PM2.5連載企画 スペシャルインタビュー
京都大学 名誉教授 内山 巌雄氏

「PM2.5問題の今」を聞く~PM2.5による健康影響と今後の対策


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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PM2.5の健康影響調査や日本でのPM2.5対策はどのような状況なのか。環境基準、注意喚起のための指針値策定に携わる京都名誉教授・内山 巌雄氏に伺いました。

PM2.5のハーバードの健康影響調査が、日本での研究のきっかけ

――PM2.5が問題になっていますが、いつ頃から問題視されたのでしょうか?

内山 巌雄(うちやま・いわお)氏プロフィール
昭和50年東京大学医学部医学科卒業。昭和50年~52年東京大学医学部付属病院内科研修医。昭和52年~東京大学医学部第2内科非常勤医師。昭和57年国立公衆衛生院労働衛生学部研究員。昭和61年~62年米国ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員。平成元年国立公衆衛生院労働衛生学部 部長。平成13年 京都大学大学院工学研究科環境工学専攻教授。平成15年 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授。平成21年 京都大学を定年退職 京都大学名誉教授。専門分野は公衆衛生、環境保健学。大気汚染物質の生体影響。有害化学物質のリスク評価、リスクコミュニケーション、シックハウス症候群と化学物質過敏症に関する調査、研究。微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準、注意喚起のための指針値策定に携わる。

内山 巌雄氏(以下敬称略):日本ではもともとSPMという浮遊粒子状物質の基準が数十年前からあり、大きさが10μm以下と定義していました。それが日本での環境基準になりました。1990年代頃からアメリカでは、10μm以下の中でも粒径が2.5μm以下の粒子が、より生体に影響が強いことが問題視されました。ハーバード大学の6都市調査が発表され、大気汚染と死亡率などの関連性を比べてみると、PM2.5、つまり2.5μm以下の粒子との関連が一番強く出たのです。

 その後、日本では大気環境学会でアメリカやWHO(世界保健機関)の専門家をお呼びして微小粒子状物質の問題についてシンポジウムを開催しました。当時、日本ではPM2.5はほとんどデータがありませんでしたので、海外で起きている問題を知ることが、取り組みの初めでした。10μm以下のSPM(浮遊粒子状物質)という言葉が、日本では略語として通っていましたが、2.5μm以下の微小粒子はPM2.5と言うようになりました。はじめの頃は「PM2.5って、午後2時半のことですか?」とよく聞かれたものです。今では笑い話ですが。

――90年代初め頃、PM2.5は一般の方には馴染みのない言葉だったのですか。

内山:PM2.5は、研究者や自治体の方にも馴染みのない言葉でした。当時の大気環境の状況では、SPMであれオゾンであれNOxであれ、疫学調査をやっても死亡を指標にする限り何も有意な関連は認められず、昭和40年代のような激烈な大気汚染は克服したというのが一般的な考えでした。

 ですから、ハーバード大学の調査結果には非常に驚きました。たしかにPM2.5を指標に取れば明らかに死亡率との関係が出てくるということ。さらに大気汚染ですから呼吸器への影響、ぜんそくや慢性気管支炎などが主に健康影響として考えられていましたが、PM2.5を指標に取ると心肺疾患、すなわち心臓や心血管疾患への影響があることが初めて指摘されたのでした。その後日本でも研究を行い、2009年に環境基準を作りました。

――ハーバード大学の調査結果がPM2.5の健康影響を明らかにし、日本でもPM2.5の研究をはじめるきっかけになったのですね。

内山:PM2.5の環境基準ができた時は、一部の人の間では話題になりましたが、最近話題になっているPM2.5は、北京の大気汚染に関する報道からだと思います。実は以前から、北京のアメリカ大使館はPM2.5の濃度を計測し、北京の数値が高いことを発表していました。その数値データは、中国の発表する値とは違っていたため、どちらが本当かと議論になっていたのです。そうした中、北京の高速道路が見えないほどスモッグがひどい状況になっている映像が配信され、日本にもPM2.5が飛んで来ていると心配したのです。中国大陸からの由来の物を抑えることについては、日本ではどうしようもないわけですから。

 しかし、PM2.5は北京から飛んできたというよりも、元々日本にもあったものですので環境基準を作りました。基準を作った2009年当時から徐々に濃度は下がってきましたが、去年ですと全国の測定局のうち3割程度しか環境基準は満たしていない状況です(図1)。

図1 PM2.5濃度の経年変化
注)TEOM 法は標準測定法との等価性を有していないが、平成13 年度から継続的に調査を行っている。

最近は、ディーゼルエンジン対策から二次生成粒子対策へと変更

――3割程度しか環境基準を満たしていないのですか?

内山:PM2.5の環境基準を満たすことは、実際に大変なことです。環境基準を作ると測定法と対策を同時に打ち出します。初めはディーゼルエンジンの黒煙対策に力を入れました。石原前東京都知事がペットボトルの中に黒い煤煙を入れて記者会見しましたが、あれは非常に細かい粒子で、PM2.5の主原因だと説明したわけです。

 特に沿道のぜんそくや公害患者の方々に対してはディーゼルエンジン対策を第一に考え、ディーゼル車の排気ガス規制を先行して厳しくしていったのですが、最近はPM2.5のうち元素炭素(軽油を燃やした時に出てくるPM2.5物質)は15~20%くらいに寄与率が低下してきていることがわかってきました。ディーゼル対策をこれ以上やってもPM2.5はあまり減らないでしょう。現在は二次生成粒子、つまりいろいろな物から二次的に出てくる物について対策を取ることに主眼をおいています。



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