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エネルギー問題でドイツ新政権の自縄自縛


ジャーナリスト


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 昨年(2021年)12月8日に発足したドイツのショルツ新政権が、発足早々、エネルギー問題の直撃を受けている。
 まず国際的な石油や天然ガス価格の上昇である。特にヨーロッパのガス価格は昨年秋以来、高騰し、年末には2021年年初の5倍以上に達した。
 ガス価格の上昇の要因は複合的だが、大きな要因として指摘されるのが、ヨーロッパ諸国が脱石炭を進めていることである。脱炭素を進めるため、同じ化石燃料でも温室効果ガス排出量の少ないガスに切り替えている。そのため、受給が逼迫している。
 ドイツの場合はそこに脱原発という事情が加わる。ドイツは今年末までに、現在稼働している原発3基を廃棄し、脱原発が完成する。2011年の福島第1原発事故をきっかけに2022年までの脱原発を決めたドイツは、同時に再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入を急ぎ、電力消費量の4割を超えるまでになっている。しかし、周知のように再エネは発電が不安定であり、バックアップのための化石燃料発電所を確保しなければならない。石炭発電所がその役割を果たせないならば、ガス発電所の増設は不可避だ。この点は新政権の連立協定にも盛られている。
 昨年のヨーロッパは天候不順で風量が減り、春から夏にかけ風力発電量が低迷したこともガスの需給逼迫に拍車を掛けた。ガス価格が高騰した昨年後半は、ガス火力の利用も抑制され、石炭火力が利用された。実際ドイツでは再エネの全電力消費量に占める割合は、2020年は46%、2021年42%と減少している。
 それに加えて、新型コロナウィルスのオミクロン株の急拡大で不透明感はつきまとうものの、特にアジアでは経済回復の兆しが見えエネルギー需要が回復している状況がある。ロシアとドイツを結ぶバルト海の海底天然ガスパイプライン「ノルトストリーム2」は、ウクライナ情勢などロシアを巡る政治的緊張もある中で、ドイツの規制当局による使用前検査期間が規則上の理由で伸びており、少なくとも3月まではかかるとされ、ヨーロッパにガスを供給できない状態が続いている。長期的には化石燃料開発に対する開発投資が世界的に細っていることも需給逼迫が続く要因になるだろう。
 エネルギー価格の高騰は、様々なひずみをドイツ社会にもたらしている。
 ドイツ連邦統計庁によると、昨年11月、エネルギー価格は前年同月比22.1%上昇した。それがガソリン価格や電気料金の上昇に結びつき、消費者物価指数(速報値)は前年同月比で5.2%上昇し、1992年以来、約30年ぶりの上昇幅となった。
 物価上昇は脱炭素の推進に多く起因していることから、「グリーンフレーション」という言葉も生まれている。ドイツの公共放送ARDによると、ガス価格は今年も24.6%上昇することが予想されており、インフレ圧力は当面減じることはないだろう。
 ドイツや英国では、電力市場からの調達コストを料金に転嫁できず、電力市場の自由化で格安の電気を供給していた多くの電気小売業者が倒産している。
 ARDは、電気供給の停止と他の小売業者への契約変更をいきなり迫られて、多くの消費者が困惑している様子を伝えていた。いわばおっぽり出された消費者の多くが新たに契約するのは、シュタットヴェルケ(Stadtwerke=交通、水道、電気、ガスなどの公共インフラを運営する自治体所有の公益企業)となったが、平均で倍以上の電気料金を課されている。これまで通りの電気料金で供給を受けられる旧来の契約者と、高い料金の新規契約者の間の格差が問題となっている。
 シュタットヴェルケの立場からすれば、旧来の契約者の間で長期的な契約を結んで電気を販売しており、新規契約者の増加に対応するためには新たに電気を調達しなければならない。無責任な小売業者のために自社のこれまでの契約者に負担を負わせるわけにはいかない。電気の市場価格が値上がりしている現状では、高い電気料金を課すことはやむを得ないという。
 ARDが環境問題の調査研究機関「アゴラ・エナギーヴェンデ」の調査結果を基に報じているところでは、2021年の温室効果ガス排出量は2020年より3300万トン、4.5%増え、7億7200万トンになった。電力会社が石炭発電を増やすことで価格上昇を抑えようとしたため、総発電量に占める石炭発電の割合が25%から27.8%と、いわば「石炭カムバック」が起きたためだ。


ドイツの温室効果ガス排出量の推移
出典:ドイツ連邦環境庁

 もっとも、温室効果ガスは2017年から減少傾向にあり、2019年は8億1000万トンだった。2021年に増加したとはいえ、大きな傾向としては減少している。ただ、これからコロナ後の本格的な経済回復が始まれば、ガス価格の高止まりが続く限り、温室効果ガスの排出量は、しばらく増加すると見るのが自然ではないか。
 このサイトではこれまでも、強引な「エネルギー転換」の推進が、電気料金の上昇、電気系統の不安定化など様々な問題を引き起こしていることは指摘してきた。昨年秋から顕著になった悪循環は、「エネルギー転換」が孕む矛盾が、エネルギー価格の高騰で一挙に顕在化したと見ることができる。
 強力な権限を持つ「スーパー官庁」経済・気候保護省の大臣として、気候変動対策の先頭に立つハーベック(緑の党共同代表)は今年1月11日の記者会見で、風力発電施設の建設が滞っている(昨年、建設された陸上の風車は460基とこの20年間で最低だった)ことなどを指摘し、あらゆる分野で再エネ導入の努力を3倍にしないと、再エネ割合を総発電量の80%にする目標を2030年までに達成できないと訴えた。
 しかし、再エネ発電増設に突き進むことは、今まで述べてきたような構造的な矛盾をますます深刻化させ、自縄自縛に自らを追い込むことになるのではないか。経済合理的に考えれば、原発を活用することが、ガス価格を抑え、温室効果ガスを減らす最も有効な施策だろう。
 ただ新政権が原発稼働期間を延長することはあり得ない。このサイトでも幾度も指摘したが、ドイツにとって環境問題は経済合理性の問題ではなく、歴史に根ざした理念、イデオロギーの問題だからだ。とりわけ緑の党にとって脱原発は、党のルーツでありアイデンティティであり、断念する訳にはいかない。
 ただ、ロシアのウクライナ侵攻という事態がなくても、ノルトストリーム2を稼働させるかどうか、早晩態度決定が迫られるだろうし、インフレの昂進は国民の不満を高めるだろう。ナチ政権につながったヴァイマール時代の教訓から、インフレに対しては強い反発を示すのがドイツ人だから、批判の矛先は政権の環境政策に向かうかも知れない。
 連立を構成する社会民主党(SPD)や自由民主党(FDP)は、環境政策目標についてはもう少し妥協的だし、ましてFDPは産業界を支持基盤とするから、連立与党間の確執も激しくなるだろう。
 気候変動対策を看板にして発足したドイツ新政権だが、その気候変動対策が早速、躓きの石になるかも知れない。



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