直流利用の拡大


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 これまでにもこのコラムで直流の利用について触れたことがあったが、それが実用的に広く利用されるにはまだ時間がかかるだろうと思っていた。世界的レベルで実用的に利用され始めたのは、大量の電力を24時間消費するデータセンターであるが、もともとUPS(無停電電源)システムの重要部分として大型の蓄電池が使われ、系統からの交流を直流に変換して蓄電池に投入し、センター内部でデータ処理をするシステムが交流を利用するのが標準であったために、蓄電池からの直流を交流に変換して供給し、その交流-直流-交流の変換に伴う電力損失が避けられなかったのだ。

 だが、データ処理システムは大型のコンピュータであり、内部では直流を使っていることに留意して、蓄電池からの直流をそのまま電源として供給するように変更し、電力の変換損失を10%以上引き下げることができている。最近では、系統からの電力を直流に変換し、データセンター全体へ最初から直流を供給するものも登場している。しかし、このような事例は特殊な事業形態に対応したもので、これが一般に利用されるためには、直流利用に関わる標準化、安全基準などが整備される必要があり、これがなかなか具体化されてこなかったのである。

 これまで身近で知る直流と言えば、乾電池、蓄電池といったものを利用する時に気にする程度のものであったが、直流を発電する太陽光発電、それに連なる蓄電池、電気自動車などが普及するようになって、直流を直接利用する方がエネルギー効率は高いということが次第に認識されるようになってきた。あらためて身近に使っている電気機器を調べてみると、ほとんど全てが交流を内部で直流に変換しており、基本的には直流消費機器だということが分かる。また、工場の設備なども直流を利用するものが増えている。これら機器一つ一つの電力消費は小さいため、交流を直流に変換するときの損失は小さいのではあるが、その台数を積み上げると、直接直流を利用できるようにすれば電力の消費を大きく抑制できることになる。

 日本の家電メーカーが、直流を利用できる機器を開発して実証テストをしていると聞いていたし、既に住宅用の分電盤に直流端子を備えたものを商品化している電機メーカーもある。そして最近、日本の電気機器メーカーが1,500ボルト以下の中低電圧の直流を使う実証棟を設置して利用を始め、近い将来中低圧直流配電を事業展開していくということを知った。データセンター、ビル、工場、駅などに売り込み、2025年度までに売上高100億円以上を目指すということだが、その後の展開として、一般住宅、建物での直流給電も射程に入っているに違いない。末端需要までの直流化には時間がかかるだろうが、国による標準規格の設定と促進策が具体的になれば、国全体が持つ膨大な電力消費潜在削減量を顕在化することができるはずだ。

 米国や豪州で、電力事業が自ら蓄電池を住宅や商用ビルに多数設置し、その充放電を一括制御することによって、電力の需給バランスを改善し、不規則に変動する風力・太陽光発電の出力を平準化しようとするプロジェクトが展開されつつある。日本でも同様なプロジェクトが自由化された電力市場の中で実現するだろうと予想している。このような動きとも相まって、直流利用は意外に早く身近なものとなるかも知れない。

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