MENUMENU

マスコミが伝えないハリケーンの実態(2)

IPCCと公式データが本当に言っていること


印刷用ページ

監訳:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志  訳:木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニアによる記事「What the media won’t tell you about hurricanes
Let’s take a look at what the IPCC and official data really say
」を許可を得て邦訳したものです。

前回:マスコミが伝えないハリケーンの実態(1)

3. 米国本土への上陸は、北大西洋の全ハリケーンに占める割合としてはごくわずかであり、その結果、世界の全熱帯低気圧の活動に占める割合もごくわずかである。少なくとも1980年以降、世界全体としてハリケーンやメジャーハリケーンの活動には明確な傾向が見られない。

 1980年以降について、12ヶ月間合計のハリケーンと メジャーハリケーンの世界的な発生状況の傾向(より正確には減少)を、@RyanMaue 提供の下の図で見ることができる。あまり知られていないことだが、最近12ヶ月間、地球上の主要なハリケーンの数は42年ぶりの低水準に近い(なお、「ハリケーン」は大西洋と東太平洋における「熱帯低気圧」のことであり、両者は同じ現象である)。

4. 熱帯低気圧には、人類の活動の影響(温室効果ガスの影響を含むがこれに限定されない)が影響するかもしれない、との仮定の下で研究が進められている。例えば以下の特性が調べられている。降雨の強度、暴風雨の移動速度、暴風雨が形成される緯度、勢力増大の速度、発生期間の長さ等である。人類による熱帯低気圧への影響について、さまざまな研究や対照的な見解を持つ科学者を簡単に見つけることができるが、世界気象機関が最近のいくつかの専門家評価でまとめているように(末尾のリンク参照のこと)、現在のところこれらの仮説に関する統一した学界のコンセンサスは存在しない。

 人類が引き起こした気候変動はもちろん現実にあり、適応策と緩和策をしっかりと実行することが必要である。そしてもちろん、人類による影響が熱帯低気圧に及んでいること、また今後及んでいくであろうことが検出・帰属されることも大いにありうることである。しかし、世界気象機関が最近行ったように、熱帯低気圧の専門家の見解を聞けば、現時点では、非常に幅広い見解があることがわかるだろう。残念なことに、重要なテーマであるからといって、確実に分かるようになったとは言えない。
 
 例えば、温室効果ガスの影響によって、最も激しい熱帯低気圧が今後世界中で増加するかどうかという問題に関して、専門家の見解は幅広く、その中には確信度が低いものから高いものまであり、その間にあるものも多くある。また、モデルの結果を眺め渡すと、さまざまなシナリオのもとで、熱帯低気圧の頻度や強度がむしろ低下することも、もっともなことだとも言える。もちろん、多様な理解があってもよいのである。多くの分野で、科学はこうして機能しているのだ。もし、テーマが単純であれば、科学はあまり必要ないであろう。

 気候変動の最も顕著な現れとして、ハリケーンがしばしば前面に押し出されるが、現在の複雑な状況を正確に理解することは難しいかもしれない。ハリケーンについて自分が信じたいことを確認するための専門家や研究を見つけることはできるだろうか?それはもちろん可能だ。このテーマは都合のよいものを選びたい人々(チェリーピッカー:サクランボ摘みの意味)たちにとってはうってつけのテーマなのだ。そしてわたしたちは、ハリケーンの季節の真っ最中には、評論家や運動家がサクランボをほおばる姿を目にするのである。

 非常に高い確信をもって言えることは、熱帯低気圧による被害が(米国および世界的に)過去100年の間に劇的に増加していることである。また、その主な原因は、私たちがサイクロンの進路に蓄えた富の量が増え続けていることにあることは、極めて確かである。下の図は、2021年の経済開発水準を仮定した上で、過去の米国のハリケーンが起きたとした場合の被害推定値を示したものである(最近の別の論文からデータを更新したもの)。

 このデータでは、被害額に増加傾向は見られない。これは、ハリケーンやメジャーハリケーンの上陸数に増加傾向が見られないことを考えると、まさに予想されることである。ハリケーンの過去と未来については、不明な点、不確かな点、論争になっている点が多々ある。しかしこのように、よくわかっていながら、ほとんど議論されていないことがたくさんあるのだ。

5. ハリケーンとはよくあるもので、驚くほど破壊的で、これからもずっと私たちと共にあるものである。それでも、私たちは、災害への備えと復旧の方法について多くを学んできた。

 下の表は、過去のハリケーンが仮に2022年に上陸した場合の被害予測を示したもので、こちらの論文から更新したものである。

 過去10年間に発生したいくつかの暴風雨が損害額の上位25位に入っている一方で、今日発生したらもっと大きな損害をもたらすであろう、遠い過去の暴風雨がたくさんあることをわかっていただけるであろう。つまり、あなたや私の体験からだけでは、ハリケーン災害の現実を捉えることはできないのである。私たちは、たとえ気候変動が起こっていなくても、歴史的な感覚で、より大きなハリケーン災害が起こりうることを理解することができるのである。

 気候がどう変化しようとも、暴風雨のたびに、将来避けられない上陸に備えるための教訓と機会がもたらされる。実際、米国や世界の熱帯低気圧に対する政策対応は、前世紀の科学、技術、政策における知られざる偉大なサクセス・ストーリーの1つである。このような成功は自動的に起こるものではないので、私たちは常に警戒を怠らないようにしなければならない。

 近年のハリケーンの上陸や被害は、過去1世紀に見られた典型的なものと同じあることを理解してもらうことが重要である。科学者が過去の記録からどのような気候変動のシグナルを見つけ出すかに関わらず、ハリケーンが社会に与える影響を圧倒的に左右するのは、以下のようなことだ。それは、私たちが、どこに、どのように何を建てるか、中に何を置くか、そして警告、避難、復旧などをどう行うか、といったことだ。私たちが下す(あるいは下さなかった)決断が、将来のハリケーン災害を決定することになるのだ。我々は自力で何とかできるのだから、これは実に良い知らせだ。

 というわけで気候変動がハリケーンに与える過去と未来の影響について、ぜひ議論して欲しい。どうしてもしたければ、サクランボを摘んで(都合の良い情報を選んで)もよい。しかし、私たちが日々下す決断が、将来経験するハリケーンの被害の大きさを決めるという事実を、決して見失ってはならない。

更に詳しくは

  • IPCC AR6 WG1 on extreme events (link)
  • Klotzbach, Philip J., et al. “Continental US hurricane landfall frequency and associated damage: Observations and future risks.” Bulletin of the American Meteorological Society 99.7 (2018): 1359-1376. (link)
  • Knutson, Thomas, et al. “Tropical cyclones and climate change assessment: Part I: Detection and attribution.” Bulletin of the American Meteorological Society 100.10 (2019): 1987-2007. (link)