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【提言】革新軽水炉の初号機2030年代半ば運転開始に向け、即時着手を!


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(「日本原子力学会シニアネットワーク連絡会 提言活動」より転載

【提言と詳細説明】

■2011年東電福島第一原子力事故以来我が国の原子力発電所新設の動きは停止し、いまや原子力発電技術・サプライチェーンは崩壊の危機にある。新設プラントの設計・建設の体験を有する人材やサプライチェーンがまだ残っている今、直ちに着手する必要がある。
 そうした中、2022年8月24日、GX(グリーントランスフォーメーション)第2回実行会議で岸田首相が「次世代革新炉の開発・建設」を検討する方針を明言したのは英断であると高く評価する。

■GX実行会議における次世代革新炉としては、原子力小委員会革新炉WGにおいて革新軽水炉、小型軽水炉、高温ガス炉、高速炉、核融合炉が掲げられている。
 これらのうち2050年に向けて直ちに新増設・リプレースに取り組むべき革新炉としては、多くの建設・運転と再稼動安全審査の実績がある軽水炉をベースとすることが、その経験の蓄積ある人材とサプライチェーンの維持活用の点からも最適である。従って、本提言においては、第三次改良標準化で開発したAPWRおよびABWRを基本とし、原子力規制委員会の新規制基準に適合し、さらに革新的な安全性と経済性の向上を取り入れた世界最高水準の革新軽水炉を対象とする。

■革新軽水炉としては、まず三菱重工がGX実行会議後の9月29日に発表した「SRZ1200(PWR,1200MWe)(1)」がある。三菱重工はPWRを採用している4電力(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で、従来の加圧水型軽水炉に更なる安全性などを備えた革新軽水炉「SRZ1200」のプラントコンセプトを確立し、今後基本設計を進めると発表した。(注:名称の“SRZ”の意味は、S:Supreme Safety(超安全)、Sustainability(持続可能性)、R:Resilient(しなやかで強靭な)light water Reactor(軽水炉)Z:Zero Carbon(CO2排出ゼロ)で社会に貢献する究極型(Z))
 2022年10月24日の原子力小委員会第5回革新炉WGにて発表した「三菱革新軽水炉開発の取組み」において、「SRZ-1200」の特徴は次のように説明されている。

地震・津波その他自然災害への対応を強化
強靭化した外部遮蔽壁と鋼製格納容器による2重構造の採用などの大型航空機衝突への対策や、最先端技術を活用してサイバー攻撃への対応などテロ対策を強化
パッシブ・アクティブ設備のベストミックスにより確実かつ速やかに事故収束し、安全性を向上
万一の炉心溶融時でも原子炉容器から落下する溶融炉心を下部にある専用ピットで受止め、専用の拡散槽内へ薄く拡げ、外部水源からの注水により溶融炉心を格納容器内で保持・冷却するコアキャッチャーを採用
万一の格納容器ベント操作時においても放射性希ガスを分離・貯留し、事故影響を発電所敷地内に留める放射性物質放出防止システムを導入
ベースロード電源の役割に加え、火力発電が担ってきた再生可能エネルギー拡大に伴う出力調整・系統安定化にも対応できる出力調整機能を強化、また出力調整の代わりに余剰電力を活用した水素製造も可能

■次に、日立の「次世代ABWR(2)」がある。
 日立は2017年12月に英国原子力規制局から次世代ABWR(1350MWe級改良型BWR)の包括的設計審査(以下、GDA)の完了を示す確認書と声明書を受領した。次世代ABWRは、わが国の新規制基準の採用を基盤とし、欧州における規制要求を満たす設計改良を加えた国際標準設計である。BDA審査には約5年を要し、安全性、セキュリティー、環境保護、廃棄物管理、経済性などの観点で高い基準を満たしていることが認められたものである。
 2021年9月のSNWシンポジウムにおいて日立GEはABWR国際標準設計の特徴を次のように述べている。

過酷事故対策
専用建屋からの代替注水・電源供給
航空機衝突対策としての原子炉建屋強化、制御建屋を防御する建屋配置
区分分離配置による安全系のN+2化(必要系統数+2)

 国内の新増設に向けては更なる安全性向上と改善が追加されている

■また、東芝エネルギーシステムズは革新炉として東芝次世代BWR「iB1350(BWR1350Mwe)(3)」を発表している。

■革新軽水炉に共通の目標性能を【注記-1】に示す。

■これらの革新軽水炉の基本計画はほぼ出来上がっており、基本設計が進められている。一方、2016年以来、政府は電力システム改革を推進し、電力市場が自由化され、さらに送配電分離がなされたために原子力新設の投資環境は一変し、新たな体制整備が必要である。また、新設原子力の許認可体制の整備も必要である。
 そこで、まずは革新軽水炉の初号機を2030年代半ばに運転開始することを目標として、関係機関の総力を結集し、即時着手することを提言するものである。

【提 言】

【提言-1:革新軽水炉「初号機プロジェクト」の提案】
 革新軽水炉の初号機としては既に基本計画が進められているPWR、BWR各1基を対象として、2023年から開発・設計・建設の具体化に着手し、2037年に運転開始することを国、規制当局、電気事業者、原子炉メーカーの共通の目標とする「初号機プロジェクト」を提案する。

■「初号機プロジェクト」の必要性

我が国の原子力業界サプライチェーンは衰退し、崩壊の危機にあるが、図1の上段に示す国の強力な支援があれば今なら再起可能であり、また最後の機会でもある。
欧米では10年以上の新設空白の後、2000年初頭から4基の初号機原子力発電所建設が開始された。しかし、規制の対応遅延やサプライチェーンの崩壊等による品質問題等が続発し、全てのプラントにおいて建設期間の大幅増加(2.5~3倍)と建設費の大幅増加(3倍以上)という結果となった。(6)~(9)【注記-2】
福島第一原子力発電所事故以降、我が国の原子力発電所建設を取り巻く環境はサプライチェーンの崩壊のみならず、原子力規制の変革、電力システム改革等大きく変貌している。従って、今後新増設・リプレースを目指すに当たっては、欧米の事例を他山の石とし、我が国の改良標準化の成功体験も参考にし、各関係機関は一致協力し諸々の環境変化に対応して制度設計や環境整備を行うことが肝要である。

■国に期待する主な内容は下記の通りである。

原子力を将来にわたって持続的に活用する「基本方針の発信」
原子力発電施設建設投資を促すための「投資回収支援制度」
新増設・リプレース目標達成に向けた「規制の早期整備・効率化体制」
使用済み燃料・放射性廃棄物・廃炉対応のための「バックエンド問題対応強化」
安全性向上の開発やサプライチェーン再構築に向けた資金援助

■民間企業においては、電気事業者及び原子力プラントメーカーが中心となって開発および建設に国内企業の総力を結集する必要がある。

■2050年までに必要な新増設・リプレース設備容量【注記-3】

2050年の年間総発電量を第6 次エネルギー基本計画に基づき現状の約1.4 倍の1400TWhとし、「調和電源ミックス」(5)によりその1/3 を原子力で賄うものとする。
2050年までに必要な新増設・リプレースの原子力発電設備容量・基数は、運転期間60年と80年の二つのケースでそれぞれ28基、18基である。

2030~2050年における16~26 基の建設を成功させるためには「初号機プロジェクト」を遅滞なく実現させることが鍵となる。
以下、【提言-2】~【提言-5】に「初号機プロジェクト」を成功に導くための各機関への
提言詳細を述べる。

【提言-2:国への提案】

原子力の持続的活用方針の発信
GX 実行会議における原子力を将来にわたって持続的に活用する方針を閣議決定し、第6次エネルギー基本計画に代わるものとしていただきたい。
原子力施設立地自治体の持続的発展を支援し、円滑な会話を継続していただきたい。
【提言-1】で提案した革新軽水炉の「初号機プロジェクト」を国のプロジェクトとして明確に位置付けていただきたい。
「初号機プロジェクト」においては革新的な技術の実証試験等に開発費用およびサプライチェーン再構築資金が必要になるので国の支援として「GX 経済移行債(仮称)」の適用を期待したい。
原子力発電施設建設には大規模の資金が必要となる。特に初号機の建設においては建設費の増加リスクが高いため、資金調達や料金体系において国の制度設計が不可欠である。
原子力発電所の建設費は建設工期にほぼ比例すると言っても過言ではない。その視点から安全審査の予見性が極めて重要であり、規制プロセスの監視および苦情申し立てなどの制度導入等の対策を検討願いたい。
原子力事業の予見性を高めるために、使用済み燃料の再処理、高レベル放射性廃棄物の最終処分、商用炉の廃止措置の処理処分等バックエンド課題解決に向けて国が前面に立って取り組むための体制を強化願いたい。

【提言-3:原子力規制当局への提言】

設置許可申請の受理後、直ちに円滑、迅速な審査ができるよう今から必要な準備(審査基準や審査データの整備等)に取り組むことが重要である。
我が国のエネルギー安全保障に関わる「初号機プロジェクト」のスケジュール確保のため許認可審査効率の向上が必要であり、特に下記の諸点が重要である。
・人材の増強と能力向上
・審査スケジュールの管理のために標準審査期間の設定と順守。
・審査の迅速化のために専門部会の活用の拡大。

【提言-4:電気事業者への提言】

革新軽水炉初号機(PWRおよびBWR各1基)、及び後続プラントの建設(16~26基建設)の立地地点の選定、大工程の策定などについて、地元並びに国との計画の早期構築が必要である。
原子力発電には大規模な投資が必要であり、その投資に伴って長期間に亘る電気料金のリスクを伴う。これらを解決するためには、広く社会の同意を得つつ、国と電気事業者で国益に沿った方針を協議し、必要な制度を構築する必要がある。
島根3号、大間や東電東通1号機の建設再開は、2011年以来途絶えている電気事業者の新規原子力建設、スタートアップの人材育成、また原子炉メーカーの人材並びにサプライチェーン再構築に大変効果的であり、遅れている原子力規制委員会の審査の迅速化に尽力していただきたい。

【提言-5:原子炉メーカーへの提言】 【注記-1】、【注記-3】

【提言-1】で述べた近年の欧米の初号機建設プロジェクトの失敗事例を当該のメーカー等にヒアリングすることも含めて、事例をより詳しく調査し、その教訓を初号機の開発・建設に反映していただきたい。
世界最高水準の革新軽水炉を実現することは原子炉プラントメーカーの責任であり、常に世界最先端の原子力技術動向を注視するとともに安全性や信頼性向上の研究開発、実装に尽力していただきたい。
わが国の商用軽水炉建設は1965年頃から始まった。現在の原子力建設に必要なサプライチェーンは、1965年時点の白紙状態にあると考えて取り組む必要がある。

【注記】

【注記‐1】: 革新軽水炉に期待される目標性能

日本原子力学会「次期軽水炉の技術要件について」
 日本原子力学会は近い将来の新増設を念頭に置き、産業界と一体となり「次期軽水炉の技術要件について」を取り纏めた(4)。図1にその概要を示す。
 目指すのは、基本設計の段階から安全性向上のための技術要件を合理的にシステムに織り込むことにある。この技術要件は、APWRおよびABWRに共通して適用でき、既にSRZ1200などの基本コンセプトに反映されている。

世界最高水準の安全性の織り込み
 地震・津波その他自然災害への対応強化、大規模航空機衝突・テロ対策強化、シビアアクシデント対策としてのコアキャッチャーおよび放射能放出防止システム等、サイバーセキュリティ強化などの革新的安全技術など。
経済性の更なる向上
 設備利用率の大幅向上(現状70%⇒目標90%、長期サイクル運転、定期検査期間の短縮などによる)、建設工期の必達(例えば6年以内。品質保証体制の完備、規制当局の理解が不可欠)、使用期間60年超。
運転柔軟性向上
 50⇔100%日負荷追従運転。(変動再エネ導入拡大に備えた機能)

【注記-2】米国・欧州の原発新設再開における誤算
 欧米では10年以上の新設炉空白の後、2000年初頭から4基の第3世代大型軽水炉初号機の建設に着手した。図2は2020年に公開されたOECD NEAレポートからの情報に基いてその概要を取り纏めたものである。

建設工期は当初計画から2.5~3 倍以上、建設費はわが国の過去の実績およびUAE・ロシア・中国に比べて3 倍以上となっている。
その主原因は新増設空白期間長期化に伴うサプライチェーンの崩壊とされている。サプライチェーンの崩壊は人材の枯渇による品質保証体制の瓦解を意味する。原子力発電所建設の場合は品質問題が発生する度に許認可を必要とするため、建設工期が大幅に伸びる。
設計・調達・建設(EPC)コストの大部分は間接費である。間接費の大部分は人件費であるから、規制当局による許認可の効率、労働生産性を高めるためのプロジェクトマネジメント、資金コストなどが極めて重要になる。
原子力発電所建設に必要なサプライチェーンは原子力プラントメーカを支える約400 の企業から構成されている。その一つ一つの企業の品質保証体制を着工前に確認し、再構築するのは原子力プラントメーカーの責任である。
ここに取り上げられている4基の近況は下記の通りである。
*Vogle3 号(AP1000、110 万kWe、2013 年着工):2023 年第1 四半期運開予定
*Vogle4 号(AP1000、110 万kWe、2013 年着工):2023 年第3 四半期運開予定
*Olkiluoto3 号(EPR、172 万kWe、2003 年着工:2021 年12 月21 日臨界
*Framanville3 号(EPR、163 万kWe、2005 年着工):2023 年第2 四半期運開予定

【注記-3】2050年に必要な原子力発電設備容量

既存炉の発電設備容量
・2022年9月現在において再稼働を予定している既存炉は36基である。
・全てが使用期間60年になると仮定した場合、2050年における既存炉の発電設備容量は図3に示す様に25.4GW である。
・使用期間が80年になると仮定した場合、2050年に於ける既存炉の発電設備容量は図4に示す様に37.3GW となる。


革新軽水炉の新増設必要設備容量
・2050年までに新増設する必要がある設備容量試算に当たっては、下記条件を想定した。
年間総発電量=1400TWh、
原子力の導入率=1/3、
設備利用率=90%
革新軽水炉の発電設備容量=1250MWe(APWR とABWR の平均値)

・得られた結果は下記の通りである。

『調和電源ミックス』(5)の提案
・2050年においてカーボンニュートラルを目指す電源ミックスとして 図5に示す再生可能エネルギー1/3、原子力1/3、火力(CCUS)1/3 からなる『調和電源ミックス』を提案する。この電源ミックスは電力安定供給、経済性、我が国の再生可能エネルギー資源の3 点を定量的に評価して得た結論である。
・再生可能エネルギー導入率を1/3 程度までに拡大すると、発電コストが34~60%程度増加する。わが国の産業力を堅持するためには今後のコスト低減も期待して、この程度が適切と判断した。
・原子力は実績のあるクリーンエネルギーであり、火力は再生可能エネルギー導入拡大に欠かせない。そのため、原子力に1/3、火力に1/3 を割り振った。

(1)
三菱重工ニュース2022-09-29 革新軽水炉「SRZ-1200」について
innovative_next_generation_pwr.pdf
(2)
安全性・経済性を高めた次世代原子力プラントの開発設計“久米正、日本原子力学会シニ
アネットワーク第21回シンポジウム講演資料、2021.9.15
(3)
”東芝エネルギーシステムズの革新炉への取組み“、原子力小委員会第1回革新炉ワークンググループ、2022.4.20.
(4)
“次期軽水炉の技術要件”日本原子力学会原子力発電部門「次期軽水炉の技術要件検討」ワーキンググループ、2020.6
(5)
“2050年における「調和電源ミックス」の提案”、牧英夫、金氏顯、エネルギーレビュー2022.10.
(6)
SNW#21回シンポジウム2021.9.15.(講演-3)次世代軽水炉新増設・リプレースに向けた条件整備と提言、金氏 顯、シニアネットワーク連絡会 (aesj.or.jp)
(7)
“Unlocking Reductions in the Construction Costs of Nuclear : A Practical Guide for Stakeholders” OECD 2020,NEA No.7530, Aug. 17,2020
(8)
“原子力建設コストの抑制に向けて”村上朋子、エネルギーレビュー、2020
(9)
“仏 EPR 開発、失敗の系譜”黒田雄二、エネルギーレビュー、2020.4