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トンガの海底火山噴火から想定される気候寒冷化


京都大学名誉教授・京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授


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前回:トンガの海底火山噴火から想定されるカルデラ噴火に伴う津波発生

 1月15日に南太平洋の島国・トンガの海底火山が大噴火したが、噴火は継続中で予断を許さない。噴煙は上空20キロメートル以上も立ち昇り、海域で起きた火山の噴火では、過去100年で最大級である。衛星から観測された噴煙が広がる範囲は直径500キロメートルを超え、関東一円の面積を覆い尽くすほどだった。

 遠く8000キロメートル離れた日本でも津波による被害が出たが、さらに懸念されることは大噴火によって生じる世界的な気温低下である。

 今回の噴火の規模は、1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の噴火に匹敵する巨大なものだった(鎌田浩毅著『マグマの地球科学』中公新書を参照)。噴火の規模を示す火山爆発指数では6に当たり、昨年の福徳岡ノ場の海底噴火の噴出物より1桁大きい量が出たと考えられている。こうした大噴火が起きるとその後数年にわたる寒冷化を引き起こす可能性がある。

 ピナトゥボ火山の噴火では、成層圏に撒き散らされたエアロゾルによって太陽の光が遮られ、地球の平均気温が0.5度ほど下がった。2年後の日本では記録的な冷夏によって米の収穫量が4割も減少し、タイ米を緊急輸入する事態になった。

 地球科学には「過去は未来を解く鍵」という見方があるが、歴史上の大規模な火山噴火が寒冷化をもたらした例が多数ある。1815年のインドネシア・タンボラ火山の噴火では、翌年の北アメリカとヨーロッパでは夏が来なかった。

 北アメリカ東岸の平均気温は例年より4度低く、6月に寒波が襲来し雪が積もって池に氷が張った。続く8月には霜が降りたため主要作物のトウモロコシが全滅した。カナダのハドソン湾は真夏にもかかわらず凍りつき、船が出航できなくなった。

 こうした異常低温は1817年まで続き、農業に大きな打撃を与えただけでなく、米国北東部の農民の多くが西部へ移住していった。すなわち、インドネシアの巨大噴火によって発生した異常気象が、米国西部の開拓を促したとも考えられている。

 現在、世界中で問題となっている地球温暖化は、1回の大噴火による急激な寒冷化で状況が一気に変わるかもしれない。実は、20世紀後半から始まった温暖化は火山の大噴火が少ないために起きた可能性が高い。

 逆に、19世紀最後の数十年間が寒かったのは、大規模な噴火が続いたせいではないかと考えられている。具体的には、1883年のインドネシア・クラカタウ山、1886年のニュージーランド・タラウェラ山、1890年のアラスカ・ボゴスロフ山などが立てつづけに噴火したからである(鎌田浩毅著『地球の歴史』中公新書を参照)。

 一方、20世紀はそれ以前の世紀と比べて大噴火がほとんどなかった。すなわち、大噴火による気温低下がなかったため、20世紀後半の温暖化が顕在化した可能性も否定できない。このことは今後の世界経済に遥かに大きな影響をもたらす。すなわち、現在の脱炭素とカーボンニュートラル政策が、大規模な火山噴火でひっくり返る可能性は否定できないからだ。

 昨年の福徳岡ノ場で起きた海底噴火も含めて、環太平洋火山帯で火山活動が活発化しているようにも見えるが、統計的にはこの程度の噴火は通常である。ただし、20世紀の後半から大噴火が異常なほど少なかったことは事実としてある。このように、地球上では日常の時間・空間スケールをはるかに超える現象が発生するため、地球科学の持つ「長尺の目」で対処する必要がある。

 実は、こうした海底噴火は日本近海でも十分に起こりえる。日本には過去1万年以内に噴火した火山が111個あり、気象庁によって「活火山」と定義されている。

 そもそも日本は地球上に存在する活火山の7パーセントも密集する世界屈指の火山国である。また四方を海に囲まれているため活火山の3分の1が伊豆・小笠原諸島や南西諸島など海域に点在している。具体的には陸域に77個、海域に34個ある。

 よって、大規模な海底噴火が今後、日本周辺の海底火山で起きる可能性は少なからずある。場所によっては大災害になるケースがある。

 地球科学には「過去は未来を解く鍵」という考え方がある。過去の例を見ると、今から7300年前に九州南方の海域で巨大噴火が起きた。鹿児島県・薩摩硫黄島の周辺で起きたカルデラ噴火であるが、巨大津波が発生し現在の大分県と高知県、さらに三重県にまで到達したのである。

 この噴火では幸屋火砕流と呼ばれる高温の火砕流が、時速100キロ近くで海を渡って南九州を襲い、当時そこで暮らしていた縄文人を絶滅させた(鎌田浩毅著『地学ノススメ』講談社ブルーバックスを参照)。

 同時に、海中から巨大な噴煙が海面を突き破って20キロの高さに達した。噴出した火山灰は上空を吹く偏西風に乗って、遠く東北地方に降り積もった。すなわち、日本列島のほぼ全域が、ガラスの欠片からなる細粒の火山灰に覆われたわけである。

 こうしたカルデラ噴火は日本列島では1万年に1回ほどの割合で起きている。噴火の時期を特定することは現在の火山学でも不可能だが、過去にはしばしば巨大噴火に見舞われてきたことは覚えておいていただきたい。世界を席巻している脱炭素政策も、大規模な火山噴火の発生とともに注視する必要がある。