COP21に向けての重要な提案:化石燃料消費の節減こそが求められなければならない (その3)

化石燃料消費の節減のためには、先進国の経済成長の抑制が求められる


東京工業大学名誉教授

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温室効果ガスの削減目標を決める国際間の協議が、依然、難航している

 2020年以降の各国の温暖化対策の目標を決めるためのCOP20(国連気候変動枠組み条約の締約国会議)が終わった。その協議結果の報道(朝日新聞2014/12/15)によると、「温暖化目標薄氷の合意途上国に配慮 内容修正」となっている。具体的な薄氷の合意の内容としては、先進国が主張してきた各国の自主的な温暖化効果ガス(CO2)の排出削減目標の決定に、京都議定書ではその義務を免れた途上国も含まれることになったが、温暖化の被害軽減策も入れるべきだとの途上国の要求を「盛り込むことを検討する」とされている。
 地球温暖化のせいとされる異常気象を含めて、気候変動による災害の被害は、地球全体の被害で、途上国を選択的に襲う被害ではないが、自然か人為的(CO2起因の)かによらず、このような災害による被害を軽減化するために必要なお金が、途上国にはない。したがって、このお金を稼ぐ場として、温暖化対策の国際協議の場が利用されている。その是非はさておいて、この途上国側の要求は、いま、世界の経済成長を支えている化石燃料資源が枯渇に近づき、その国際価格が高くなってきた結果として生じた国家間の貧富の格差に起因することは間違いない。
 本稿(その2)で述べたように、いま、地球上の恐怖は、CO2の大量排出による温暖化よりは、確実に、やってくる化石燃料の枯渇である。この化石燃料の枯渇により、真っ先に被害を受けるのは、貧しい途上国である。気候変動による被害軽減対策のお金どころか、貧困からの脱出、経済成長のために必要なお金さえ賄えなくなるであろう。地球上に残された化石燃料資源を、世界中が分け合って大事に使うことこそが、いま、地球上の恐怖を防ぐ唯一の方策である。それは、また、もし、IPCCの主張する人為起源のCO2に起因する温暖化が起こるとしても、それを防ぐことのできる唯一の現実的な方法である。

世界の経済成長への欲望を抑制しない限り化石燃料消費は節減できない

 いま、世界的な経済不況のなかで、先進諸国は、長期間続いたデフレから脱却して、経済成長を図ろうとしている。しかし、経済成長のためにはエネルギーが必要である。そのエネルギーの主体が化石燃料である現状では、経済成長を抑制しない限り、化石燃料消費を削減することはできない。
 グローバルなマネーな金融投資で成長を続けてきた資本主義経済が、その投資の対象となる地球上のフロンテイア市場が消え失せたことで、やがて終焉を迎えようとしており、この資本主義経済の終焉をもたらすのが「経済成長の信仰」だと言われる(文献3-1)。この経済成長を支えてきた安価な化石燃料が無くなろうとしているのに、IPCCは、その第5次評価報告書のなかで、化石燃料燃焼排ガスに対するCO2のCCS(分離・回収・埋立)技術の適用を政治に提案している。これでは、化石燃料の枯渇を早めるだけでなく、化石燃料の供給の不均衡に伴う先進国と途上国間の貧富の格差を助長し、世界平和の危機、敢えて言えば、人類の存亡の危機を招くことにもなりかねない。
 一方で、資本主義を支えてきたエネルギー源である化石燃料の代替として、自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー、再エネ)があるから、経済成長を継続できると言う人が大勢いる。それだけではなく、再エネの生産技術、再エネ生産設備の製造、輸出が成長産業になって、日本経済を支えると主張する人さえいる。しかし、それが可能であれば、現在、再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度を使って、再エネの普及・拡大を図る必要は存在しないはずである。電力料金の値上げで国民に経済的な負担をかけるFIT制度は、経済成長を阻害するだけである。もともと、このFIT制度による再エネの導入は、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減の要請から、EUが先行して、その導入を推進してきた。しかし、現在、その導入は経済成長を阻害するとして、存続の危機を迎えている。

世界が協力して化石燃料消費の節減のために経済成長を抑えることを訴えるこそが、地球を守り、日本を救い、人類を存亡の危機から守る

 産業革命以降続いてきた現代文明社会は、有限な化石燃料(エネルギー)資源に支えられてきた。その化石燃料資源が枯渇に近づいた今、現代文明生活の維持を前提とした経済成長の継続を訴えることは、科学技術力の限界を知らない人々の妄想である。化石燃料枯渇後の社会を、現代文明社会の延長線上に創るためには、多くの困難と時間が必要である。すなわち、先進諸国が、今のまままの経済成長の維持を目的として、化石燃料消費を増大させた時に、真っ先に先進国の地位を捨てなければならなくなるのは、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本であることを私どもは厳しく認識しなければならない。
 第2次大戦後の経済の破綻状態のなかから、一時、世界第2位の経済大国の地位をつくり上げることができたのは、一頃、水よりも安いと言われた中東の石油が利用できた幸運があったからであったことを再認識して頂きたい。その石油を主体とする化石燃料が枯渇に近づき、その輸入価格が上昇するなかで、アベノミクスの第3の矢として再び経済成長の夢を追いかけることは幻想でしかない。
 現代文明社会を支えている地球上の化石燃料を少しでも永持ちさせながら、化石燃料枯渇後の地球の将来に備える時間を稼ぐためにも、経済成長の抑制への協力を世界に向って訴えることが、日本にとっての、人類の存亡にかかわる地球の脅威を防ぐためのCOP21への提案でなければならない。

<引用文献>

3-1.
水野和夫;資本主義の終焉、歴史の危機、集英社新書、2014 年

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