米大統領選〜米国の自動車政策の行方は?


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


 2015年の米国自動車販売台数が1,750万台に達し、前年比5.7%増となった。2009年のクライスラーとゼネラルモーターズの経営破綻・救済騒動から7年。オバマ政権による支援策に加え、米自動車メーカーがダイナミックな人員整理を行ったことで、米自動車産業は目覚ましい回復を見せていることが伝えられている。
 2月上旬のワシントンD.C.訪問では米自動車業界にヒアリングを行い、自動車政策の現状と今後の方向性について聞いている。

――米国市場はどういう状況か?

 「2015年は、好調な経済や長期の低金利自動車ローン、ガソリン価格の低下も後押しして、車種別販売では大型車・スポーツ車が好調な売上げを見せた。一方、ハイブリッド自動車(HV)とプラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)は大きく減少し、各自動車メーカーは販売に苦戦している。やはり電気自動車(EV)に一気に進むのは難しい。テスラモーターズのように特定の客層を狙う電気自動車メーカーもあるが、EV自体のマーケットシェアはまだかなり小さいものだ」

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出所:US Office of Energy Efficiency and Renewable Energy

 米国の中でも環境規制に厳しいカリフォルニア州では、同州大気資源局(CARB)が1990年以降、排ガス規制としてZEV(Zero Emission Vehicle)法を制定し、自動車メーカーに対して販売台数の一定割合を、走行時に排ガスを出さないZEVにするよう義務付ける「ZEV規制」を導入している。

 現在、カリフォルニア州内で販売する新車の14%をZEV車の販売を義務付けしており、2018年から25年にその割合を15.4%に引き上げる予定である。規制値をクリアできなかった場合、自動車メーカーはCARBに罰金の支払いか、他社から環境クレジットを購入しなければならない。ZEV規制は全米10州に拡大している。

――ZEV規制が拡大しているが、業界としての対応は?

 「米国内では、カリフォルニア州のZEV規制へと動く州、そうではない州と二分されている状況だ。州によって充電設備の普及やEV需要にばらつきがあり、それぞれの州の環境規制に対応している今は手間がかかり大変だ。自動車メーカーとしては、統一された規制に対応するほうが次世代自動車戦略も立てやすいというのが正直なところだ」といった答えが返ってきた。

 「むしろ燃料課税として炭素税で統一してもらったほうが販売戦略も立てやすい」といった声も一部聞かれた。

――EV推進のオバマ政権の自動車政策は、次期政権に引きつながれると思うか?

 「かつてジョージ・ブッシュ大統領は、公害対策と輸入石油への依存を減らすため、自動車用水素燃料電池の開発を加速する計画を打ち出し、燃料電池自動車の早期普及を目指すことに力を注いだ。また、ビル・クリントン大統領はバイオエタノールの導入推進を国家戦略として位置づけた大統領令を発表し、バイオ燃料自動車の普及を図った。

 今のオバマ政権はEV・PHVを推進しているが、過去を振り返ると、歴代大統領の自動車戦略は“円(サークル)”を描くように変遷してきた。ハイブリッド、EV、PHV、燃料電池、バイオエタノール、ディーゼルなど、カードが限られる中で大統領の“好み”で自動車戦略が変わってきたとも言える。そういう意味では、次期政権が打ち出す自動車政策は予見できない」

――これから注目の技術は何か?

 「燃料電池自動車の普及拡大が期待される。しかし、水素ステーションのインフラ整備が不可欠で、需要に追いついていない状況だ。自動運転車や先進パワートレイン技術も注目だ。先進パワートレイン技術開発※によりハイブリッドや電気自動車(EV)の技術のさらなる高みをめざす戦略が、米国や欧州、日本の自動車メーカーから打ち出されている」

 先進パワートレイン開発への投資がグローバルに活発化する中、次の大統領が民主党から誕生するのであれば、オバマ政権のEV推進の自動車政策は踏襲される可能性は高いと思われる。しかし、共和党から大統領が誕生することになれば、自動車政策がどうなるのかは不透明だ。次期政権の米国の温暖化問題への対応いかんによっては、原油安も手伝い、自動車政策が大きく変わってくる可能性がある。

パワートレインとは:エンジンでつくられた回転力を効率よくタイヤに伝える装置のこと。エンジンやクラッチ、トランスミッション、プロペラ シャフトなど。

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