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産業・環境のバランス良い情報を発信

エネルギー政策に基づき投融資を


国際環境経済研究所理事長


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(「金融ジャーナル2020.9」からの転載)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響が拡大するなかで、科学分野の専門的知見の重要性が高まっている。気候変動対応への取り組みも広がるなかで、国際環境経済研究所(IEEI)の小谷理事長に課題や展望を聞いた。(聞き手=金融ジャーナル主幹 山﨑行雄)

「良質なアマチュアリズム」を発揮

―― 科学分野において、専門家の知見を分かりやすく伝える重要性が増している。
 今回の新型コロナウイルスや東日本大震災での原子力発電所の問題でも、専門家には色々な意見がある。東京大学の牧原出教授が、安保法制について、国際政治と憲法の専門家間で異なる意見があるなかで「専門家と市民をつなぎ、一定の専門性を保ちつつ市民が理解できるような良質なアマチュアリズム」の重要性を述べておられた。環境政策について、環境と経済の両立の観点から、専門的な意見を市民に分かりやすく伝えるのが我々の役割だと思う。2011年の設立以来、企業、官庁、学者、マスコミの方々が130人以上も発信している。温暖化対策などに関しては1,600本以上のクオリティーの高い論考があると自負している。

―― IEEIは、2021年で設立10年を迎える。
 日本の製造業は1970年代からの公害を克服し、環境経営は企業の根幹となっている。私自身、2001 ~ 2005年に新日本製鐵(現・日本製鉄)で環境部長を務め、また経団連の温暖化ワーキンググループ座長として経済界の温暖化対策を推進してきた。当時、経済産業省の環境政策課長だった澤昭裕氏(IEEIの前研究所長)とともに、温暖化政策に関して、産業と環境のバランスの取れた情報発信を目指して、2011年にIEEIを立ち上げた。

気候変動対策はリアルポリティクス

―― これまでの気候変動対策について、求められる対応は。
 地球温暖化問題は、長い歴史がある。多くの人が関心を持つようになったのは1997年「京都議定書」で、1990年を基点に先進国にトップダウンでCO2排出量の削減(EU8%、米国7%、日本6%)を求めた。日本は省エネ等を進め達成したが、ドイツは1989年にベルリンの壁が崩壊し、東ドイツの非効率設備を廃止すれば実現できた。英国も1980年代のサッチャー政権時に、北海油田の開発と国営石炭企業の民営化で達成が容易だった。温暖化問題を巡る基点や削減目標はリアルポリティクスであり、情緒ではなく、したたかな対応が求められるということだ。

―― 2020年以降の対策は。課題は何か。
 2020年以降の気候変動対策を定めた「パリ協定」(2015年採択)は、「産業革命後の気温変化を2℃以内に抑える」ことを目指したCO2削減を求めている。今回は先進国だけでなく、途上国も参加している。そして、各国が自主的な削減目標を定めるプレッジ&レビュー(Pledge and Review)方式が導入された。日本企業が従来から取り組んできた自主行動計画の考えが生かされている。ただ、日本の排出量は世界の3.6%にとどまる。世界の排出量の4分の1を占める中国がどこまで削減するかが課題になるだろう。

産業発展、技術開発進展へ資金供給を

―― 金融界の環境への取り組みをどう見ているか。
 2019年10月に、日本でTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)サミットが開催された。金融界が協力し産業界と一体となって、企業の気候関連財務情報開示の枠組みとなる「グリーン投資ガイダンス」を日本から提案した意義は大きい。金融規制もそうだが、環境政策でも国際的なルールは欧米主導が多い。CO2排出削減、エネルギー効率をどう高めるかは、産業ごとのBAT(Best Available Technology=利用可能な最良の技術)について各国で共通認識があり、世界トップレベルのエネルギー効率を誇る我が国製造業が中心となって、日本発のコンセプトを示せたことはとても重要だ。

―― 金融界への期待は。
 金融の役割は、産業の発展、技術開発の進展などに向けて、資金を供給しサポートしていくことだろう。環境・エネルギー分野は、国がエネルギー政策を取りまとめ、原子力発電、化石燃料、自然エネルギーなどの構成を決定しており、それに沿った形で投融資を行って欲しい。最近はESG(環境、社会、ガバナンス)投資が増えているほか、SDGs(持続可能な開発目標)についても17の目標のうち、各企業・各行に合った取り組みを進めていくことが大事だ。欧州中央銀行のラガルド総裁が、金融政策戦略改定に気候変動の論点を組み入れることに関心を示しているが、中央銀行がそこまで踏み込むべきなのかは疑問に思う。

―― メガバンクグループなどは石炭火力発電への投融資を抑制する方針を掲げている。
 日本は欧州のように電力融通網やガスパイプラインでつながっていない島国だ。電気代が国際的にも高い上に、エネルギーへのアクセスは自力で確保しなければならない。世界が大きく変化するなかで、選択肢を狭める短絡的なダイベストメント(投融資の引き上げ)には慎重になるべきだろう。国のエネルギー政策に基づき、堂々と投融資してもらいたいと思っている。