トンガの海底火山噴火から想定されるカルデラ噴火に伴う津波発生


京都大学名誉教授・京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授

印刷用ページ

 1月15日に南太平洋の島国・トンガの海底火山が大噴火した。日本から約8000km南東にあるトンガは、南北800キロに広がる169の島々からなる島嶼国である。国内に住む人は10万5000人だが、ニュージーランドや米国などに居住するほぼ同数の国民による送金が経済を支えている。

 噴煙は上空20キロメートル以上立ち昇り、海域で起きた火山の噴火では、過去100年で最大級である。衛星画像によるとトンガの海底では昨年11月に噴火が始まり、その後も消長を繰り返しながら噴火が断続的に起きていた。

 一般に、海底火山の噴火では高温のマグマと海水が接触し、水が体積1000倍ほどの水蒸気になるため大爆発が起きる(鎌田浩毅著『火山噴火』岩波新書を参照)。

 「マグマ水蒸気噴火」という現象であるが、その後も地下からマグマが供給されると海上に噴煙が数10キロメートルも立ち上がる。「プリニー式噴火」と呼ばれる噴火だが、今回の噴火もそのケースだった。衛星から観測された噴煙が広がる範囲は、北海道の面積を覆い尽くすほどだった。

 さらに太平洋全域の島々や沿岸部では、潮位の上昇が観測された。南太平洋のバヌアツで141センチ、南米のチリで174センチ、米国カリフォルニア州で131センチの津波が記録された。またペルーでは高波によって製油所に荷降ろし中のタンカーから6000バレルの原油が流出し、浜辺を広範囲に汚染した。

 津波は約8000キロ離れた日本にも到達し、鹿児島県奄美市で1.2メートル、岩手県久慈市で1.1メートルを観測し、漁船が転覆・破損するなどの被害が出た。気象庁は一時、鹿児島県の奄美群島・トカラ列島と岩手県に津波警報を発令し、計8県の約11万世帯、約23万人に避難指示が出された。

 これは津波発生としては過去に例がない異例の現象である。気象庁は、原因は不明だが潮位変化による被害の恐れがあるので、津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけた。地震に伴い発生する通常の津波に対してはマニュアルが用意されているが、今回のように専門家にも初めての現象に対しては対処が後手後手になってしまう。

 地球科学的には、こうした津波は大規模噴火に伴う衝撃波で発生した可能性が高い。先に到達した衝撃波が海面を揺らすことで、遠方の日本付近で津波となったのである。

 もう一つの可能性としては、大量にマグマが噴出した場合、海底にカルデラができ津波が発生することがある。たとえば、1883年のインドネシア・クラカタウの大爆発ではカルデラができ、発生した津波が太平洋の対岸にあるコロンビアとの間を数回にわたり行き来した(鎌田浩毅著『地球の歴史』中公新書を参照)。

 噴火が起きたトンガの海底火山には、陸上部に火山島があった。2014〜15年にはマグマが噴出し、フンガトンガとフンガハアパイを結ぶ長さ5キロの火山島が形成された。ここ20年ほど噴火を繰り返してきたが、今回の噴火はそれらを超える大規模なものだった。

 その後、海面下に「カルデラ」と呼ばれる直径5キロの大きな陥没地形が見つかった。ちなみに、カルデラとは大鍋を意味するスペイン語で、大量のマグマが噴出した後にできる(鎌田浩毅著『地学ノススメ』講談社ブルーバックスを参照)。

 つまり、高さ1.8キロ、幅20キロの巨大な海底火山が噴火したのである。ここでは大規模な噴火が約1000年おきに発生しており、最新のカルデラ噴火は1100年に起きている。1月の噴火で火山島の大部分は失われて海中に没した。

 今回の噴火は全世界でも100年に数回あるかどうかという規模の大噴火だった。数立方キロから10立方キロの噴出物が出たことから裏付けられている。身近な現象で言うと、昨年起きた小笠原諸島沖・福徳岡ノ場の海底噴火よりはるかに大きな噴火である。

 被害の大きかったトンガの離島では物流が止まり、飲み水や食料が不足した。今回の噴火地点から65キロ離れた首都ヌクアロファでは厚さ2センチの火山灰が降り積もり、飲料水が汚染されるなどの被害が出た。さらに、噴火によって海底通信ケーブルが切られ、国内外の通信が遮断された状況が長く続いた。その後、トンガ政府は全人口の8割が被災したと発表している。

 トンガの噴火はまだ継続中で、今後どうなるかは火山学者も予測できない。一般に、海底カルデラ火山の噴火予知はきわめて難しい。よって、リアルタイムで観測を続けながら、随時、噴火シナリオと規模を予測する必要がある。次回は、トンガで起きたような大噴火がもたらす世界的な気温低下について解説しよう。