力を求めたい。
  • 新増設に関する政府方針は廃炉同一サイト内のリプレースに限定しているが、将来予想される増設ニーズを視野に廃炉同一サイトに拘らない柔軟な立地政策を求めたい。

図2:既設プラントの設備容量の変化
出典:原子力小委員会配布資料(資源エネルギー庁、令和4年2月24日)

<提言その2原子力の持続的活用の具体策の提案>

政府は再稼働の促進、新増設・リプレース着手、廃棄物処分地選定加速に前面に立て

  • 政府(官邸・総理大臣、経産大臣)が、立地自治体に直接赴き、首長、議会、市民に誠意をもって要請する決意と努力を求めたい。

原子力発電の実績と価値を示し、社会的受容性の改善に取り組め

  • 10基の再稼働プラントは安全対策を徹底的に強化し、脱炭素・廉価電源として安全・安定運転を実現している。政府・事業者は、この実績と価値を国民に分かりやすく示し理解を得ることが肝要である。
  • エネルギー問題は世代間にわたる長期の問題であり、学校教育の充実も必要である。

原子力事業の持続性を強固に支援する制度改善を急げ

  • 新増設・リプレースについて、事業者が予見性をもって合理的に経営判断ができる環境整備を政府がリーダーシップを発揮して推進することが欠かせない。
  • 電力料金抑制を狙った電力自由化政策は所期の効果をあげておらず、逆に電力安定供給に大きな支障となっている。事業者には安定供給義務が課されておらず、市場競争に生き残ることが最大の経営課題であることに起因している。この公益事業としての不合理を是正するため、一般電気事業者に供給予備力確保(8%)を義務づけるとともに、インフラ投資回収を可能とする制度を整備するなど、原子力事業と自由化が両立する日本型システムを模索すべきである。

原子力安全規制行政の改革が急務だ

  • 現状の原子力安全規制行政は、審査の効率を軽視した予見性の乏しい審査業務に埋没しており、原子力の合理的利活用を大きく阻害している。再稼働審査に11年もの長期間を費やしてもいまだ決着がつかない事例は(北海道電力泊発電所3号機)、民主主義国家の行政通念から見て言語道断の異常状態と言える。
  • 規制当局(原子力規制委・規制庁)は、業務合理化・迅速化・効率化に自ら努めるべきであることはもちろんであるが、この際、規制行政を評価・監視する独立した第3者監視組織の設置を求めたい。