原発の電力で水素製造


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 原子力発電所は、発電するときに化石燃料を使用しないために、地球温暖化ガスであるCO2を排出しない。この原発からの電力や高温熱を使って水素を製造しようとする試みが世界各地で始まっている。

 最近報じられたものだが、ニューヨーク州のオスウエゴ(Oswego)にあるナイン・マイル・ポイント原子力発電所(1,907MW)では、電力で水を電気分解する方式で水素が製造されている。これに使われる電力は1MWだが、現時点で米国唯一の原発利用による水素製造だ。このプロジェクトは米国のエネルギー省(DOE)とコンステレーション・エナジー社が協力して推進しているもので、1,450万ドルをかけて安定的に安価な水素を大量に製造できることを実証しようと、この2月から稼働を始めている。この設備で製造された水素は、原発の冷却に使用される。これまで冷却に使われていた水素は、トラックで外部から持ち込まれたものだったが、これで水素が発電所内で自給できることになった。コンステレーション・エナジー社は、この成果を見て、商業ベースの原子力利用による水素製造を広げようと考えている。

 脱炭素時代のエネルギー源として期待される水素だが、現在市場で流通している水素の大半は天然ガスと石炭から取り出す化石燃料由来の「グレー水素」あるいは「ブラウン水素」だ。1キログラム当たり1ドルから3ドル程度と安価だが(ただし、ロシアによるエネルギー危機により今の価格は上昇している)、製造過程でCO2を排出する。再生可能エネルギーで発電した電気で水を電気分解して製造する「グリーン水素」は、国際エネルギー機関によるとCO2を出さないものの製造コストが1キロ当たり1.3ドルから4.5ドルかかるとされている。普及により電気分解装置の価格が下落し、グリーン水素のコストが下がるまでの間、グレー水素などの製造過程で出るCO2を回収した「ブルー水素」も利用されるとみられている。

 だが、原発の電力を利用した水素製造について、国際原子力機関(IAEA)の試算では1キロ当たり2.5ドルで、いつも発電できないため電解装置の利用率が下がる再エネからの電気を利用するよりもコストが下がるとみられ、安定して大量の電気をつくる原発の強みが生きることになる。米国エネルギー省(DOE)は21年、今後10年以内に同1ドル以下とする目標を掲げ、積極的に補助金を出している。冒頭に述べた、コンステレーション・エナジー社のプロジェクトもその一環だ。

 こうした中、原発の電気で製造する水素は「イエロー水素」、「ピンク水素」あるいは「レッド水素」と呼ばれ、低コストと脱炭素を両立する技術として期待がかけられている。国際エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロ・シナリオでは、水素の消費量は30年に2億1200万トンと20年実績の2.4倍に、50年には5億2800万トンと同6倍に増加する。移動手段や製造業の脱炭素化で需要が増えるとしており、現在の石油や天然ガスに近い位置づけになる可能性もある。

 日本では、昨年末の22日、関西電力が敦賀市の協力を得て、原子力発電所で発電した電力を使いCO2フリーの水素を製造する実証実験を報道陣に公開したが、実証は敦賀市公設地方卸売市場の敷地内に設置している「水素ステーション敦賀」で進められる。世界の動きからすると若干遅れ気味だが、今後に期待したい。

 また、九州電力や四国電力で、原発の出力抑制がしにくいため、快晴時に太陽光発電からの電気が余剰となる悩みを抱えているが、原発の出力の一部を使って、発電所内で水素を製造すれば、送電系統に送り出す電力が減ることになるから、原発の出力抑制と同じ効果を出せるはずだ。水素時代に備えて原発の役割を多様化できるのではないだろうか。

【参考サイト】

1)
https://www.renewableenergyworld.com/hydrogen/new-york-nuclear-plant-now-producing-green-hydrogen-in-first-for-the-u-s/