化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(その3)
世界が協力して化石燃料消費を節減するための具体策を提言する
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
新興・途上国では、安価で、資源量として豊富な石炭の使用比率が大きい
世界の化石燃料資源の保全を目的とした、その消費の節減対策を考えるに際しては、先ず、先進諸国OECD34と新興・途上国の非OECDとのエネルギー消費の実態の現状を定量的に把握する必要がある。
IEA(国際エネルギー機関)データ(日本エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献3-1)に記載)から、現在(2012年)の世界人口70.3兆の17.8%しか占めないOECD34が、世界の一次エネルギーの半分に近い43.3%を消費している。すなわち、OECD34の一人あたりの一次エネルギー消費の値が4.19石油換算トン/人で、非OECDの1.34石油換算トン/人の3.1倍と大きな不均衡を示している。
さらに一次エネルギー消費(化石燃料)の種類別の値では、表3-1に示すように、非OECDにおいて石炭の比率が高くなっているのが目立つ。これは、後述するように、非OECDでは、エネルギー消費部門としての運輸部門での自動車用の利用が少ないことと、発電用の燃料としての石炭の使用比率が大きいなど、エネルギー資源として、可能な範囲で安価な石炭が優先利用されているためである。
注:
*1:カッコ内数値は対合計百分率*2;世界の値がOECD34と非OECDの合計と合致しないのは石油の値での同様の不一致による(OECD34および非OECD以外の石油が351(=4,205-3,854) トン存在する)。
化石燃料消費の節減対策が地球温暖化対策としてのCO2排出削減につながる
本稿(その1)で述べたように、世界が、これから先、化石燃料の年間消費量を現在の値以下に抑えることができれば、現在の値として予測されている可採年数以上の期間、化石燃料を使い続けることができることになる。しかし、各国が経済成長を競って、化石燃料を消費してきた現状で、表3-2に示すように、各国の一人あたりの化石燃料消費量には、先進諸国と新興・途上国の間には大きな違いが生じている。したがって、世界各国が、この各国間の経済的な較差を克服して、協力することで、枯渇が迫っている化石燃料を分け合って大事に使い、長持ちさせればよい。具体的には、世界各国が、現在の世界平均の一人あたりの化石燃料消費量に各国の将来的な人口の増減も考慮した目標値を決めて、それに近づける努力をすればよい。
この化石燃料節減目標の達成のためには、OECD34の諸国は、大幅に成長を抑制することが必要になる反面、非OECDの各国は、国内の貧富の格差の是正を目的として、今後ともある程度の成長の継続が許されることになる。ただし、表3-2に見られるように、すでに一人あたりの化石燃料消費量が世界平均値を超えて、世界第2位の経済大国になった新興国の中国では、化石燃料消費の節減の目的から成長を抑制せざるを得なくなっている。
しかし、この各国の一人あたりの化石燃料消費量を同じにするとの化石燃料消費の節減策は、実現不可能な理想論と見なされるかもしれない。それは、各国のエゴが要求する成長を抑制するためには多くの困難を伴うことが予想されるからである。この理想論の実行を促すためには、この化石燃料消費の節減の方法を、いま、国際的に大きな問題になっている地球温暖化防止のための世界のCO2排出削減対策と置き換えればよい。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の主張する地球温暖化の恐怖が起こるとされる大気中へのCO2の排出量は、その累積値が7兆トンに達した時とされる。しかし、今世紀中の世界のCO2の年間排出量を現状(2012年)の値に保つことができれば、今世紀末までの累積CO2排出量は2.9兆トン以下に止まると計算される。昨年(2014年)発表されたIPCCの第5次評価報告書によれば、この排出量であれば、地球地上気温の上昇幅は2℃以下に止まり、IPCCが訴えるような厳しい温暖化の被害は起こらない。これを、言い換えれば、地球温暖化対策として各国がCO2排出量を現状の世界平均値4.63トン/人(表3-2)以下に保つこと(人口の増減も考慮して)が、地球温暖化対策としての各国のCO2排出目標になる。表3-2の各国の一人あたりの化石燃料消費量の値と、これに併記した各国の一人あたりのCO2排出量との対比に見られるように、両者にはほぼ比例関係が存在する(石炭の使用量の多い中国やインドではCO2の排出がやや多くなる)から、上記した世界の化石燃料消費の節減対策の実行により、温暖化対策のためのCO2の排出を削減できることになる。
化石燃料消費の節減策こそが、お金がかからない地球温暖化対策になる
今年の末に予定されているCOP21(第21回気候変動枠組条約締結国会議)が難航しているが、その主な理由は、経済成長の継続を必要としている途上国が、先進国から資金と技術を獲得するために温暖化交渉を利用しているからだと言われている。
また、CO2排出量が世界平均より多い先進諸国および中国にとっても、IPCCがその第5次評価報告書(2013~2014年)で推奨している石炭火力発電所排ガスへのCCS(CO2の抽出、分離、埋立)技術の適用でお金をかけてみても、それで地球温暖化を防止できるとの保証がどこにも見当たらない。現状で、確実に世界のCO2の排出を削減できる方法は、各国の化石燃料消費の節減の国際的な合意目標を決めた上で、その実行のための努力を各国国民に要請する以外にない。
具体的には、上記したように、
(各国の年間化石燃料消費量目標値)
=(現在の一人あたりの化石燃料消費量の世界平均値)×(各国の人口)(3-1)
とすればよい。
この各国の化石燃料の消費の目標は、実は、COO21に向けて主要国がすでに提出している地球温暖化対策としてのCO2排出削減の中間目標数値を、化石燃料消費の節減目標値と置き換えてみた場合とそれほど違わない。それどころか、この化石燃料消費の節減目標が達成できれば、お金をかけないで、確実にCO2の排出が削減できるから、途上国の理解を得て、COP21での協議をスムースに進めることができるはずである。なお、この提言の詳細については文献3-2を参照されたい。
- 3-1.
- 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」2014年、「同2015年版」2015年、省エネルギーセンター
- 3-2.
- 久保田宏;COP21に向けての重要な提案;化石燃料の節減こそガ求められなければならない(その1)米中首脳が温室効果ガスの削減目標で合意したと言われるが、ieei2015/01/05、(その2)世界の化石燃料消費の節減こそが、地球環境保全のための世界的な合意の主題でなければならない、ieei、2015/01/07、(その3)化石燃料消費の節減のためには、先進国の経済成長の抑制が求められる、ieei2015/01/13