自然災害による損失額は増加しているか?(1)

損失額の「正規化」について

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監訳:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志  翻訳:木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニアによる記事「Making sense of trends in disaster losses Part 1: What is a “normalization”?」を許可を得て邦訳したものです。


1世紀前のマイアミビーチの様子

 先日、マイケル・リーブライヒと行ったポッドキャストの視聴者からのコメントの一つについて、いろいろと考えてみた。災害と気候変動についての議論に続いて、その視聴者は次のように述べた。「経済的な損害の一部は、不適切な方法でより多くの建物を建設したことに原因があるというのは、興味深いことだと思う。」彼の言うとおりである。この投稿は、私が25年間携わってきた、社会と気候の両方の変化の下での災害の傾向を理解する研究を紹介するシリーズの第一弾である(訳注:本稿に続く第二弾は「自然災害による損失額は増加しているか? 欧州のデータについての解説」)。

 気候変動と災害の関係を研究することは困難である。なぜなら、物的損害や死傷者数など、我々が関心を寄せる結果には、多くの変化する要素が存在するからである。例えば、異常気象の頻度や強度は時間とともに変化するし、災害を経験する可能性のある人間の居住地の脆弱性もまた変化する。私が携わってきた研究の多くは、災害損失の長期的な傾向における物理的要因(=「自然災害」の「自然」)と社会的要因の役割を分離し、数値化することを目的としてきた。

 研究者がこの分離を行う方法の一つは、関連する社会的変化を考慮して過去の損失データを調整することである。私たちは、損失を共通の基準年に対して標準化することを目指す。このプロセスを私たちは「正規化」と呼んでいる。 この手順が適切に行われれば、正規化された時系列の傾向は、関連する異常な気象現象の気候学的傾向とほぼ一致するはずである。過去の災害を現在価値に調整する研究を行うことは、事実上、過去の災害が今日と同等の人口と経済発展水準で発生した場合に、今日どれだけの被害が発生するかを尋ねていることになる。

 例えば、米国国立ハリケーンセンターによると、2005年のハリケーン・カトリーナの損失額は800億ドル(インフレ調整後のドルではなく、2005年時点のドル)、2012年のスーパーストーム・サンディの損失額は推定650億ドル(2012年時点のドル)であったという。これらの数字の規模は、2022年の私たちにとって、直感的に理解できる。

 しかし、1926年のグレートマイアミハリケーン(この記事の一番上にある写真のマイアミビーチを直撃した)を考えてみてほしい。約100年前のこのハリケーンの損失額は7600万ドル(1926年時点のドル換算)で、カトリーナの場合の約1%にすぎない。しかし、この数字にはほとんど今日的な意味がない。というのも、同じ猛烈な嵐が現在のマイアミのダウンタウンを襲った場合、カトリーナやサンディよりもはるかに大きな被害をもたらすに違いないからである。では、1926年の暴風雨が現在のマイアミを直撃した場合、どれほどの被害をもたらすのか。

 この疑問に対する答えは、保険会社や再保険会社(保険会社に保険を提供する会社)、政策立案者、そしてハリケーンの多い地域の住民にとって、大きな意味を持つものである。「カタストロフ・モデリング」と呼ばれる金融分析の分野全体が、このような疑問に対応するために過去数十年の間に発展してきた。そこで登場するのが正規化手法である。

 1926年のグレートマイアミハリケーンの被害を正規化すると、2022年に襲来した場合の損失額は2600億ドル以上と推定される。これは、ハリケーンが今日の人口と開発水準において襲来した場合にもたらすであろう損害であり、正規化されたハリケーンの損失額としては、1900年以降で最大となるものだ。下の表は、1900年以降について、正規化された米国ハリケーンの損失額のトップ25を、我々の最新の論文に基づいて改訂したものである。

次回:「自然災害による損失額は増加しているか?(2)」へ続く