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IEA World Energy Outlook 2021の読み方(その2)


J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授


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前回:IEA World Energy Outlook 2021の読み方(その1)

3.ネットゼロ宣言国比較による日本の2050年ネットゼロの姿

 前回示したように、WEO2021のAPSでは米国、EU、日本、中国に関しては、それぞれの国のネットゼロ宣言を反映している。今回は日本の2050年ネットゼロの詳細を、この4つの国・地域(以降は「4カ国」と表現)と比較しながら見ていきたい。同じネットゼロ達成でも国ごとにどのような特色があるのか知ることは、ネットゼロに対する視野を広げることになると考えるからである。

 最初に、4カ国の部門別の最終エネルギー消費を示す。破線はSTEPS、実践はAPSを示しており、この2つの線のギャップが大きいほど、ネットゼロ実現のコスト的、技術的な課題が大きいことを示している。縦軸のスケールは同一でなく、日本:EU:中国:米国=1:2:7:3という比になっているので、絶対量を比較する際はそれを考慮する必要がある。


図3-1 4カ国の部門別最終エネルギー消費

 この縦軸のスケールが示すように、中国のエネルギー消費量は圧倒的に大きく、中でも産業部門のエネルギー消費は他を大きく上回り、同国が世界の工場であることを示している。中国の最終エネルギー消費の大きさは、産業>民生>運輸という順番で、日本も同様の順番であることは「ものづくり大国 」「鉄道網が整備された国」に共通している傾向とも言える。同様に鉄道網が整備されているEUにおいても、運輸が最低という点は共通している。
 一方で、自動車大国の米国では最終エネルギー消費の大きさは、運輸>民生>産業であり、その傾向は2050年までほぼ変わらないが、APSでは運輸が2030年以降急激に減少し、2050年には民生と同等となる。米国の運輸におけるSTEPSとAPSのギャップは際立って大きく、APSの実現の(EVの普及のための充電時間短縮やインフラ整備を含めて)コスト的、技術的な課題が大きいことがわかる。EUは現在、民生>産業>運輸であり、APSでは(EVの普及により)運輸が最大の削減、次いで民生が大きく削減して産業とほぼ同定度になる。

 次に、エネルギー消費において、どのようなエネルギーが利用されたのか見てみたい。4カ国のAPSのエネルギータイプ別の最終エネルギー消費を示す。縦軸のスケールは日本:EU:中国:米国=1:2:10:6である。


図3-2 APSにおける4カ国のエネルギータイプ別最終エネルギー消費

 APSでは、日米EUで直ちに、中国では2030年以降、合計エネルギー消費は低下していく。2020年比の2050年のエネルギー消費量は、日本69%、EU62%、中国91%、米国69%である。利用エネルギータイプ別に見ると、減っているのは石油、ガス、石炭の化石燃料で、一方で、電気の利用は増加している。合計値が減少していく中で電気利用は存在感を増し、2050年にはエネルギー利用全体の約5割が電気になる、という共通点がある。
 この電気利用にフォーカスして見ていきたい。まずは、4カ国の発電電力量(左)と電気の排出係数(右)を示す。


図3-3 4カ国の発電電力量と電気のCO2排出係数

 APSでは4カ国とも、発電電力量が大きく増加し、排出係数は大きく低下することが示されている。昨年IEEIに寄稿したIEAの2050年ネットゼロ報告書の解説 に書いた通り、NZEにおいて「電気の脱炭素と電化」はネットゼロ実現の最も重要な手段であったが、WEO2021のAPSにおいても同様であることがわかる。左図の電力CO2排出係数は、2060年ネットゼロの中国を除いてAPSでは2050年前にゼロになっていることを示す。米国の排出係数は、同国のNDC通りに2035年にゼロ(その実現の前提であるBuild back better法案が米国議会を通過するかどうかは不透明な状況であるが)、その後マイナスとなっている。日本の排出係数も2050年にはマイナスである。電化が部門別にはどのように進むのか、4カ国の部門別の電化率(最終エネルギー消費に占める電気の割合)を算出してみた。


図3-4 4カ国の部門別電化率

 全ての部門でAPSの電化率はSTEPより大きく増加している。部門間で比較すると、運輸部門の電化の伸び率(傾き)は他部門より大きく、これはEV普及の効果により運輸は比較的電化が容易であることを示している。その運輸部門でも、加盟国の多くがICE車販売規制を定めるEUの増加率は際立って大きい。一方で、最も電化率の増加ペースが遅いのは産業部門で、電化が難しいことを示している。民生部門では、もともと電化率の高い日本と米国では2050年に80%近くまで電化率が上昇する一方で、もともと電化率の低い中国とEUでは2050年にも55%に留まり大きく二極化している。これは、住宅・ビルの空調にエアコンやヒートポンプといった電動機器がどれだけ普及しているか。という差によるものと考えられる。

 次に、4カ国のAPSの発電電力量とその電源構成を示す。縦軸のスケールは日本:EU:中国:米国=1:3:10:5という比である。


図3-5 APSにおける4カ国の発電電力量とその電源構成

 日本、EU、米国は図2-3右図で示したように、2050年の排出係数はマイナスになっているが、その電源構成は異なっている。EUと米国では2050年に、変動性再エネ(VRE)である太陽光と風力の合計が7割となっている。一方で、日本では2050年に、VREの割合は4割、再エネ合計で6割、原子力が2割、水素・アンモニア+CCUS付き火力が2割である。これは、日本の電力系統が欧米のようにメッシュ状ではなく串型(英語ではfishbone wiseと呼ばれる)でグリッド間連系が弱く、融通性および柔軟性に乏しいこと、そして、VREの適地に乏しいことによりVREの導入に制約があり、調整力をアンモニア・水素、CCUS付き火力注1)により提供する必要がある(とIEAが考えている)ためと考えられる。

 最後に、APSにおける4カ国のCO2排出量、回収・除去量を示す。CO2排出量はネット電力部門(黄)、ネットその他エネルギー部門(茶)、ネット最終消費部門(グレイ)に区分している。縦軸のスケールは、日本:EU:中国:米国=1:3:10:5である。なお、排出量についてはネット(オフセット後)のデータのみでグロス(オフセット前)のデータがないこと、回収、除去については合計値のみで部門別の値がないため、どの部門の排出がどれだけオフセットされているのかは不明である。


図3-6 APSにおける4カ国のCO2排出および回収・除去

 日本は、CO2回収の開始時期は4カ国の中で最も遅いが、その伸び率は大きく、2050年にはEUと比べて回収量(1.7億t-CO2)はほぼ同量、除去量(5200万t-CO2)は約2倍となっている。中国は、排出量だけでなく回収量に関しても圧倒的な大きさで、2050年時点では23億t-CO2であり、世界のCO2回収量の6割を占める。一方で除去量は2050年に、中国が3.6億t-CO2に対して米国が3.3億t-CO2とほぼ同等で、この2カ国合計で世界の除去量の約8割を占める。

 ここまで、WEO2021に描かれている日本の2050年ネットゼロ達成の道筋を、EU、米国、中国と比較しながら見てきた。同じ2050年ネットゼロ達成のEUや米国と比較することで、最終エネルギー消費の形、部門ごとの電化率、電源構成の割合など、国・地域によって異なることが確認できた。特に、電源構成において顕著な違いがあり、日本ではVREの導入量に限界があり、原子力、水素・アンモニア、CCUS付き火力を組み合わせることで2050年に排出係数をマイナスにしている。これは、再エネ条件を含む資源分布、電力系統の特徴などの地域特性が反映された結果であり、今後の国内の2050年に向けたエネルギー需給の在り方の検討において、参考になると考えられる。

注1)
火力発電は、ガバナーフリー、LFCによる瞬動予備力、燃料調整による出力制御などにより、秒単位から時間単位にわたる調整力を提供することが可能で、その規模の大きさと数の多さから、これまで主な調整力の提供源であった。2050年断面では、CCUSつきの火力発電に加えて、燃料を石炭からアンモニアに変えた蒸気タービンや、天然ガスから水素に変えたガスタービンが駆動する発電機が、VRE増加により増加した調整力ニーズに応えている。

次回:「IEA World Energy Outlook 2021の読み方(その3)」へ続く