原子力規制委は「自己規律なき独立」からの脱却を


国際環境経済研究所前所長

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 彼我の違いは一目瞭然である。NRCの活動原則の具体性に比べて、日本の規制委員会の活動原則は「哲学的」でしかなく、規制判断を行う際の参照軸とするほどの具体性を持たない。これでは実際的な規制活動の場面場面で、どのような判断が下されるのか、またその判断がどういう活動原則に沿って行われるのかを予測することは不可能である。

「安全のため」が許容されやすい社会的文脈

 また、内容的な差異も重要である。NRCの活動原則にあって、日本の規制委員会の活動原則にないものは「効率性(efficiency)」と「首尾一貫性(reliability)」である。

 まず「効率性」は、規制活動はそれによって達成されるリスク低減の度合いに見合ったものであるべき、また有効な選択肢が複数ある場合はリソースの消費が最小となる選択肢を採るべき、さらに規制の判断は正当な理由なく遅延してはならない、などの要素を含む活動原則である。この原則は、納税者、消費者、事業者といった規制のステークホルダーは、政府機関が行う規制活動に最大の効率性を要求する権利があるという当然の価値観から設定されているものだが、日本ではこうした行政コストが国民負担になるという意識が薄いからか、こうした原則は設定されていない。安全のためだという理由があれば、どのような審査プロセスでも(場合によっては、ムダに時間や人員をかけた方がよりポジティブに)許容されるという社会的文脈が日本に存在するのかもしれないが、この点は改善するべきである。

 またリスクはゼロではなく、その対策にコストがかかるのだから、その比較によって対策の要否を決めるという原則も日本で受け入れられるように、規制委員会が能動的に説明して行くべきである。米国でも公衆の安全にとって即刻必要となる措置については、そうした比較をせずに規制要求が行われることになっており、効率性の原則はそうした場合以外の規制要求に関連して運用されるものである。その意味では、日本でも規制要求の内容によって、対策に重要度の優先順位を付けつつ、こうした原則を適用していくことを検討すべきである。

 また、リスク低減度合いに見合った規制という意味は、あまりにリスク低減度が小さければ、規制要求を変更することによる他の要求との不整合の可能性などによって、かえって安全性が損なわれるなどのデメリットが大きいという点にも留意すべきである。対策は新たな設備や手順を求めるため、そこには、設備の設計、保守のエラー、関わる人間のエラー、未知の共通原因や二次影響の可能性が新たに発生するのである。