プラスチック資源循環とバイオプラスチック

中編:バイオプラスチックとは何か


東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 准教授

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※ 前編:何のためのプラスチック資源循環か

 バイオプラスチックは何か。図1のベン図では、黄緑の楕円と水色の楕円の論理和で表される。日本経済新聞の記事1)から引用すれば、「サトウキビなどのバイオマス(生物資源)を原料につくられる」バイオマスプラスチックと、「微生物が分解する」生分解性プラスチックを合わせて“バイオプラスチック”と呼ばれる。ここで、この記事には「化石燃料由来のプラスチックは分解されにくく」、さらに「バイオマスプラスチックは、マイクロプラスチックの削減」が期待できると述べられている。ここに、完全に誤りとは言えないが、用語の定義に混乱があることに気付かれるだろうか。化石資源由来のプラスチックの対義語はバイオマス由来のプラスチック、すなわち“バイオマスプラスチック”である。この記事からは、化石資源由来かつ生分解性を持つプラスチック(図1の右下)や、バイオマス由来であるが非生分解性のプラスチック(図1の左上)の存在が抜け落ちている。このような誤解に基づくと、原料を石油からバイオマスに切り替えれば、ポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)といった従来からのプラスチックも生分解性を持つことになってしまう。


図1 バイオプラスチックの分類(European Bioplastics 2) をもとに筆者翻訳)

 このような混乱を助長しているのは、“バイオプラスチック”という用語であろう。例えば、英国のエレンマッカーサー財団の報告書3)では、囲み記事と概念図を使って“バイオプラスチック(bioplastic)”という用語が曖昧に用いられていることに警鐘を鳴らし、“バイオマス(bio-based)”プラスチックと“生分解性(biodegradable)”プラスチックを明確に区別する必要性が強調されている。欧州プラスチック戦略4)に至っては、一切“bioplastic”という用語が用いられていない。それに対して、我が国のプラスチック資源循環戦略5)では、依然として“バイオプラスチック”という用語が用いられている。2018年11月のパブリックコメントの実施後、それがバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称であることや、それぞれの定義が個々の注釈として追記されたものの、両者の差異が明示されているとは言い難い。

 そして、すでに学術的にも指摘され6)欧州プラスチック戦略にも明記されているように、生分解性プラスチックも海洋プラスチック問題の解決策としては疑問視されている。一般に、“生分解性”または“堆肥化可能(compostable)”とされているプラスチックが十分に分解するのは、産業化された堆肥化施設といった特定の条件下に限られ、そうした条件は自然環境(特に海洋)中に見出すことは困難である。また、生分解性プラスチックが従来からのプラスチック(PEなど)と混合してリサイクルプロセスに投入された場合、それは阻害要因にしかならない。そのため、プラスチックが生分解性を持つことが何らかの有用性を発揮できる場面は、堆肥化を前提とした生ごみの収集袋などの用途に限定されると言われている。欧州と比べて廃棄物処理の方法として堆肥化が一般的ではない我が国では、さらに生分解性プラスチックの役割は限定的になろう。

 我が国のプラスチック資源循環戦略の中では、「海洋プラスチック問題等の解決」に向けた具体的な取組の中に、「再生可能資源(紙、バイオマスプラスチック等)の率先利用」と明記されている。ここまで本稿を読んでいただいた方には、これがナンセンスであることを理解いただけると思う。前述のように、バイオマス由来のPEやPETが普及して石油由来のPEやPETを代替したとしても、海洋プラスチック問題には何の関係もないし、生分解性を持つバイオマスプラスチックであっても海洋プラスチック問題の解決に資する道筋は見えていない。プラスチック資源循環戦略と同日に公表された「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」7)と併せて見れば、本来の狙いはバイオマスを原料とした“海洋生分解性”プラスチックの開発と普及にあると推察できる。しかし、そうした枕詞なしに、バイオマスプラスチック全般が海洋プラスチック問題の解決に有効であるように述べ、それを梃にバイオマスプラスチックの普及を図っているのであれば、ある種のグリーンウォッシュのような不誠実さを感じるのは筆者の考えすぎであろうか。

【謝辞】
 本稿の内容は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(3-1801)「先端的な再生技術の導入と動脈産業との融合に向けたプラスチック循環の評価基盤の構築」の一環としてまとめられた。

【参考文献】
 
1)
日本経済新聞:「バイオマスプラスチックとは CO2排出削減も期待」(2019年6月24日付 朝刊)
2)
European Bioplastics: “What are bioplastics?” <https://www.european-bioplastics.org/ bioplastics/> (accessed July 12, 2019)
3)
World Economic Forum, Ellen MacArthur Foundation, and McKinsey & Company: “The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics” (2016)
4)
European Commission: “A European Strategy for Plastics in a Circular Economy” (2018)
5)
消費者庁・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省:「プラスチック資源循環戦略」(2019)
6)
Kubowicz, S. & Booth, A.M.: “Biodegradability of plastics: Challenges and misconceptions,” Environmental Science & Technology 51 (21), pp. 12058–12060 (2017)
7)
海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議:「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」<https://www.env.go.jp/press/106865.html>(2019)

後編に続く〉