奥平総一郎・日本自動車工業会環境委員長に聞く[後編]

6重苦を乗り越え、日本のものづくりを守りたい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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今後、エネルギーを最小限に節約しながら使っていくハイブリッド技術が重要

――よく言われる「原子力か、再生可能エネルギーか」というのは不毛な議論で、両方やればいいわけです。再生可能エネルギーのなかでも、太陽光や風力、バイオマスなどいろいろありますが、自動車の機能の多様化につながっていく技術要素が含まれ、連携して進められるものはありますか。

奥平:今、車で使っているエネルギーのほとんどが石油です。2020年や30年になっても、まだ多くを石油に依存せざるを得ないと思います。

 そのようななかで、コンベンショナルなエンジンの燃費をよくしていくことが、まずは大事な技術だと考えています。そのために、例えば、「加速の時に使ったエネルギーは減速の時に回収する」「止まっている時には必ずエンジンを止めるスタート・アンド・ストップ」「エネルギーをうまく使うためにモーターを使う」などの技術が必要となってきます。エネルギーを最小限に節約しながら使っていくための技術として、大きな意味でのハイブリッド技術が非常に重要だと思っています。

――ハイブリッド技術には注目していますが、具体的にどのような可能性がありますか。

奥平:いろいろな形で生成される電気エネルギーがありますが、CO2の排出の少ない電気エネルギーがよく、ソーラーや水力から取れたエネルギーがよいでしょう。電気エネルギーはインフラですから、グリッドでいただければ、それを「できる限り使う」ことが大事になります。

 できる限り使うためには、バッテリーが要です。自分が1日走る距離だけを充電して、それを使い切るのが一番節約になります。それ以上にバッテリーを持つことは、どちらかというと無駄になりますし、余計なエネルギーを使い無駄なコストを使うことになる。だから、1日に20kmを普通に走る人が、20km分の電気をためる電池で走ることが一番合理的です。

 ただ20kmで急に止まる車は恐いですね。10km走ったところで、あとどれだけで止まるかなという心配はしたくない。そういう意味で、我々はプラグインハイブリッドで、20kmは電気自動車で走ることができ、残りはハイブリッドになるというのが一番現実的な解ではないかと考えています。電池が極端に安く、小さくなってくれば、完全に置き換わるかもしれませんが。

――車のバッテリーだけではなく、家庭用のバッテリー等いろいろな蓄電池の可能性について、技術開発の見込みはどうでしょうか。

奥平:まだ時間がかかると思います。しかし、電池技術は日々さまざまな研究が進められていますので、段々とレベルアップしていくのは間違いないでしょう。

――レアアース等の資源確保についても課題です。

奥平:レアアースは今、非常に高騰しており、我々の企業活動にとって大変なインパクトになっています。たぶん我々だけではなく、日本のいろいろな産業で問題になってくると思います。我々がやれるのは、レアアースの使用を少なくした製品を作っていくこと、レアアースをリサイクルすること、そして将来はなくすことだと思います。そういう意味で、どれにも今取り組んで、開発しようとしています。

――最後に、政府への提言なり要望がありましたらお聞かせください。

奥平:6重苦の中、一緒にできることを探して、協力していきたいと思います。

「日本のものづくりを守るために、官民一体の努力が必要」と話す奥平氏と澤所長

 ものづくりにかけては世界最高峰のトヨタ自動車。そのトヨタが、この震災で初めてサプライチェーンの複雑さに気づいたという。現代のものづくりは、企業間や人的な「つながり」がその本質なのかもしれない。「空洞化」についての議論も、単に工場が国外に移転するということだけを対象とするのではなく、技術や生産の扇のカナメの部分が国内に残るかどうかということが重要な視点だ。円高やTPP問題に加え、電力の安定供給問題など、日本という国が生産に適した事業環境を提供し続けることができるかどうか、瀬戸際に立っている。奥平氏の語り口は静かだが、そうした幾多のハードルをクリアして、日本にとどまるんだという強い意志が伝わってきた。今後とも日本の自動車産業が諸外国のモデルであり続けるためには、技術力、生産力に磨きをかける不断の努力が重要だ。そのためにエネルギー・環境政策がどうあるべきか、重要な課題が突きつけられている。

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