提言 「安定供給と脱炭素、我が国は独自の道筋を果敢に拓け!」

~欧米主導の環境優先主義に靡くことなく化石燃料との早期決別を急ぐな!~

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現状認識と本提言の狙い

化石燃料が世界のエネルギー消費を支えている!

 現状、全世界の一次エネルギー消費の約80%は化石燃料で賄われている。我が国の総発電量の約70%が火力発電である。化石燃料、取り分けLNGと石炭は資源のない我が国にとって貴重なエネルギー資源であり、現状、火力発電は安定供給の枢要な部分を占めており今後も一定の火力は必要である。地球レベルの脱炭素の試みは技術開発、投入費用、時間の観点から人類史上類を見ない壮大な挑戦であることを覚悟すべきである。

化石燃料との早期決別は世界の最優先課題ではない!

 欧米では脱炭素・水素社会の実現に向けた取り組みが精力的に展開されているものの、独善的且つ排他的な脱炭素価値の押しつけにより世界の分断と対立が先鋭化している現実がある。パリ協定締約国が相互協調の精神を共有しつつ自主努力を持続的に進めるためには国毎のエネルギー事情と経済状況を考慮した「脱炭素段階的移行プログラム」の合意形成が必要である。
 化石燃料との早期決別はロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー安全保障の重要性が再認識された今日、国際社会全体としの最優先課題ではない事は明白である。因みに、習近平は2022年の共産党大会で「我が国は脱炭素電源が整備されるまでは石炭火力発電でエネルギー供給を頑張る。当面は石炭の確保と火力発電の建設を加速する!」と述べている。中国の脱炭素に係わる内外への基本姿勢の公言は参考とすべきである。

地球平均気温は今世紀末までは上昇を続ける。2050CN達成は妄想!

 OECD加盟国の多くは2050CNを目標としている。一方、OECD非加盟国であり大量のGHG排出国である中国(2060CN)/ロシア(2060CN)/インド(2070CN)は事実上2050年頃までのGHG排出を公言している。2022年の大気中のCO2濃度は既に420ppmに迫っており平均気温上昇2℃未満を達成するに必要な450ppm以下への抑止は極めて困難である。
 仮に中・露・印の排出量が2040年頃までにピークアウトしOECD主要国が2050CNを達成しても、CO2濃度は2050年以降も上昇を続け平均気温上昇は続くと考えられ、息の長い持続的な取り組みが必要である。

日本が電力安定供給/脱炭素を模索する中、当面は火力発電が命綱である!

 安定供給構造の構築のためには「喫緊の電力需要急増への供給対応策」と「原発の新増設など長期のエネルギー安定供給体制の構築に向けた対応」があり、脱炭素の取り組みを並行して着実に進めることが肝要である。2050年電力需要が2030年の約1.5倍(1,400TWh)になるとの予測もあり、仮にすべての需要を脱炭素電源で賄うとなると、再エネ、原子力とも発電容量比率を倍増し、発電量では3倍程度に増やす必要がある。(付図14参照)
 原子力/再エネの拡大にはそれぞれ制約要因があり現実的には脱炭素電源だけでは2050年の電力需要を満たすことは困難と考えられ、一定の火力の役割が不可避と考えられる。この場合、火力発電に水素やアンモニアを混焼する方法やCCSによるCO2の地下貯蔵等による脱炭素化が考えられているが、2050年の時点では増大する変動再エネのバックアップを含め火力活用が不可避である。今後の本格的な社会実装・実運用に当たってはこれら火力の脱炭素化/低炭素化の実現性や経済性の課題解決が前提となる。


付図1 DXの進展による電力需要の増加予測(エネルギー白書2024より)


付図4 2050年原子力発電容量の想定

エリア別電力需要への対応
安定供給と脱炭素の同時達成に向けて脱炭素電源(原子力・再エネ)の主力電源化が望まれる。しかし電力需要はDXの社会実装推進・AI活用によるデーターセンター(DC)の急速な需要等に見合う需要地向け電力供給が必要である。各エリア別の脱炭素電源構成の実態と今後の需要想定を付図23に示す。(北海道・北陸・中国エリアは再エネ(水力含む)の割合が高い。関西・九州エリアは原子力の割合が高く、火力の割合が小さい。北陸・中国・四国・沖縄エリアは石炭火力の比率が高く、約50%が石炭となっている。)電力需要は特定地域でAIデータセンターや次世代半導体産業の誘致等により急増することも想定されるので調整力に優れた新鋭の低炭素火力の導入活用等の迅速で機動的な対応が求められる。
原子力の可能性
既設原子力発電所の早期再稼働に努めるべきであるが、一方、新設には地元折衝や許認可等の前捌きに時間が掛かる原子力は至近の需要急増への機動的対応は困難である。しかし原子力は長期のエネルギー安定供給と脱炭素のためには決定的に重要な電源である。「GX実現に向けた基本方針」での原子力政策大転換はかけ声倒れにする事無く、着実に実績を積み上げる持続的努力が必要である。
将来の自給率向上/安定供給/脱炭素を目指して今後必要となる原発の時間軸目標容量の想定を付図4付表1に示す。2050CN実現の為には原子力発電比率30~40%が必要で、新設炉の設備規模によるが最大40数基の新規建設が必要となる。新規建設には10年以上の準備期間が必要であり、建設着手は待ったなしである。
再エネの可能性
日本の洋上風力/太陽光は、中国・欧州・中近東の再エネ先進国と比べると立地条件が悪く主力電源化への道は容易でない。戦略的に高い目標設定は必要であるが根拠の無い楽観論や安易な導入計画が先行している事に注意が必要である。
太陽光、風力の制約要因は不安定性・変動性であり、蓄電池や火力によるバックアップ電源がないと安定電源に成り得ない決定的弱点がある。太陽光については設置面積当たりの発電量が少ないこと、並びに土地面積から導入量に制約があること、パネルなど設備の多くは中国製に依存するなど実態は解決課題が山積している事に留意して目先の数値目標を掲げるだけではなく慎重に実現可能性を検討すべきである。また、我が国は遠浅の海域がごく限られていることや洋上風力は設費/維持費が格段に高くなることから大幅なコストダウンが必要である。
火力発電の可能性
火力発電は今や環境主義者から嫌われものになっている感があるが経済大国・技術立国・資源貧国の我が国では安定供給電源として一定の役割を担っている現実を直視すべきである。
脱炭素電源の主力化を進める中にあって、再エネのバックアップ電源や基盤的電源の根幹的要素として、又予測不可能な事態へのリスク管理として一定の火力は国家方針として堅持すべきと考える。その上で、アンモニアや水素混焼などのゼロエミッション化へのモーメンタム向上と共にLNG・石炭などの化石燃料安定調達プログラムを発動すべきと考える。(全国の火力発電所の実態、今後の建設計画・廃止計画については付図5参照。)
現在、世界中で使われている交流電力網では、秒単位で需要と供給をバランスさせる必要があり(同時同量の原則)、過度な再エネ導入は停電頻発の危険性が増す。この調整力としての火力の果たしている役割を再認識すべきである。

 以上のことから、安定供給と脱炭素については欧米の環境優先主義に靡くことなく我が国独自の道筋を拓くべきであり、足元の状況を勘案すれば、調整力に優れた火力の活用が当面の安定供給の日本の命綱と考える。我が国は火力発電の高性能発電技術と環境負荷を極小化する最先端技術を保有しており、これら技術を駆使して低炭素火力発電の継続と途上国でのGHG削減と停電防止に貢献できるポテンシャルを有しているのは強みでありこの強みを有効に活用すべきと考える。


付図2 各エリアにおける脱炭素電源構成の実態
出所:第74回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 資料


付図3 エリア毎の電力需要想定(~2033年)
出所:電力広域的運営推進機関 全国及び供給区域ごとの需要想定(2024年度)


付表1 2050年における原子力発電量、概算設備容量と基数の想定


付図5-1全国の火力発電所の容量推移の実態
2016年度(小売全面自由化開始)と、2023年度における、火力の設備容量の推移を見ると、ここ7年間で1,600万kW程度減少している。 燃種別に見ると、石油等火力(約▲2,200万kW)・LNG火力(約▲300万kW)が減少。石炭火力は増加(約+900万kW)している。

出所:第74回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会


付図5-2 火力発電の休廃止計画(2022~2933)
2025年度以降は火力の休廃止が増加し、新増設を上回る状態が続く見込み。 また、2027~2033年度にかけては、現在より約200万kW程度火力の設備容量が減少する状態が継続する見込みとなっている。

出所:第74回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会

提言

総論:電力安定供給と脱炭素推進に向けた腹を括った国家方針の明示
G7各国のリーダーが次々と交代し国際政治の不確定要素が増大する局面が到来した。日本は、「国力を削ぎ落としエネルギー多消費型産業を海外へ追い出し、高いコストを掛けねば実現し得ない脱炭素政策は国民の望むところではない」ことを肝に銘じ日本独自の道筋を果敢に拓くべく外交・内政を展開する局面となった。欧米主導の環境優先主義と一線を画し、外交面では協調論理と対抗論理を使い分けてG7・G20・グローバルサウス諸国と対応するのが国益に叶うと考える。
電力安定供給が最優先
日本は世界トップクラスの経済大国・エネルギー消費国・産業立国として先ずは安定供給を最優先することの立場を公言すべきである。同時に脱炭素については国毎のエネルギー事情と経済状況を考慮した「脱炭素段階的移行プログラム」の合意形成が必要であることを堂々と主張すべきと考える。現在策定中の第7次エネルギー基本計画では、原子力の積極的な導入を考慮し2040年迄の安定供給に軸足を置いた電源構成をベースに脱炭素への国家努力の見える化に工夫をする事が肝要と考える。
我が国の先端火力技術活用による途上国への低炭素化支援
AZECに参加するアジア諸国は我が国の最先端火力技術に期待している事も勘案し、技術支援を軸とした我国独自の脱炭素外交路線の道筋を拓くのが国益に叶うものと考える。
電力供給が逼迫し停電が日常茶飯事のような途上国への最先端石炭火力の輸出はODA(政府開発援助)ベースでの人道支援パッケージに組み込み再開を検討すべきである。