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プラスチック資源循環とバイオプラスチック

前編:何のためのプラスチック資源循環か


東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 講師


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 ここ最近、テレビやインターネットでもプラスチック問題に関するニュースを見ない日がないほど、その注目度は高いものがある。身近な問題であるからこそ、一般消費者にも一家言ある人が多いようで、インターネットニュースのコメント欄にも様々な意見が書き込まれている。それらを見ると、どれも一定の合理性は有しているようにも思えるが、導かれる結論は「プラスチックの使用を禁止するべき」から「プラスチックは燃やせば良い」まで幅広い(むしろ両極端な意見が多い)。なぜ、このように様々な意見が錯綜するのか。その理由は、プラスチック資源循環が何を目的としているのか、その認識が人によって異なることに帰着すると思われる。そのため、同床異夢どころか、それぞれが合理的に議論を進めた着地点が、真逆の結論にすらなるのであろう。

 では、そもそもプラスチック資源循環の目的とは何なのか。こうした議論は、筆者の知る限りでも15年は続いている(例えば、森口1) には2005年の時点での論点が述べられているが、現在にも通じる問題ばかりである)。その観点は、廃棄物処理量が多いよりは少ない方が良いという前提は共有しつつ、二酸化炭素(CO2)などの環境負荷や化石資源消費量といった環境・資源面と、リサイクルなど資源循環に要する費用(消費者による分別など社会的な費用も含む)という経済・社会面のトレードオフが中心であった。端的に言えば「費用をかけてもリサイクルするか」「費用をかけずに燃やすか」の議論であり、少し中和して言えば「どの程度までなら、リサイクルに費用をかけても許容されるか」という問いである(その中には、容器包装リサイクル法における材料リサイクルとケミカルリサイクルの優先順位という根深い問題も含まれるのであるが、この点については西山2)に詳しいため、本稿では割愛する)。この15年でライフサイクル評価(LCA)による分析も進み、一般的にプラスチックに関しては、リサイクルした方が環境負荷や資源消費は削減されるが費用は増加するという共通認識までは至ったものの、それらの間の適切なバランスについて明確な答えを導くことができず、しばらく議論は停滞していた。

 そうした状況に風穴を開け、一気に世間的な関心事に押し上げたのが、海洋プラスチック問題であった。一般消費者にとって、目に見えないCO2と比べて、ウミガメの鼻に刺さったプラスチック製のストローの印象は強かったに違いない。そして、この海洋プラスチック問題を契機として、プラスチック消費の削減(リデュース)やリサイクル、そして“バイオプラスチック”への転換を進めようという動きが、国内外で見られるようになってきた。それらの動きの中心にあるのは2018年1月に公表された「循環経済(サーキュラーエコノミー)における欧州プラスチック戦略」3)であり、エレンマッカーサー財団の「新たなプラスチック経済」の報告書4)も影響力を持っていると言える。特に前者に呼応するように、我が国においても2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」5)が政府によって策定および公表された。

 ところで、海洋プラスチック問題の解決はプラスチック資源循環の目的となのだろうか。その問いに対する筆者の見解について、詳細は別稿6)に譲るが、結論だけ引用すれば、「海洋プラスチック問題のみを梃にしてプラスチック資源循環を進めようとすれば、どこかで必ず論理破綻を招く。海洋プラスチック問題は、資源循環ではなく適正回収と適正処理の問題である」と考えている。海洋プラスチック問題というシングルイシューの視点からは、中途半端なリサイクルで、その工程から残渣が海洋流出するくらいなら、確実に焼却処理してCO2という「プラスチックではない状態」した方が良いという考え方7)が合理性を持ってしまう。こうした理解が独り歩きすれば、プラスチックのリサイクルに対する懐疑的な見方、特にプラスチックは燃やせば良いという根強い主張に言質を与えることにもなりかねない。そうした極論に陥らないためにも、プラスチック資源循環の議論は、CO2などの環境負荷を削減し化石資源の消費を抑制するという観点に立ち返るべきであると考えている。

 海洋プラスチック問題については、その議論の嚆矢となったScience論文8)における海洋流出量の推計方法が、特に先進国について非常に粗く、我が国からの海洋流出量として頻繁に引用される2~6万tという数値が実質的に何の根拠も持たないという問題も重要であると考えている。ただし、その点については石川9)に詳しいため、本稿では改めて掘り下げることはしない。本稿の中編と後編では、もう一方の世間的な関心事である“バイオプラスチック”に絞って、それと海洋プラスチック問題やプラスチック資源循環における位置付けについて議論する。

【謝辞】
 本稿の内容は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(3-1801)「先端的な再生技術の導入と動脈産業との融合に向けたプラスチック循環の評価基盤の構築」の一環としてまとめられた。

【参考文献】
 
1)
森口祐一:「循環型社会から廃プラスチック問題を考える」、廃棄物学会誌16 (5)、pp. 243–252 (2005)
2)
西山進一:「小手先ではないプラスチック戦略を -レジ袋有料化の前にやるべきこと-」、国際環境経済研究所<http://ieei.or.jp/2018/12/opinion181214/>(2018)
3)
European Commission: “A European Strategy for Plastics in a Circular Economy” (2018)
4)
World Economic Forum, Ellen MacArthur Foundation, and McKinsey & Company: “The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics” (2016)
5)
消費者庁・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省:「プラスチック資源循環戦略」(2019)
6)
中谷隼:「プラスチック資源循環と海洋プラスチック問題」、環境経済・政策研究12 (2)、採択済(2019)
7)
ミッコ・ポーニオ:「【完全版】海を救え プラスチックのリサイクルは廃止に」、国際環境経済研究所 <http://ieei.or.jp/2019/07/opinion190722/>(2019)
8)
Jambeck, J.R., et al.: “Plastic Waste Inputs from Land into the Ocean,” Science 347 (6223), pp. 768–771 <https://doi.org/10.1126/science.1260352> (2015)
9)
石川雅紀:「もつれたマリンプラスチックごみ問題を解きほぐす」、国際環境経済研究所 <http://ieei.or.jp/2019/06/expl190607/>(2019)