高圧直流送電


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が6月30日、風力発電システムを複数基配置した大規模洋上ウインドファームの発電電力を複数の洋上変電所で集電・直流変換し、陸上の変電所へ送電する「多端子直流送電システム」を開発すると発表した。2020年3月までの約5年間、関連企業10社が、洋上、陸上間の複数のポイントで相互に接続して送電システムを構築するために必要となる技術開発を進めるという内容だ。これは、これまで世界的に広く使われている高圧直流(HVDC)送電が、2点間を結ぶものが殆どであったものを、途中で分岐や接続させる技術を開発普及させようというものだ。

 2013年5月の本欄で、我が国の送電網を拡充するために高圧直流送電を広く設置するという意見を述べたが、素人の思いつきだと受け止められたに違いない。だが、世界的に見れば、遠方で発電された電気を遠方の需要地まで送るためのHVDC送電線は多数設置されている。100万ボルトを超えるような超高圧での交流(HVAC)送電もあるが、送電距離が長くなると送電電力損失が大きくなるためにHVDCが採用されるのが殆どである。その典型事例が中国のHVDC送電網の設置だろう。2013年に発表された同国の2020年に向けた長期計画では、2013年時点で23本だったHVDC送電線を、2015年迄に15本新規に稼動させ、2020年には総設置規模を50本、総延長を3万キロメートルにするとしている。電圧は±80万ボルトが主流で、送電距離は1,000から2,000キロメートルが殆どになっている。中国では水力発電、石炭火力発電の設備が、電力の大需要地である南部、西部の大都市から遠く離れた北西部の内陸にあることから、高圧交流(HVAC)送電に比べて送電損失が少なく、交直変換器は高コストだが、送電線の本数が少なくて済み送電線設置コストが低いというメリットが評価されているのである。

 HVDC技術を60年ほど前に開発したのはスイスの企業ABBであるが、ドイツのSiemensも参入し、現在両社で世界の市場の80%を占めると言われる。直流の特性として、電気の流れを素早く切り離すのが難しかったために、HVDCはこれまで2点間を結ぶだけのものが殆どだったが、北海に洋上風力発電設備が多数導入されるようになって、送電系統を分岐させたり合流させたりすることがやりやすい技術を両社が最初に開発し導入が広がり始めている。日本でも福島県沖など幾つかの場所で洋上風力発電の実証テストが行われているが、HVDCで複数のウインドファームを結んで陸上に持ってくることを想定して、冒頭に述べたNEDOの開発プロジェクトが具体化されたのだろう。

 ここで注目すべきこととして、これに参加する企業に日立製作所が入っているということがある。同社は今年6月に国内向けHVDCの合弁会社をABBとの間で設立することに合意したと発表している。この開発計画の推進に日立製作所が果たす役割が大きくなると言えるだろう。日本の環境に適合したHVDC送電技術の開発が実を結べば、洋上風力発電に留まらず、日本全体で早期に実現されなければならない送電網の拡充、安定化にも大きく貢献することが期待される。一昨年に述べた持論が具体化するかも知れないのは嬉しいことだ。

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