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COP27について


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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途上国の勝利

 11月20日午前、エジプト(シャルム・エル・シェイク)で開催されていたCOP27は予定を2日延長して終幕した。グラスゴーでのCOP26が「野心のCOP」とされた一方、COP27は「実施のCOP」として、世界全体での気候変動対策の実施強化に焦点が当たった。
 先進国は2030年までの勝負の10年(critical decade)における野心レベルの引き上げを図るための「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。先進国が温室効果ガスの削減・抑制、途上国が資金援助を追求することは毎度のことである。
 COP27においては気候変動対策の各分野における取組の強化を求めるCOP27全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの緩和野心と実施を向上するための「緩和作業計画」が採択され、ロス&ダメージ支援のための資金面の措置及び基金の設置が決定された。
 一言でいえば、グラスゴーは緩和を重視する先進国の勝利であったのと対照的に、シャルム・エル・シェイクは資金を重視する途上国の勝利であった。ロス&ダメージの資金問題については2024年のCOP29で決着するというのがグラスゴーで合意された作業スケジュールであった。その詳細は今後詰めることになるが、COP27において基金の設置が合意されたことは途上国にとって大金星であろう。途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。先進国からすれば、足元で年間1000憶ドルの支援目標が達成できていない中、2025年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、新たな資金メカニズムを作ることは何としてでも避けたいところだった。
 他方、緩和に関しては、欧米諸国は2023年から始まるグローバル・ストックテーク、5年ごとの目標見直しというパリ協定に盛り込まれた段取りに加え、緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促したいと考えていた。更に2025年全球ピークアウト、排出削減対策を講じていない石炭火力のフェーズアウト、排出削減対策を講じていない全化石燃料火力のフェーズアウト等を盛り込みたいと考えていた。緩和作業計画が合意されたとはいえ、その実施期間は2026年までとされ、その時点で延長の要否を決定することとされた。また作業計画が新たな目標設定を課するものではないとの点が明記された。緩和作業計画が自分たちの目標引き上げを迫るツールになることを嫌う中国、インド等は「2024年まで」、「目標見直しにはつなげない」と主張しており、それに引っ張られた形である。また2025年ピークアウト、石炭火力、化石燃料火力のフェーズアウトは緩和作業計画やカバー決定には盛り込まれなかった。欧米諸国にとっては非常に不満の残る結果であっただろう。
 事実、クロージングプレナリーでは多くの途上国が「歴史的COP」と称賛する一方、先進国からは不満が表明された。グラスゴー気候合意をとりまとめた英国のシャルマ大臣は「我々はグラスゴー気候合意を前に進めるためにここに来た。しかし現実にはグラスゴーのラインを守るために戦えねばならなかった。いくつかの締約国はグラスゴーからの後退を試みていた。我々は2025年ピークアウト、石炭フェーズアウト、化石燃料フェーズアウトを提案したが、いずれも盛り込まれなかった」と無念さをにじませた。

途上国に傾斜した背景

 上述のようにCOP交渉においては先進国が重視する緩和と途上国が重視する資金援助がパッケージとなることが通例であり、双方のバランスが重視されるのだが、今回、途上国に大きく傾斜した理由は何だったのだろうか。議長国エジプトの途上国(特にアフリカ)の利害を重視したこと、洪水被害を受けたパキスタンがG77+中国の議長国を務め、ロス&ダメージの位置づけを更に引き上げたこと、独自の発言力を有する島嶼国もロスダメをプッシュしていたこと等が考えられる。会議中、アフリカ諸国や最貧国は「ロスダメの資金手当てについて成果を得ないまま、シャルム・エル・シェイクを離れることはできない」と口々に叫び、11月18日のストックテーキングにおいてガーナの10歳の少女が「Payment Overdue (支払い遅延)」とのプラカードを掲げてロスダメ議論の進展を訴えたときは会場が総立ちになって拍手するという一幕もあった。先進国の中には「悪い合意ならばないほうが良い」という声もあったが、途上国が強く主張するロス&ダメージ基金を最後まで拒否してCOPを決裂させれば、先進国に非難が集中する恐れがあった。またウクライナ戦争によるエネルギー・食糧価格の高騰や世界経済のスタグフレーションリスクの下、温暖化防止の実質的なモメンタム低下が懸念されており、ここでCOPを決裂させてはならないという考えもあったのではないか。そうした中、会合最終局面でEUが条件付きとはいえロス&ダメージの資金手当てを受け入れるとの姿勢を示し、当初はそれに批判的であった米国も妥協せざるを得なかった。

欧米気候外交への反撃

 別な見方をすれば、グラスゴーでは欧米諸国が「勝ちすぎた」ということもできる。パリ協定が産業革命以降の温度上昇を1.5℃~2℃に抑え、今世紀後半のカーボンニュートラルを目指す中で、1.5℃、2050年カーボンニュートラルを強く打ち出したグラスゴー気候合意はパリ協定を踏み超えた側面がある。今年に入り、G20等の場で先進国がグラスゴー気候合意や1.5℃を共同声明に盛り込もうとするたびに中国、インド、サウジ等が反対に回ったのはそれが理由であろう。グローバル・ストックテークや5年ごとの目標見直しというパリ協定の段取りに加え、緩和作業計画を通じて、特に新興国の目標引き上げを促したいという欧米諸国の目論見も中国、インド等の目からすればパリ協定の再交渉に映る。中国はアフリカ諸国、最貧国等の後ろに回り、先進国が嫌がるロス&ダメージ基金を強く主張させることにより、自分たちを縛りかねない緩和作業計画を弱めるとの戦略をとっていたと思われる。
 いまだエネルギー危機の最中にありながら、グラスゴー気候合意を更に進め、石炭フェーズアウトや化石燃料フェーズアウトを主張する先進国には化石資源を有する途上国から反発の声があがった。今回、インドが「排出削減対策を講じていない石炭火力フェーズダウン」を「排出削減対策を講じていない化石燃料火力のフェーズダウン」に広げることを主張した趣旨は、石炭ばかりを攻撃し、自らの天然ガス利用には口を拭う欧州へのインド流のしっぺ返しであったと思う。
 欧米諸国が温暖化のリスクを訴え、野心レベルの引き上げを主張してきたことがブーメランになっている側面もある。欧米諸国の主導でグラスゴー気候合意には2050年全球カーボンニュートラル目標が盛り込まれたが、今回の会合では先進国に敵対的な有志途上国(LMDC)が「先進国は2050年ではなく、2030年カーボンニュートラルを達成すべきだ」と主張した。1.5℃安定化、2050年カーボンニュートラルを絶対視すれば、限られた炭素予算の配分をめぐってこのような議論が生ずることは当たり前である。
 欧米の環境活動家やメディアは不確実性があるにもかかわらず、あらゆる異常気象を温暖化と結び付け、温暖化の危機をこれでもかと煽ってきた。こうした環境原理主義的議論が中国等の目標前倒し、深堀りにつながらず、「先進国の歴史的排出によって生じた温暖化の被害を何とかせよ」という途上国のロス&ダメージ基金の主張の根拠に使われているのは皮肉なことである。

途上国の高揚感が失望に変わる可能性も

 他方、ロス&ダメージ基金設立を勝ち取った途上国の高揚感も、早晩、失望に変わる可能性も大きい。上述のように先進国は現在の1000億ドルの目標すら未だに達成できていない。条約事務局がまとめた報告書によれば、気候資金(緩和・適応)のニーズは2030年までに5.8~5.9兆ドルにのぼる。両者の間には気の遠くなるようなギャップがある。しかもロス&ダメージから回復するための資金ニーズは上記見通しに含まれていない。しかもロス&ダメージに関する決定文を読むと基金は 新規かつ追加的(new and additional)でなければならないという。適応等に回しているお金をロス&ダメ分野に回したりすることは認めないというわけである。途上国の主張としては理解できるが、一体どこからそんなお金が涌いてくるのだろうか?6条メカニズムのShare of Proceeds の「増税」などが今後議論されそうだが、そんなものでは足りないだろう。結局、「お財布」はできてもお金が十分入らない可能性も高い。ロス&ダメージ基金の詳細については、資金ソースも含め、今後、先進国10名、途上国14名からなる移行委員会において検討され、勧告案がCOP28に提出されることとなる。勧告案はコンセンサスで決定されることになるため、途上国の意向だけを押し通すわけにはいかない。そもそも異常気象等による被害のどれだけが地球温暖化によって引き起こされているのか、科学的知見の確信度は高いものではない。集まった基金を様々な被害にどう配分するのかも容易ではない。

 グラスゴーでは実現可能性のない1.5℃目標が打ち出され、シャルム・エル・シェイクでは際限なくエスカレートする途上国からの資金要求がもう一つ加わることになった。両者に共通することは現実からの乖離であり、時が経過するに従い、それが誰の目にも明らかになってくるだろう。このようなCOPプロセスは持続可能なのだろうか?