電力自由化市場での発電所建設には社会主義が必要?


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


 自由化された電力市場では、夏場あるいは冬場の稼働率が高い時にしか利用されない発電設備を建設する投資家はいなくなり、結果老朽化が進み設備が廃棄されるにつれ、やがて設備が不足する事態になる。1年の一時期しか運転されない発電所では売電による収入が少なく、投資家が必要とする収益率を満たさないためだ。さらに問題は、発電所を建設しても長期間に亘りいつも確実に発電できる保証が得られないことだ。競争する他の電源の将来コストが予測できないために、他の電源よりコストが高くなれば、いつも市場で電気が売れるとは限らない。
 この問題を解決するためには、設備を建設すれば、たとえ発電しなくても一定額の報酬が支払われるキャパシティペイメント(容量市場)が必要とされることは今までのブログでも指摘してきた。1990年に電力市場を自由化した英国では、今後2030年に向けて多くの老朽化した石炭火力発電所が閉鎖される予定だ。このまま市場に任せた場合には、代替設備が建設されず停電も予想される事態になっている。
 図は英国政府エネルギー気候変動省が予想する今後の電力予備率を示している。日本では予備率は最低でも3%程度なければ停電の可能性ありと言われているが、英国の予備率は需要増の場合には図の赤の線が示す通りマイナスになると予想されている。停電が発生するということだ。ガスとの価格差によってはかなりの電力需要増が今後あり得ると予想されているので、停電の可能性は空絵ごとではない。
 この事態を防ぐために、英国政府は洋上風力を主とした再生可能エネルギーと原発からの発電については常に一定額の支払いを保証する制度を導入する予定だ。再生可能エネルギーが増加すると、発電ができない時のバックアップ電源が必ず必要になるが、その電源としては二酸化炭素排出量が相対的に少ない天然ガス火力の稼働が期待されている。ガス火力については容量市場により、設備を建設すれば発電の有無にかかわらず一定額を支払う制度を検討している。支払い期間は、例えばガス火力の新設設備については10年間だ。
 この英国の制度についての欧州委員会のギュンター・エッティンガー・エネルギー担当委員の発言を、5月1日付英ガーディアン紙が取り上げている。同紙の報道によれば、2月に開催された欧州議会議員を中心メンバーとする欧州エネルギーフォーラムの会合に招かれたエッティンガー委員は質問に答える形で「原発企業に長期契約を保証するのはソビエト」と発言した。
 発言者は匿名扱いとの暗黙のルールが同会合にはあったが、出席者の一人が発言者を特定しツイートしたために、委員の発言は広く知られることになった。委員はその後発言に関する質問に答える形で「英国が容量市場を導入しようとしている関連で冗談として言及した」と釈明している。ちなみに発言内容を最初にツイートした出席者はその後開催されたエネルギーフォーラムの会合には出席を拒否されたと報道されている。
 自由化から一挙に「社会主義」にならなければ望む発電設備が確保できないとすれば、自由化市場は何をもたらしたのだろうか。連載をしているWedge Infinityのウェブマガジンにも英国の電力・温暖化政策に関する記事を書いたので、そちらもお読み戴ければ幸甚です。

英国の供給予備予測


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