COP21の成果とこれから


国際環境経済研究所理事


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(「月刊 経団連 2016年4月号」からの転載)

まだまだ成長が必要なアジア地域が鍵を握る

 まず、図表をよく見ていただきたい。2000年から2014年までのエネルギー起源CO2の排出状況を地域別、主要国別に見たものである。強調したいのは、表の右側の“増加けん引率”である。一四年間の増減をどこがもたらしたかを表している。京都議定書ができたころは、OECD諸国が排出増加の半分強をもたらしていたのだが、2000年以降は、非OECD諸国が地球上の全増加量をもたらし、欧米先進諸国は減少となっている。地域別には、中東地域も急成長しているが、何といってもアジア太平洋地域が著しく増加し、世界の排出増の九割弱をもたらしている。大国である中国、インド以外の国々だけでも全体の増加量の13%を占めている。アジア地域の特徴は、ほとんどの国がまだまだ貧しく、経済成長が依然必要だということだ。エネルギー起源の温暖化ガス排出量はまだ増え続けると考えざるを得ない。

図1

気候変動問題以外にも人類喫緊の課題は多い

 もう一つ考えておかなければならないことがある。気候変動問題以外にも、現在人類が取り組むべき課題が少なくないという深刻な現実である。昨年九月の国連総会で、「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が採択され、取り組むべき一七の開発ゴールが示された。

図 主要国・地域のCO2削減限界費用比較(RITE秋元圭吾グループリーダー)

図 主要国・地域のCO2削減限界費用比較
(RITE秋元圭吾グループリーダー)

 それらの目標は、①貧困、②飢餓、③健康で安定した生活、④しっかりとした教育、などに始まり、13番目に気候変動問題が位置付けられる。 
 現実はさらに厳しい。これらの課題の取り組みに必要な資金、人材、時間などの投入資源には限りがある。すでに指摘されているところだが、日本の排出削減コストは、スイスと並んで極めて高い。
 誰でも気付くのは、対策費用や人材を、限界削減費用の低い途上国・地域において排出削減のために利用した方が効果的ではないかということである。

アジアの一員として日本の貢献を実現したい

 パリ会議の結果、これまでに比べ、気候変動対策は取り組みの多様性と柔軟性は増している。地球上の全員で取り組もうという姿勢が明確になった結果でもある。もともと、地上には国境はあるが、大気中には国境はない。クレジットの帰属、技術の選択、資金負担など課題も少なくはない。それでも、先進国が途上国を資金・技術面で支援する方向性が具体的に一歩進んだ。各国の知恵が生み出したところだと評価できる。
 上述の現状を踏まえれば、日本が内外でとるべき方向性が見えてくる。
 考え方の基本は、資金等・投入資源の地球規模での効率的利用である。関係機関のレッドテーピングに伴う資金無駄遣いなど論外である。
 日本がかねて主張し、対策の基本の一つであるイノベーションも基軸となった。国連の場が、国単位での取り組みという大きな制約があることはわかる。それでも、パリでは、現実的で緩やかな枠組みの方向性が見えてきた。優先順位を明確にしながらも、多様な考えも排除せず取り組んでもらいたい。
 日本としては、途上国支援という点で、まず、中国、インドを含めたアジア諸国を支援対象の第一に考えたい。アジア諸国はまだまだ貧しく、経済成長が必要である。国々の社会的・風土的要素も勘案しながら、なんとか低炭素化に向けて共同で取り組むことを考える必要がある。JCM(二国間クレジット制度)は、大きなベースとなると考える。
 JCMは、パリ協定で、国際的取り組みとして認められたようだ。現実は進んでいて、ASEAN10カ国のうち7カ国がすでにパートナー国となっている。プロジェクトベースにとどまらず、社会全体のシステムを見て、低炭素化をともに考えていけることを期待したい。コミュニケーションが大切である。
 企業側にもチャンスはある。すでに一部で実施されているが、アジア諸国にある工場や関係企業との共同取り組みをさらに一歩進められないだろうか。加えて、関係国政府がこれを評価する仕組みができないだろうか。都市間、同じ産業間での国際的共同取り組みもすでにあるが、これを国際的な枠組みのなかでの評価ポイントとできないだろうか。まずは、“ダブルカウント云々”などといわず、やってみてほしい。

イノベーション戦略は成長戦略

 国内温暖化対策は、今春中をめどに、政府ベースですでに検討が進められている。安倍総理の言う「気候変動対策と経済成長を両立させる鍵は、革新的技術の開発」は、正鵠を得ている。経済成長力の維持が重要だ。
 そこで要望である。温暖化対策を支援促進するため、企業の研究開発費用・投資額に対する租税優遇措置を“気候変動対策”の一環として大いに活用するべく徹底してもらいたい。場合によっては、さらなる減税などの優遇措置もあってもよいのではなかろうか。特に、中小企業の研究開発取り組みの強化拡大を目指し、日本商工会議所等から指導・支援をしてもらいたい。中小企業庁や商工中金などでも、低炭素化とそのための技術開発への支援を事業の一部に鮮明に加えてほしい。地域活性化策ともなろう。
 最後に、“適応”についても期待するところが大きい。すでにさまざまな適応策が、さまざまな地域や国々で実施され始めている。昨年11月には、GCF(緑の気候基金)でも数件が融資対象として具体化された。実は、日本の農産物の“品種改良”実績は高く評価されている。アジア地域諸国のニーズも踏まえて、この分野で共同した取り組みもあり得よう。もう1つ。5年前から始められたノーベル賞受賞の根岸英一教授が率いるCO2光合成に関する研究開発である。予算措置は的確だとは思うが、CO2活用の道が開けることを大いに期待したい。



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