自治体SDGs達成へのカギ

タテワリの行政主導から脱却、地域課題に即して横断的な発想


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年10月号からの転載)

 2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)には、貧困をなくすことや気候変動対策を進めることなど、世界が2030年までに達成すべき17のゴールが設定され、さらに169のターゲット(具体的な達成目標)が設けられています。国はもちろん、企業、自治体、市民などの非国家アクターもSDGsに積極的に取り組み、達成を目指すことが求められています。
 近年では、環境・社会・ガバナンス(企業統治)を重視して投資するESG投資が世界の潮流となり、企業もSDGsへの取り組みを強化していますが、実は自治体でもSDGsを施策に取り込む動きが活発化しています。

地域としてブレない軸を持つ

 日本では16年5月に「SDGs推進本部」(本部長・安倍晋三首相)が設置され、同年12月に「SDGs実施指針」、翌17年12月には「SDGsアクションプラン2018」を策定しています。
 アクションプランは、①SDGsと連動した官民挙げてのSociety 5.0(IoTやAIなどの革新技術を最大限活用した未来社会)」の推進、②SDGsを原動力とした地方創生、③SDGsの担い手である次世代・女性のエンパワーメント(能力を引き出し、発揮してもらうこと)―の3つの柱から成っています。
 環境省 大臣官房環境計画課課長補佐(内閣府地方創生推進事務局併任)の金井信宏氏に、自治体SDGsに取り組むにあたってのポイントなどをうかがいました。
 「自治体SDGsと地方創生は、持続可能な地域づくりの面から、ベクトルと攻略法が共通と捉えています。国に踊らされず、地域としてぶれない軸、つまり将来像と価値観を持つことが重要です」
 「自治体SDGsの取り組みではまず、2030年に向けた地域の持続可能な将来像を描けているかが重要です。その将来像の実現に向け、SDGsの考え方で地域づくりを実践することが、地方創生の実現につながります。将来像があいまいなまま、SDGsを銘打った表面的な取り組み自体が目的化してはいけません」
 こうしたポイントを踏まえたうえで、取り組みを進めるにはどうすればいいのでしょうか。
 「地域のために当事者意識を持って実際に企画・実践できる地域の人材こそ、地方創生の原動力です。SDGsの基盤の1つに“パートナーシップ”があります。自治体の役割は、多様な地域人材とパートナーシップを構築し、SDGs達成に向けて地域関係者をコーディネートする方向にシフトすることです」
 「地方の市町村ほど人口減少が進行しており、行政主導の限界に気づかなければなりません。一方で、早くから危機を自覚し、対策を講じた小規模自治体は、課題解決の先進地になる可能性があるともいえます。小規模自治体から学ぶことが地域づくりのトレンドになり、国・都市・農山漁村のヒエラルキーが逆向きになる時代を迎えると信じています」

自治体SDGsの好事例

 昨年12月には「第1回ジャパンSDGsアワード」の表彰式が行われ、SDGs推進本部長(首相)賞に北海道下川町、特別賞に北九州市が選ばれました。
 下川町は人口約3400人、高齢化が進む小規模自治体です。地域の人材と資源を活用し、毎年50ヘクタールの植林と伐採を60年のサイクルで繰り返し、持続可能な森林経営を行っていることが高く評価されました。木質バイオマス資源を活用した熱供給システムを核にしたコンパクトタウン化を推進しています。
 北九州市は、市の施策をSDGsの視点から捉え直したことが評価されました。多様な人材が活動し、市はSDGs関連事業に財政的、制度的支援を行っています。
 内閣府地方創生推進室は今年6月15日、SDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する29都市を「SDGs未来都市」として選定しました。特に先導的な取り組みである10事業を「自治体SDGsモデル事業」に選定しています。モデル事業に選定されたのは、北海道ニセコ町、下川町、神奈川県、横浜市、鎌倉市、富山市、岡山県真庭市、北九州市、長崎県壱岐市、熊本県小国町です(図1)。


図1 SDGs未来都市・自治体SDGs モデル事業の選定都市

――自治体SDGsの好事例は?
 「北海道ニセコ町を紹介します。人口は5000人ほどですが、1980年以降、ほぼ一貫して人口が増加しており、17年度の観光客は167万人超に上りました。“住民自治活動と行政の連携”による地域づくりがニセコ町の大きな特徴です。2001年には、住民自治のさまざまな取り組みを法令で裏打ちする『まちづくり基本条例』を全国で初めて施行しました」
 「また、スキー場管理区域外を滑走する自由と安全のために作られた地域の公式ルール“ニセコルール”は、行政と地域関係者のパートナーシップの下、地域関係者が主体的に運営を続けているのが特徴です。このルールが、パウダースノーに魅せられた国内外の観光客を呼び寄せ、ニセコを世界的なスキーリゾートに成長させる原動力になりました」
 「『地下水保全条例』と『水道水源保護条例』を道内で先駆けて整備したことでも注目されました。町としてぶれない景観・環境保全の考え方を仕組みにしたことで、乱開発を防ぎ、町の考え方に共感した投資を呼び込む好循環を生み出しています。こうした投資を呼び込む仕組みは、持続可能な地域づくりに大きく貢献します」

地域循環共生圏の創出

 「今年4月に閣議決定した『第5次環境基本計画』では、『地域循環共生圏』(図2)の創造が目指すべき社会の姿としています。農山漁村、都市の各地域がその特性を生かした強みを発揮し、互いに補完し、支え合いながら、地域内にとどまらず、幅広い地域とのパートナーシップを充実・強化していく絵姿は、自治体SDGsの取り組みに通じています」


図2 地域循環共生圏のイメージ

 SDGsの17ゴールは、環境のほか、貧困、不平等、平和、教育など幅広い。そのため、自治体がSDGsに取り組もうとすると庁内の部署をまたがるため、部署間の調整が難しい場合も多いと、金井氏は指摘します。こうした課題を克服するには、自治体の首長がトップダウンでSDGs推進を明言するとともに、タテワリの行政主導から脱却し、地域の課題に即して横断的な発想で対応することが重要です。