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ドイツのグリーン外交が本格始動


ジャーナリスト


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 2月9日、ドイツのベアボック外相は記者会見を開き、国際環境NGO(非政府組織)グリーンピース本部事務局長の米国人ジェニファー・モーガン氏(55)を、外務省の新ポストである国際環境政策特使(Sonderbeauftragte)に任命したことを明らかにした。

 モーガン氏は1994年から、いくつかの環境保護団体で一貫して気候変動問題をテーマにしてきた活動家で、ドイツや英国政府の気候変動問題に関する諮問委員なども務めた。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書の査読編集者でもあった。

 大学で政治学やドイツ語を勉強し、2003年からベルリン在住で、「自分の故郷」と呼んでいる。記者会見でも多少英語なまりはあるが、流ちょうなドイツ語で「政治的にドイツは私の命です」などと話した。

 記者会見でベアボック氏はモーガン氏を「国際的な気候政策において、経験、人脈、信頼性から彼女に代わる人材を知らない」と手放しでほめたたえ、「舵手として気候外交を主導し、他国との提携を構築し、世界の市民社会との対話を進める」ことが役割だと述べた。

 まず今年11月にエジプトで開催される国連気候変動枠組条約第27回締結国会議(COP27)の準備作業を担う。米バイデン政権のジョン・ケリー気候問題担当特使のような役割が期待されており、将来ドイツ国籍を取得し、外務次官に就く予定という。

 記者会見でベアボック氏は、終始喜色満面という感じで、41歳という若さもあるが、外相という立場の人の公の場でのふるまいにしてはややはしゃぎすぎ(緑の党の政治家にはよくあることだが)のように見えた。

 日本でグリーンピースといえば捕鯨活動への妨害が印象的で、どちらかというとネガティブなイメージを持っている人が多いのではないか。(日本の南極海での捕鯨調査へのグリーンピースとシーシェパードの妨害活動の実態は、(一財)日本鯨類研究所 : グリーンピースと動物福祉 -「環境保護団体」は南極海で人と鯨に何をしたか- (icrwhale.org)に詳しい)。2011年には、捕鯨関係者を告発するために運送会社から鯨肉を盗み出したグリーンピースジャパンの2人に対する窃盗罪の刑が確定した。

 正反対に、ドイツでは彼らのイメージはおおむね肯定的で、時に非合法な、派手なパーフォーマンスもメディアで好意的に取り上げられる。

 一般的にドイツでは環境NGOと政府、メディアとの距離は日本よりはるかに近い。福島第1原発事故発生を受けたドイツテレビのニュースで、最初に出てきたコメンテーターがグリーンピースの活動家(専門家)だったのを見たとき、そのことを痛感した。

 メルケル前首相も昨年8月、ドイツ北部シュトラールズントで開かれたグリーンピース創設50周年大会に出席し、「粘り強く、好戦的、確信的、かつ説得力を持って、海洋、大気、自然の傷つきやすさや、これらの我々人類にとっての重要性を指し示してきた」と、好意的な祝辞を述べている。

 環境NGOの社会での位置づけを見ていると、日本とドイツの政治空間、メディア空間において、当たり前と思うこと(常識、自明)が大きくずれていると感じる。少なくとも環境NGOの評価に関しては、大方の日本人とドイツ人はあたかも別の世界に生きているようである。

 モーガン氏は、グリーンピース事務局長を辞任するが、彼女のドイツ政府要職への就任は、政府の環境政策が国際環境NGOの活動指針とさして径庭がなくなったことを意味している。ドイツ政府は世界の環境NGOと手を携えて、理想主義的な気候変動対策を進めるのだろうか。

 政治的正しさ(ポリティカルコレクトネス)に沿った主流メディアは、この動きに大きな違和感は持っていないようである。日本でいえばNHKに当たる公共放送ARDはおおむね肯定的なトーンで報道していた。

 ただ、さすがのドイツ社会でも懸念する声が出ている。

 保守系の日刊紙ヴェルトの動画配信番組では、出演していたヴェルト紙の記者が、「ドイツは価値に導かれる外交を信奉してきたが、(モーガン氏の指名を機に)価値だけに導かれる外交になった」「(モーガン氏は)気候変動問題の分野でネットワークを持つというが、環境NGO、活動家のネットワークであり、まだ考え方を共有していない各国の首脳、環境政策担当者などとの関係構築はこれから行わねばならない」などと否定的な見方を示していた。

 シュピーゲル誌は、モーガン氏が最前線でひるまず戦ってきた活動家であり、COPでは歯に衣着せぬ強硬な批判者で、「会議の成果は道徳的に許容できない」と嘆いていたと指摘する。グラスゴーで昨年11月開かれたCOP26でも、「会議では権力者による補助金、妨害活動、利己主義が幅を利かせている。それに対して貧困国は生存のために戦わねばならず、活動家だけが真の公平性のために戦っている」と発言した。

 同誌はリベラル色が強いが、気候外交では当事者の自発性、信頼、協力が重要として、モーガン氏の経歴から、「活動家が外交官としてもやっていけるのか」などと懐疑的である。 

 野党に転じたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のユルゲン・ハルト外交担当スポークスマンは、「緑の党の外相が、国家としての在り方とロビー活動の境界をいとも簡単に乗り越えてしまったことは注目すべきことだ。ベアボック氏の気候政策が、グリーンピースや他の活動家団体からもう抵抗を受けることはないだろう」などと、NGOと政府が一体化することへの警戒感を述べた。

 ただ、緑の党が政権入りをして以降、環境NGOは、天然ガスを持続可能なエネルギーと認めたり、アウトバーン(高速道路)の建設を推進したりする、与党としての緑の党への批判を強めている。

 モーガン氏の登用は、もともとは身内的な団体からの批判を意識し、彼らの懐柔を意図している面もあるのだろう。ただ登用によって、ドイツ政府の政策に環境NGOの要求が直接反映する状況になれば、大きな混乱をドイツ、そして欧州連合(EU)の環境政策にもたらしかねない。

 ショルツ政権のグリーン外交は、この国際環境政策特使の人事にとどまらない。ベアボック氏は、1月18日のウクライナ・クレバ外相との会談で、水素エネルギーでの協力関係を持ち出した。

 ドイツが資金や技術を援助して、ウクライナの地でまだ開発の余地が大きい再生可能エネルギーを使って水素製造を行い、既存の天然ガスパイプラインを利用してヨーロッパに供給すれば、対ロシアエネルギー依存を減らすことができる。そのために両国が協力して「水素エネルギー外交事務所」を開設しようという提案である。

 ウクライナは前年(2021年)冬からロシアの軍事的脅威にさらされており、そのウクライナに対する提案としては間が抜けた、現実感覚を欠く素人的なやり方と言っていいのだろう。会談でウクライナ側が欲していたのは端的に武器援助だった。保守系のツィツェロ誌は、「お笑いの水素エネルギー外交」と揶揄する記事を掲載している。

 ハーベック氏もシュピーゲル誌とのインタビューで、ウクライナ危機からの事態打開のためにも、ロシアとの新しい経済協力を考えねばならない、と述べた上で、ロシアは水素エネルギーや風力エネルギーに潜在力があり、ドイツが天然ガスをロシアから購入しなくなっても、ロシアとの経済関係は継続するだろうという。

 ヨーロッパとロシアが相互依存関係を深まれば、戦争という手段には訴えづらくなる。再生可能エネルギーの分野でもそうなれば、平和に寄与するという発想だ。ウクライナ危機をめぐる対ウクライナや対ロシアとの交渉を進める一つのテコとして、気候変動対策を絡めるやり方は、実に緑の党らしいとは言える。しかし、プーチン・ロシア大統領にしても、ゼレンスキー・ウクライナ大統領にしても、こうした提案に、当然ながら、食指を動かすことはなかった。
 
 緑の党は政権与党になってからまだ間もないこともある。現実に直面する中で、次第に現実主義的な外交路線に軌道修正を図るだろうか。それとも、そのイデオロギー性をあくまでも貫こうとするだろうか。

 日本としては、環境政策での原理主義的な主張の矛先が、我が国にも向いてくることは避けたい。ただ、ドイツ外交が余りに環境至上主義的になれば、国際社会の大勢から総スカンを食う可能性も否定できないだろう。ドイツの主張をあまり真に受けるのも、いずれハシゴを外されることにもなりかねない。

 2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ドイツ外交にも大きな衝撃を与えている。一言でいえば、ロシアをはじめとする権威主義的国家に対するこれまでの外交はナイーヴすぎたのではなかったか、という深刻な反省を生んでいるのである。

 エネルギー面でロシアに大きく依存する脆弱性もにわかに意識され始め、ショルツ首相は、これまでドイツ国内になかった液化天然ガス(LNG)基地の建設を急ぐ方針を示した。経済安全保障の観点が、原理主義的な気候変動対策に優先される状況が生まれるかもしれない。新たな事態がグリーン外交の軌道修正につながるかどうか、注視したい。



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