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「環境」がポピュリズム台頭の第3の要因に


読売新聞編集委員


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 前回前々回に述べた経済界からの「エネルギー転換」政策の修正を求める声に加え、ドイツ国民の反発も近年顕在化してきたように思われる。そうした国民意識の変化を捉え、右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が「環境」を、「ユーロ」「難民」に続く第3のテーマとして積極的に争点化しようとしている。
 国民の反発とは、電気料金の高騰、ディーゼル車の使用制限といった負担増大に対するものである。こうした負担を「転換」政策や地球温暖化対策といった政策が生み出したものと捉え、国民の日常生活を犠牲にして進められるエリート主導、理念先行のプロジェクトと見る人が増えてきたのである。
 これまで、ユーロ導入による格差問題、難民受け入れが遠因の治安問題などをエリートによる政策の結果と見る人々が、AfDの支持に向かった。主要政党が「ユーロ」「難民」に関して基本的には同じ方向を向いている中で、AfDは「ユーロから国民通貨マルクに戻す」「移民難民受け入れの制限」などを掲げ、これらの問題に関して正面から異を唱える唯一の政党として支持を集めた。それと同じ構図が「環境」についても起きつつある。


ドイツ南西部ヴァイプリンゲンでのAfDの選挙集会
(2017年9月10日、三好撮影)

 ここでも、主にシュピーゲル誌の記事(2019年4月27日号)に依拠して現状を見れば、AfDは地球温暖化の原因が二酸化炭素(CO2)増大にあるとの知見を否定する唯一の主要政党である。また、ディーゼル車の使用継続を訴え、特に車に頼らざるを得ない地方部で、「ディーゼル車を救う政党」としてキャンペーンを行っている。2019年1月からディーゼル車の走行規制が始まったシュトゥットガルトでは、走行規制に反対する市民デモにAfD下院議員が参加してきた。また、連邦議会(下院)を舞台に、環境問題に関して議会質問や法案提出を繰り返している。
 AfDのサイトで党の主張を見ると、「電気料金は欧州で最も高くなり、(賦課金などの)補助金の累計は、2025年までに、平均的な1家庭(4人家族)当たり2万5000ユーロになる」といった、主に国民や産業への負担増を理由に、「政府のエネルギー政策は失敗した」と断言している。そして、再生可能エネルギー法廃止、気候変動に関するパリ協定からの脱退、原発の使用継続などを政策に掲げている。
 こうしたAfDの動きは、世論の動向と呼応しているようだ。2019年3月のドイツの調査機関INSAによる世論調査で、44.6%が石炭発電廃棄が早く実現するなら原発稼働延長も受け入れる、とし、3分の1が反対と回答した。他方、温室効果ガスの排出削減のため議論されている「CO2税」に対しては、賛成は3分の1に止まった。
 福島第1原発事故の際のドイツ人の激しい反原発感情を、ドイツ特派員として当時、身近に体験した私としては、国民の半分近くが原発容認の姿勢を見せることはにわかに信じられないが、「環境」をめぐりドイツの国内事情も激しく動く中で、世論にもやはり一定の変化が生まれていると見てよいのではないか。
 こうした構図は、ドイツだけではなく、国によって差異はあるが、欧州、特に西欧諸国全般に当てはまる。フランスでは燃料税導入に反対する「黄色いベスト運動」が、右派運動ではないが、「環境」に対する「日常」の反旗の色彩を持っていた。先日(6月6日)、ペッカ・オルパナ駐日フィンランド大使が日本記者クラブで講演を行ったのだが、その際、4月に行われた同国の議会(一院制)選挙で、右派ポピュリズム政党「フィン人党」が躍進し、第1党の社会民主党とほぼ同じ得票を獲得した理由について、環境問題が一つの要因だったと説明した。AfDと同様、環境派の主張に拒否感を抱く人々の票がフィン人党に集まった、というのである。
 他方、ドイツを中心に欧州全般に環境派の運動が活発化している現実もある。16歳のスウェーデン人女学生Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)の地球温暖化政策を求める、原理主義的な主張や活動がきっかけとなって始まった学生、生徒たちのデモ「Fridays for Future」は、欧州各国に広がりを見せ、ドイツのメルケル首相をはじめ主要政治家が支持を表明している。
 5月に行われた欧州議会選挙では、西欧各国で環境政党が支持を拡大したし、ドイツでは世論調査機関「インフラテスト・ディマップ」が定期的に行っている政党支持に関する調査(「次の日曜日に下院選挙があったとしてどの政党に投票するか」という質問)で、緑の党が27%とキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)25%、社会民主党(SPD)12%を押さえて、調査開始以来初めて、最大の支持を集める政党となった。
 環境派が政治面での支持を集める背景は、一つには10年ほど前まではなかったような集中豪雨や突風など、欧州でも自然現象が荒々しさを増していることがあるのかも知れない。多くの欧州人が「異常気象」を実感している。


ドイツ連邦議会選挙(2017年9月24日)以降の政党支持率の推移
出典:世論調査機関「フォルザ」調べ

 さらに、おしなべてどの国でも欧州では伝統的に強かった社会民主主義政党が衰退し、その支持が環境政党に流れている。「ユーロ」「難民」で、国民の多くに納得できる回答を用意できなかった左派勢力が、「環境」に改めて支持獲得の活路を見いだそうとしているようにも見える。
 このように「環境」より「生活(日常)」を選ぶ人々がポピュリズムに流れるという傾向がある一方、環境派がより原理主義的になり、支持を集める逆方向の傾向がある。「環境」を軸に世論が分極化する構図が、西欧諸国を中心に今の欧州に広がりつつある。欧州各国で「ユーロ」「難民」をめぐって起きた社会、政治の分極化が、「環境」によって促進される傾向は、今後も強まるのではないか。



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