欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その2)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 より根源的な問題は、欧州における新規の発電所建設のための投資環境が非常に不透明であるということだ。そもそも欧州では発電所に限らず、送電網、パイプラインを含め、エネルギーインフラの建設に対する周辺住民の反発が強い(いわゆるNIMBY: Not In My Back Yard)が、最近ではどこのどんなエネルギーインフラにも反対(BANANA: Build Absolutely Nothing Anywhere Near Anybody)という現象すら見られる。これは再生可能エネルギー関連施設も例外ではない。英国では陸上風力への反対運動は非常に強い。エネルギー関連投資は種々のリスクに晒されるが、「政策変更リスク」は大きな要素になる。再生可能エネルギーについては固定価格買取制度等によって投資リターンを保証されてきたが、その結果生じたエネルギーコストの上昇とそれに対する国民の反発を背景に、各国で政策の見直しが進みつつあり、これまでのような訳にはいかない。再生可能エネルギーの出力変動の帳尻あわせを強いられてきたガス火力の閉鎖が進んでいることは上に書いたとおりであり、そのままでは採算性が確保できないバックアップ電源の設置を進めるため、キャパシティ・ペイメントが議論されているが、このコストも最終的には消費者負担になるため、再生可能エネルギー補助金と同じような問題が発生する可能性もある。何より、エネルギー投資には長期の安定的な政策環境が求められるが、それを策定する政府は国民世論や選挙のプレッシャーに常に晒され、政策変更のリスクは常に存在する。これは欧州に限った問題ではなく、先進民主主義国に共通の問題でもある。

欧州のエネルギー環境政策の「成績表」

 このように、欧州のエネルギー環境政策は種々のジレンマに直面している。下の表は欧州のシンクタンク Institute for International and European Affairs が昨年5月に行った欧州のエネルギー環境政策の各手法が種々の政策目的にどの程度貢献したかを示す「成績表」である。CO2目標、EU-ETS、再生可能エネルギー目標などは、特に競争力強化、雇用創出、イノベーション喚起の面で落第点をもらっている。「グリーン政策はグリーン雇用とグリーンイノベーションを生む」というレトリックは実際には機能しなかったことを示している。

欧州の気候変動

欧州の気候変動エネルギー政策の目的・手法と有効性(Institute for International and European Affairs)

 こうした中で本年1月に発表された2030年に向けたエネルギー気候変動政策パッケージ案は欧州が直面するジレンマを色濃く反映するものとなった。

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