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民主党サンダース氏とクリントン氏の気候変動対策は?


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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 11月の米大統領選に向けた民主・共和両党の指名獲得レースが進む中、日本時間の3月27日時点で、アラスカ、ワシントン、ハワイの3州で民主党の党員集会が行われ、3州すべてでバーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)がヒラリー・クリントン元国務長官に勝利する結果となった。クリントン氏がこれまでに獲得した代議員数はサンダース氏を上回っているものの、サンダース氏を支持する大学生ら若い有権者は多く、サンダース氏自身も7月の党大会までレースに残ることを宣言している。ウォールストリートジャーナル紙は、社会主義者を自称するサンダース氏の人気が衰えない理由として、経済格差の是正や授業料無償化など若い世代をターゲットとした施策とともに、誠実、信頼性、新しいアイディアを打ち出す姿勢にあると、世論調査の専門家のコメントを掲載している。

 さて、米大統領選における各候補者の気候変動問題への対策は、山本隆三所長の「気候変動問題は大統領選の大きなテーマ?」にあるように、民主・共和両党では大きく分かれている。共和党の候補者—トランプ氏、クルーズ上院議員、ケーシック知事は、気候変動問題は人為的起因であるとは認めておらず、気候変動対策について積極的に発言することはほとんどない。一方、民主党の候補者のサンダース氏とクリントン氏は、気候変動問題は科学的根拠に基づき人為的起因であることに疑いなく、大統領に就任した際には、前向きに対策に取り組むことを表明している。

 気候変動問題は大統領選の論点として関心が低いという世論調査の結果もあり、これまでの予備選の段階では、主要テーマとしてほとんど議論されてこなかった。しかし、3月6日の民主党討論会で、サンダース氏とクリントン氏が気候変動問題について意見を激しく戦わすなど、ここにきて米メディアの報道でも「気候変動対策をどうするのか?」という見出しが見られるようになってきた。

 山本所長がWedgeに寄稿した「反原発のサンダースに近づく クリントンの政策 大統領選が広げる共和党と民主党のエネルギー・環境政策の溝」もご参照いただきたいが、ここでサンダース氏とクリントン氏が考える気候変動対策のそれぞれのポイントを整理しておきたい。

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3月6日の民主党討論会 出所)CNN

サンダース氏の気候変動対策は?

 サンダース氏は、アフリカ系米国人など低所得者層の国民の健康リスクを減らし、異常気象から彼らのコミュニティを守るためにも気候変動対策は重要だと訴えている。2005年8月末に発生したハリケーンカトリーナでは、ニューオーリンズ市民48万人に避難命令が出され、市の8割が水没し、多くの死者・行方不明者を出した。避難した市民のうち、10万人のアフリカ系米国人が今も避難先から戻れない窮状を例に挙げている。サンダース氏が主張する気候変動対策のポイントは以下にまとめられる。

大統領府で化石燃料(石炭、石油、天然ガス)に関わるロビイストが働くことを禁止する。(気候変動懐疑論は、彼らがばら撒いたウソだと批判)
石油、石炭、天然ガス会社への多額の補助金を止める。(業界へ何十億ドルもの税金が投入される一方、議会が保険医療費や社会保障費を削減するのはおかしいと主張)
シェールガス・オイルの採掘に利用されるフラッキング(水圧で岩を破砕する採掘工程)を支持しない。
炭素税の導入による税収を再生可能エネルギーや住宅・ビルの断熱設備に投資する。
自動車に依存した社会の変革に向けて、鉄道に巨額の投資を行う。

 長年「反原発」の立場をとってきたサンダース氏は、温室効果ガス排出削減策の柱のひとつに再生可能エネルギーの普及拡大を据えている。一方、石油、石炭、天然ガスを気候変動問題の“敵”とみなす発言も少なくない。現在のオバマ政権は、石炭火力発電所への強い規制を打ち出し、“石炭への戦争”と揶揄されているが、より温室効果ガス排出が少ない天然ガスへのシフトを推進している。しかし、サンダース氏は化石燃料の業界全体に戦争をしかけているかのようである。一部の国民からの支持は得られると思うが、全米で石油、石炭、天然ガスの各産業に携わる雇用者は合わせて数百万人はいるだろう。化石燃料のすべてを“悪者”にする気候変動対策はやや過激に映るのではないか。いや、低所得者層の生活水準向上や税の再配分を求め、ぶれずに明確なメッセージを発するサンダース氏ならではの気候変動対策と言えるのかも知れないが。

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自身の選挙キャンペーンHPで、動画で気候変動対策の重要性を訴えかけるサンダース氏

クリントン氏の気候変動対策は?

 民主党の最有力候補であるクリントン氏が掲げる気候変動対策のポイントは、細かな数字の積み上げはされていないが、オバマ政権の対策を引き継いだものになっている。

年間700億ドル超のエネルギーコスト削減

昨年10月オバマ政権が施行した「クリーン・パワー・プラン(クリーン電力計画)」を含め、効果的な温室効果ガス排出削減策を実施し、家庭および業務部門におけるエネルギーコストを年間700億ドル超削減する(一世帯あたり年間600ドルの削減)。エネルギーコストの削減により、米国の産業の国際競争力をさらに強化する。

600億ドルを投資した「クリーンエネルギー・チャレンジ」立ち上げ

600億ドルを投資し、全米の州や市、地方のコミュニティと連携し、「クリーンエネルギー・チャレンジ」プロジェクトを立ち上げる。カナダとメキシコと協定を結び、大陸を縦断し、よりクリーンで安全なエネルギーの普及拡大と温室効果ガス排出削減を図る。

エネルギー効率向上による早死リスクの低減と節税

自動車やトラックなど車両のエネルギー効率の向上により、米国民3600人の早死のリスクを防ぎ、年間9万人のぜんそく発作を防ぐ。また、病院や大学など公共設備のエネルギー効率向上によるエネルギーコストの削減により年間80億ドル超の税の節約を図る。節税分は、国民の医療費や教育費の負担軽減に充てる。

給与条件の良い雇用の創出

エネルギー分野の設計、エンジニアリング、製造、建設工事における給与条件の良い雇用を増やす。

石油消費量を年間3億バレル超減らして排出削減

家庭および業務部門における石油消費量を年間3億バレル超減らし、温室効果ガス排出削減を行う。クリーンエネルギー経済への移行を進める一方、化石燃料(石油や天然ガス、石炭)については、安全を確保し、環境に配慮した責任ある生産を行っていく。
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出所)クリントン氏の選挙キャンペーンHPより

 この他、「クリーンエネルギー・チャレンジ」プロジェクト関連では、クリントン氏が大統領に就任した際には、就任から4年以内の2020年までに米国内に太陽電池モジュールを5億枚設置することや、2020年までに米国の太陽光発電の累積導入量を140GWまで拡大する方針を打ち出している。太陽光の大量導入の目標達成に向けて、2016年12月31日付けで控除率が30%から10%に縮小される予定の法人向け投資税額控除(ITC:)の期間延長を求めている。

 これらの対策を行うことにより、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)での米国草案における目標 - 温室効果ガス排出量を2025年までに 2005年水準比26%~28%削減を上回る水準の実現をめざすとしている。なおクリントン氏は、予備選の段階では、気候変動対策としての原子力発電については言及していない。

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