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CO2フリー燃料、水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの可能性(その4)

-SIP「エネルギーキャリア」の成果-


国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター


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NH3直接利用技術開発の成果

 前回、NH3を燃料として利用することについては、①NH3の燃焼安定性と、②NOXの排出抑制の2つの確認すべき課題があったことを記しました。今回は、これらの課題がSIP「エネルギーキャリア」で行われた研究開発でどのように克服され、NH3のCO2フリー燃料としての可能性が広がったのかを説明しましょう。なお、これらに関して、より詳細な解説をお読みになりたい方は、日本燃焼学会誌(2019年11月)の特集「アンモニア直接燃焼の社会実装に向けた取組み」注1) をご参照ください。この特集では、実際に研究開発に携わった研究者の方々が、それぞれ担当された研究開発の内容と成果を報告しています。
 以下に記すようにSIP「エネルギーキャリア」は、NH3の燃料としての直接利用技術に大きな進歩と成果をもたらしました、それは世界的にも注目され、国際燃焼学会の日本支部である日本燃焼学会は、学会誌でSIP「エネルギーキャリア」で行われたNH3燃焼に係る研究成果を集大成した上記の特集を組んだほか、NH3の燃焼研究を主導したSIP「エネルギーキャリア」に対し2019年度の技術賞を授与しました。

1.NH3の基礎的燃焼特性の解明

 先述のNH3の燃焼に関して確認すべき課題は、いずれもNH3という物質固有の物性に起因します。NH3はメタン(CH4)と比べて燃焼速度が遅く(CH4の5分の1)、火炎温度が低く、可燃範囲が狭いため、保炎範囲を安定的に維持することが課題と考えられました。また、CH4の燃焼時に発生するNOXが空気中のN2から生成するThermal NOXであるのに対して、NH3を燃料として用いる場合には、燃料中のN原子に由来するNOX(Fuel NOX)が燃焼によって大量に生成することが懸念されました。
 これらのNH3燃焼に関する基礎的な問題は、東北大学の研究チームによるNH3燃焼の特性に関する研究と、燃焼メカニズムの解析によって世界で初めて詳細に解明され、NH3燃焼の科学的基礎が確立される注2) とともに、その研究成果を踏まえた課題の解決策が考案されました。
 まず、NH3の燃焼の安定性の問題は、燃焼器内の空気を旋回させるスワールバーナー注3) を用いて燃焼させることで解決されました。また、NOXの生成は、燃焼器内で燃焼気体中のNH3が若干余剰となる条件でNH3を燃焼することにより、抑制可能であることが分かりました。こうした条件下では、燃焼気体中に残存するNH3の還元作用が働き、燃焼中に生成するNOXがN2に還元されるからです。つまり、NH3は燃料としても、燃焼で生成するNOXの還元剤としても働くことが明らかにされたのです。こうしたNH3の還元作用は、火力発電所やディーゼル・トラックの排ガス脱硝装置でNH3が還元剤として使用されていることを考えれば、不思議なことではありません。
 さらにこうした効果は、高圧燃焼の環境下で高まることも明らかになりました。これは、より高圧下で燃料を燃焼させる、大きなサイズのガスタービンでのNOXの排出抑制には好都合なことです。
 このようにNOXの発生が抑制される条件が明らかにされたことから、その原理を応用した“Rich-Lean 2段燃焼注4) ”というNOXの排出を一層低減する燃焼法も新たに開発されました注5)

2.NH3の直接利用技術開発の成果

 こうしたNH3の燃焼メカニズムに係る研究成果を踏まえて、以下のようなガスタービン・エンジン、石炭混焼ボイラ、工業炉でのNH3燃焼技術が開発されました。

2.1 小型ガスタービン
 小型ガスタービンの分野では、50kW級、300kW級のNH3専焼マイクロガスタービンの開発が、(株)トヨタエナジーソリューションズによって行われました。この開発は、東北大学によるガスタービンでのNH3燃焼に係る基礎研究、(国研)産業技術総合研究所(産総研)でのNH3を燃料とする50kW級マイクロガスタービンによる燃焼技術研究と密接に連携して行われたものです。
 産総研では、福島再生可能エネルギー研究所(FREA)において出力50kWのマイクロガスタービン発電機を用いた発電試験が、灯油/NH3混焼、CH4/NH3混焼、NH3専焼という順で段階を踏んで行われました。そして、NH3専焼でも所期の出力で安定的に発電できること、また、NOXの発生は、通常の脱硝装置で除去可能なレベルに抑えることができることが確認されました注6) 。これらの成果をもとに、(株)トヨタエナジーソリューションズは、300kW級のNH3専焼マイクロガスタービン発電機を開発しました。

2.2 中型ガスタービン
 中型の発電タービンでは、(株)IHIがCH4/NH3混焼用の低NOX燃焼器を開発し、2MW級のガスタービンによるCH4/NH3混焼(混焼率:20%注7) )発電を実証しました注8) 。その結果、NH3混焼によってCO2の排出が削減されること、NOXの排出は一般的な脱硝装置で環境規制値以下に抑制できること、そして投入したNH3はほぼ完全に燃焼することが確認されました注9)

2.3 発電用大型ガスタービン
 数百MW級の大型ガスタービンについては、三菱重工エンジニアリング(株)と三菱日立パワーシステムズ(株)(MHPS)が、輸送、貯蔵の容易なNH3を水素キャリアとして利用して、CH4/水素混焼ガスタービンに水素を供給する燃料供給システムの開発を行っています。大型ガスタービンの開発で、小型、中型のガスタービンの場合とは異なり、NH3を直接、燃料として利用するというアプローチをとらなかったのは、大型ガスタービンの場合、NH3を完全燃焼させるためのガスタービン燃焼器のサイズに係る制約がより厳しくなることや、高温燃焼条件下でのNOXのコントロールがより困難になることが予想されたためです。
 NH3を水素キャリアとして用いるCH4/水素混焼ガスタービン用の燃料供給システムとしては、大型ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電機のガスタービンの排熱と触媒でNH3を分解し水素を生成、それをガスタービンに供給する方式が考案され、そのシステムの実現性が設計検討によって確認されています。CH4/水素混焼ガスタービン自体は既に実証されている注10) ので、ここではGTCC発電全体のエネルギー効率を落とすことなく、ガスタービンの排熱をそれに続く蒸気タービンとNH3分解装置に最適配分すること、加えてこうした条件の下で効率的かつ安定的に稼働できるNH3分解装置を開発することが開発課題となっています。詳細設計検討からは、この方式の発電システム全体のエネルギー効率は、天然ガス(CH4)焚きのGTCC発電システムをやや上回ることが明らかにされています注11)
 この研究開発は、SIP「エネルギーキャリア」終了後も(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて、実証機の開発に向けた取り組みが両社によって続けられています。

2.4 微粉炭発電ボイラ(石炭火力発電向けのNH3直接利用技術)
 NH3を燃料として直接利用する用途の一つとして、石炭火力発電所において石炭と混焼利用することが考えられました。燃焼速度が遅いNH3は、微粉炭との混焼に適していると考えられ、NH3を混焼することによって、その混焼分だけ石炭火力発電からのCO2の排出が低減できると考えられたからです。微粉炭とNH3の混焼時の燃焼挙動は、大阪大学のチームによって明らかにされました注12)
 NH3を石炭と混焼する場合の懸念事項は、ここでもNOXの排出量の増加でしたが、(一財)電力中央研究所(電中研)におけるシングルバーナ炉、マルチバーナ炉での石炭/NH3の混焼試験(NH3混焼率20%)の結果、NH3の炉内への注入方法を工夫することによって、NOXの低減を図ることが可能であることが明らかにされました注13)
 これらの基礎的検討結果をもとに、中国電力(株)は、同社の既設商用機である水島火力発電所2号機(出力15.6万kW)で、実際に石炭/NH3混焼発電を行うことを試みました。この実証試験では、CO2の排出がNH3の混焼分だけ削減されたこと、燃料として用いたNH3は完全燃焼して外部に排出されることはなかったこと、NOXの排出も石炭専焼時と大差なく、問題なく環境基準をクリアできたことなどが確認されました注14) 注15) 。NH3の混焼率は、発電所内の既設のNH3気化器の能力の制約から0.6~0.8%程度でしたが、何よりも石炭/NH3混焼技術がCO2の排出削減策として、商用運転中の発電所でも問題なく適用できることが確認できたことは大きな成果でした。
 この実証試験の結果を受けて同社は、石炭/NH3の混焼技術を、石炭火力発電において「脱硝装置等の改造を不要とし、既存設備を最大限利用のもと、低コストでCO2排出削減を可能とする技術」注16) と評価しています。
 これに続いて(株)IHIは、石炭/NH3混焼技術の石炭ボイラへの実装に向けて、既存の石炭火力発電用のボイラに装着可能で、かつ、よりNOXを発生しにくい微粉炭/NH3混焼バーナの開発と、既設の石炭専焼ボイラでNH3を混焼した場合の収熱特性の変化の解析を行いました。後者は、NH3の火炎温度が一般的に石炭よりも低いこと、また、NH3を混焼することで炉内に存在するススや微粉炭粒子が減少するため、炉内壁面の収熱分布が変化する可能性があったからです。この結果、新たに開発された微粉炭/NH3混焼バーナの装着で、混焼率20%まではNOXを石炭専焼レベルまで抑制できること、ボイラの収熱性能も大きく変化しないことが確認されました。
 この石炭火力発電ボイラにおける石炭/NH3の混焼技術は、大きな設備改造を必要としないことから、バイオ燃料の導入以外に経済的な方策がない既設の石炭火力発電所のCO2排出削減手段として、電力会社からも大きな関心を集めています。
 SIP「エネルギーキャリア」で生まれたこの石炭/NH3の混焼技術の成果を社会実装につなげるため、NEDOは、実際の石炭火力発電所サイトでの長期技術実証に対する支援を計画しています。また、関係企業においても、実装に向けた詳細設計、経済性検討等が進められています。

2.5 工業炉
 工業炉には様々なサイズ、タイプのものが存在しますが、工業炉で消費されている化石燃料は、製造業における化石燃料の消費量が全体の20%以上を占めることから、かなりの量に達していると考えられます。この工業炉分野でも、NH3の直接利用技術について成果が生まれています。
 工業炉でNH3を燃料として利用する際の課題は、NOXの発生の抑制に加えて、火炎からの輻射伝熱を強化することでした。分子中に炭素(C)を含まないNH3の燃焼では、ススの燃焼による輻射伝熱効果が得られないからです。
 これらの課題は、大阪大学の研究チームにより、10kWのモデル燃焼炉を用いた研究で、NH3専焼、及びCH4/NH3の混焼(混焼率:30%)の両ケースにおいて、酸素富化燃焼による火炎輻射の強化と、火炎温度を均一化するための多段燃焼の組み合わせによって克服できることが明らかにされました。さらに、同様の結果は、工業炉の実用規模に近い100kW級のモデル工業炉を用いた実証研究でも確認されました注17)
 工業炉の一つ、溶融めっき鋼板製造ラインの前処理プロセスで用いられる脱脂炉については、大陽日酸(株)と日鉄日新製鋼(株)が、従来のCH4燃料にNH3を混焼(混焼率:30%)することにより、炉の伝熱性能、脱脂性能に変化を及ぼすことなく、CO2排出量を30%削減できることを実証しました注18)

2.6 NH3燃料電池
 燃焼利用以外の形でNH3を直接利用することについても、重要な成果が得られています。NH3の燃料電池の燃料としての利用です。
 燃料電池の中で、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の動作温度は700~1,000℃と高温です。一方NH3は、500℃以上の環境下では水素と窒素(N2)に分解します。そこでSOFCの燃料として水素に代えてNH3を供給し、SOFCを動作させることが考えられました。
 現在、SOFCには、安価で輸送、貯蔵が容易な都市ガスやLPガスが供給されていますが、SOFCの燃料となる水素をこれらのガスから得るために、SOFCにはガスの改質器を付置することが必要です。さらに改質器からは、改質の際に発生するCO2が排出されます。こうした問題を解消するために、SOFCに直接、純水素を供給するものも開発されていますが、水素の輸送、貯蔵は容易ではありません。
 一方、SOFCの高温を利用して内部でNH3から水素を生成すれば、この輸送、貯蔵面での問題は回避できます。また、もちろん改質器も不要となります。こうしたことからNH3をSOFCの燃料として直接利用できれば、今後、分散型CO2フリー電源としての役割を期待されるSOFCの利便性が大きく向上すると考えられます。こうした狙いでSOFC向けのNH3の直接利用技術開発が行われました。
 この研究開発では、京都大学の研究チームによって、SOFCの燃料としてNH3を用いた場合でも、燃料に純水素を用いた場合と同等レベルの発電特性(255Wの直流発電で効率53%(LHV))が得られることが確認されました注19) 。そして、この成果をもとに(株)ノリタケカンパニーリミテドが1kW級スタックを作製し、さらに(株)IHIが、1kWのNH3燃料SOFCシステムを開発しました注20) 。(株)IHIは、SOFCによる分散型CO2フリー発電の実現を目指して、引き続きより大型の業務用NH3燃料SOFCシステムの開発に取り組んでいます。

3.NH3直接利用技術開発の成果の意義

 これらのNH3直接利用技術開発の成果の社会的意義について、国際エネルギー機関(IEA)は、“The Future of Hydrogen”の中で次のように高く評価しています。その内容は、先に本連載(その1)で記しているので詳しくは述べませんが、そのポイントは次のようにまとめることができると思います:

石炭火力発電用ボイラでの石炭/NH3混焼技術は、既存の石炭火力発電所からのCO2排出削減の重要な手段となる、
ガスタービン発電分野でのNH3直接利用技術は、再エネの大量導入において重要性を増す、調整電源としての火力発電の低炭素化の重要な手段となる。

 また、今回は詳しく記しませんが、これらのNH3の直接利用技術開発の成果は、今回主に記した電力エネルギー以外の分野、すなわち、日本の最終エネルギー消費の約7割を占める熱エネルギー分野の脱炭素化の手段としても、大きな役割を果たすことが期待されます。これについては、また、別の機会にご説明したいと思います。

注1)
日本燃焼学会誌第61巻198号, pp277 – 330, (2019年11月)
注2)
この成果により、東北大学の小林教授を始めとする研究チームは、2018年の国際燃焼学会(The Combustion Institute)の全体会議招待講演のスピーカーとして招待され、”Science and technology of ammonia combustion”, (Proceedings of the Combustion Institute 37(1) (2019) : pp. 109)と題する講演を行いました。この招待講演で講演することは、この研究成果が国際的にも大変に優れたものと評価されたことを意味します。また、(社)日本燃焼学会は、この講演内容に対し2019年度論文賞を授与しました。
注3)
NH3ガスのみを螺旋状の溝から噴出させて燃焼させるバーナ。
注4)
1次燃焼領域でNH3をやや過濃燃焼させ、2次燃焼領域で空気希釈し、かつ、NH3の分解により生成したH2を燃焼させる方法。
注5)
「アンモニア燃焼研究の意義とインパクト」、小林秀昭、早川晃弘、日本燃焼学会誌第61巻198号(2019年) PP277-282
注6)
「小型ガスタービンにおけるアンモニア燃料実証試験」、壹岐典彦、日本燃焼学会誌第61巻198号(2019年) PP283-288
注7)
混焼率は熱量ベース。以下、混焼率に係る記述は同じベースで記述。(なお、混焼率20%は、あくまでも中間的な開発目標として設定されたもので、これが限界ではありません。)
注8)
http://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2018/technology/2018-4-18/index.html
注9)
「2MW級ガスタービンによるアンモニア/天然ガス混焼発電実証試験」、伊藤慎太郎、内田正宏、須田俊之、藤森俊郎、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP289-292
注10)
https://www.mhps.com/jp/news/20180119.html
注11)
「発電用大型ガスタービンにおけるアンモニア利用技術の開発」 野勢正和、荒木秀文、仙波範明、古市裕之、谷村聡、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP293-298
注12)
「層流対向流場において水素拡散火炎により保炎される微粉炭粒子とアンモニアの混焼挙動」 福井淳平、中塚 記章、泰中一樹、東野秀隆、林潤、赤松史光、日本燃焼学会第54回燃焼シンポジウム報告C334 (2016年11月)
注13)
「微粉炭ボイラに適用可能なアンモニア混焼技術」、木本政義、山本晃、小沢靖、原三郎、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP299-303
注14)
「水島発電所2号機でのアンモニア混焼試験-アンモニアの発電利用に関する事業性評価―」 谷川博昭、大内優、「電気評論」2018年4月号、PP52-55
注15)
「水島発電所2号機におけるアンモニア混焼試験」、吉崎司、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP309-312.
注16)
「中国電力における技術革新のあゆみ」迫谷章、「電気評論」2018年1月号、PP138-152
注17)
「工業炉におけるアンモニア直接燃焼に関する研究」、村井隆一、中塚記章、東野秀隆、赤松史光、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP320-325
注18)
「『アンモニア燃焼炉の技術開発』衝突噴流式アンモニア混焼脱脂バーナの技術開発」、沼田真明、松田泰三、萩原義之、山本康之、日本燃焼学会誌 第61巻198号(2019年) PP326-330
注19)
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150722-6/index.html
注20)
http://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2018/technology/2018-5-16/index.html