PM2.5環境基準ってどんなもの?


Research Committee on PM2.5 and Its Current Status

印刷用ページ

 さて、第1回ではPM/PM2.5っていったいなんなのだろう?という事についてお話しさせていただきました。では、このPM/PM2.5の世界各国における環境基準はどのようになっているのでしょうか。今回はPMの環境基準についてお話しさせていただきたいと思います。
 表1に世界各国における粒子状物質の環境基準を示しました。
 日本の環境基準は、大気の汚染などに係わる環境上の条件について、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準(環境基本法第16条)とされています。このような考え方に基づき、日本の粒子状物質についてSPM環境基準が 1973年に制定されました。図1に示すように2009年にはこのSPM環境基準は環境省が日本全国に大気観測の為に設置している一般大気測定局(一般局)並びに主に幹線道路沿道に設置してある、自動車排ガス測定局(自排局)でも概ね達成という状況になっています。
 またこれに続くPM2.5については、現時点で収集可能な国内外の科学的知見から総合的に判断し、地域の人口集団の健康を適切に保護することを考慮するということから、2009年9月に環境基準が告示されました。

 一方、中国で2012年1月に中国で起きたPM大気汚染の際には、米国北京大使館屋上にて測定したデータと中国当局データとの食い違いが話題になりました。
 実は、測定データそのものに大きな差は無かったのですが、表2に示すように北京市と米国大使館の汚染度の表示方法が異なったことから生じた問題でした。更に、2013年に入り、6段階の大気汚染指数で最悪の「厳重汚染」日が数日間連続したため、中国メディアが大々的に報道する事態に至りました。このように環境基準の違いは、健康影響への考え方への違いにも関わってくる可能性があります。
 
 では、なぜこのようにPM2.5が注目されるようになったのでしょうか?
 その一つの答えとして、以下にPM2.5の環境基準設定に至るまでのUS EPA(米国環境保護庁)の考え方を紹介したいと思います。
 近年、環境中のPMの短期間および長期間曝露が関連する健康影響に関する疫学研究が数多く報告されるようになってきました。これらには、呼吸器症状の増悪や肺機能の低下、呼吸器感染抵抗性の減弱、呼吸器系および心血管系疾患の悪化による救急外来受診や入院の増加、そして、その結果として授業欠席、欠勤日数および活動制限日数の増加、さらには死亡の早期化(早死)と増加、が含まれています。さらに、これらの影響を受けるリスクの高い感受性の高い集団、とくに小児ならびに成人の喘息患者および、呼吸器疾患や心血管系疾患をもつ高齢者、小児、の存在も注目されています。
 しかも、これらの健康への悪影響が、米国の現行のPM10の基準が満たされている地域でも観察されていることから、US EPAは、現行のPM10基準では公衆の健康が十分に保護されないという証拠が得られたと考え、この基準の改定が必要であると判断しました。そこで、 PM10基準を一層厳しくするか、あるいは微小粒子と粗大粒子との化学成分の根本的な相違を認め、 PM10のなかの微小部分について新たな基準を設定するかどうかが課題になりました。
 大気中の粒子は微小粒子と粗大粒子の二相性を示し、最小質量を示す粒径は一般的に、1 μmと3 μmの間であり、このサイズ範囲内で特定の粒径を選ぶのは主として政策判断とされており、US EPAはPMのサンプリング・カットポイントとして2.5 μmを選択しています。
 そして、成分を比較すると、微小粒子に健康への悪影響をおよぼす物質(硫酸塩、硝酸塩、元素状炭素、金属、有機化合物など)が多く含まれていることから、 PM10の基準を厳しくするのではなく、 PM10の微小部分であるPM2.5について新たな基準を追加することによって、PMによる健康リスクに対する保護を強化するほうが合理的であると判断し、PM2.5の環境基準を設定することになりました。

表1 各国における粒子状物質環境基準の比較

※1
日本の場合、SPMとして環境基準を設定。
※2
中国は2012年2月改正環境基準を公布、PM10の年平均値を100μg/㎥→70μg/㎥に強化し、PM2.5の環境基準を新たに設定。2012年末から74都市で実施、2016年1月から全国施行。
※3
2013年3月、米国は基準値を15μg/㎥→12μg/㎥へ強化
出典:在中国日本国大使館資料から作成
 
図1 浮遊粒子状物質濃度環境基準達成状況の推移(一般局・自排局)
出典:環境省水・大気環境局「大気汚染状況報告書」

表2 中国の大気汚染指数

米国と中国では環境基準が異なるため、0~150μg/㎥の汚染濃度に対応するAQIが異なる。例えば、70μg/㎥の評価は、中国AQIでは51-100(良、黄色)となり、米国AQIでは 151-200(Unhealthy、赤)となる。
出典:在中国日本国大使館資料より作成
 

記事全文(PDF)