欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その2)
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
Dash for Coal
更に欧州において90年代英国のDash for Gas とは逆のDash for Coal とも言うべき現象が生じている。
英国の電源構成(石油換算百万トン) ドイツの電源構成(億kw)
上の図を見ると、英国、ドイツの電源構成を見ると石炭火力のシェアが増大していることがわかる。これはシェールガス革命によって米国内で売れなくなった米国炭が欧州市場に売られ、炭素クレジット価格が低迷しているため、クレジットを買って石炭を燃やしても十分にペイするという構図になっているからだ。これに伴い、両国の電力部門のCO2排出量は増大している。オバマ政権が石炭火力への環境規制を強めている一方で、米国よりもはるかに環境先進国であると自他共に任じていた欧州で、特に「脱原発」を選択したドイツで石炭回帰が生じているとは何とも皮肉な構図である
電力供給不安の高まり
欧州が直面しているもう一つの問題は、発電所閉鎖と電力供給不安の発生である。欧州各国は遮二無二、再生可能エネルギーの拡大を推進してきたが、間欠性のある再生可能エネルギーの拡大は、火力発電の出力調整を強いる結果となった。それでなくともユーロ危機による景気低迷とそれに伴う電力需要の低迷、炭素価格の低迷による卸電力市場価格の低迷もあいまって、火力発電、特にガス火力の稼働率・採算性が大幅に悪化した。この結果、2013年中に欧州の電力会社10社で2130万kwのガス火力が閉鎖された。これは欧州の発電設備の12%を占め、しかも閉鎖されたガス火力のうち、880万kwは開設後10年以内のものである。ドイツでは電力規制庁が安定供給の観点から電力会社による発電所閉鎖申請を却下し、それに対して電力会社が政府に訴訟を提起するといったことまで生じている。電力会社からしてみれば「政府の再生可能エネルギー施策によってガス火力の稼働率、採算性の悪化を強いられ、それを閉鎖しようとすると政府からダメ出しをされるのはたまらない」というところであろう。