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第7話「IAEA総会(下)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使


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IAEA総会決議の採択

 一週間にわたるIAEA総会は、事務局長による冒頭演説、各国政府代表の一般討論演説と進んだ後、最終的には、IAEA予算の承認や、新たな理事国の選出、様々な原子力関連の政策分野における総会決議の採択が行われる。
 ほとんどの決議は、同じ議題の下で例年採択されており、前年の決議をベースに過去一年の新たな動きを踏まえて、夏頃からウィーンで各国代表部による調整が行われる。IAEA総会の前の週には、9月の定例のIAEA理事会が開催されるので、そこでの議論も反映される。そして、総会期間中には、本会議(Plenary)の下に設置される全体委員会(COW: the Committee of the Whole。略して「カウ」と呼ばれる)において多くの決議案が審議された後、本会議に提出され、採択されることとなる。ただし、地域情勢関連の決議については、全体委員会での審議を経ることなく、直接本会議に提出されるのが通例である。

IAEA総会本会議の模様(写真出典:IAEA)

IAEA総会本会議の模様(写真出典:IAEA)

本年の第59回IAEA総会議長に選出されたフォルミカ・イタリア代表部大使(中央)。左は天野事務局長。(写真出典:IAEA)

本年の第59回IAEA総会議長に選出されたフォルミカ・イタリア代表部大使(中央)。左は天野事務局長。(写真出典:IAEA)

 総会決議採択の段取りは手続き規則において規定されている。基本的には、投票ではなくコンセンサスによる採択が追求される。投票により賛否が分かれ、国際社会が分断されているメッセージを与えるよりも、全ての加盟国が賛同するコンセンサス採択の方が決議に重みが増すからである。また単なる賛同ではなく、決議案を提案する側に立つ共同提案国が多ければ多いほど、その決議が国際社会の幅広い支持を得ている証になる。もっとも、コンセンサスを得る過程で決議内容が薄められ、あたりさわりのないものになる問題もある。このため、決議を推進する側としては、どの程度まで妥協してコンセンサスを重視するか、それとも内容を薄めるより投票も辞さずとするかは、交渉の中で判断していくことになる。
 全体委員会の段階でコンセンサスが成立したものについては、本会議でもそのまま採択されるのが通例である。しかしながら、全体委員会でまとまらなかったものや、総会本会議に直接提出される決議案については、本会議の場で決議案の文言を巡って紛糾することがある。コンセンサスが成立しない場合には、投票により総会としての意思決定を行うことになる。投票手続きについても手続き規則で細かく定められており、一つのパラグラフや、フレーズのみを分割投票に付すやり方も認められる。また、実際に投票する場合の具体的方法についても決められている。原則は議場で各国代表が自国のネームプレートを持って挙手をする方法が選択されるが、各国からの求めにより、ロールコール方式と呼ばれる、一国ずつ賛成か、反対か、棄権かの投票態度を明言していく方法がとられる場合もある。
 この、投票による意思決定方法が明確化されている点については、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の交渉を経験した筆者にとって大変新鮮であった。COPでは、発足当初の際、手続き規則において投票手続きの部分が合意に至らなかった故に、合意文書のコンセンサスを目指して延々と協議を続けることを毎回余儀なくされている。COPでの気候変動交渉が、ともすると遠心力が働きがちになるのとは対照的に、IAEA総会では、最後は投票で決める手続きがあることで、結果的にコンセンサス形成に向けた求心力を生み出している面がある。本年のIAEA総会は、最終日の金曜日9月18日の午後6時頃、全ての議題を終えて閉幕した。例年、最終日の金曜日を超えて土曜日までずれ込むのは当たり前、近年では日曜日までかかるCOPの交渉とは大違いである。
 今回は、本年のIAEA総会で採択された主要な決議のポイントを紹介することとしたい。

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原子力安全

 第5話でも触れたとおり、IAEA福島報告書が公表され、IAEA原子力安全行動計画が最終年を迎えた本年IAEA総会において、原子力安全はハイライトの一つであった。原子力安全を更なる高みに引き上げていくために、今後、何をすべきか。その方向づけをするのが、本年の原子力安全に関する総会決議の役割であった。
 同決議では、第3話で紹介した、「原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)」の発効や、原子力安全条約(CNS)外交会議におけるウィーン宣言の採択、IAEA福島報告書の公表など、この一年の新たな動きに触れている。その上で、加盟国に対し、原子力安全に関する諸条約への未締結国の加入や、IAEAの原子力安全基準を考慮した安全対策の実施を奨励するとともに、IAEAに対しても、福島報告書に示された教訓や、行動計画の実施状況を踏まえながら、今後の原子力安全戦略を練ることを求める内容となっている。

原子力エネルギー、原子力科学技術応用、技術協力

 IAEA事務局にある6つの部局のうち、原子力の平和的利用の促進に関する3つの局(原子力エネルギー、原子力科学技術応用、技術協力)の活動は、途上国の関心が極めて高い。IAEAのこれら分野における今後の活動を方向付ける関連の総会決議についても、原子力発電に関連する一部を除き、途上国グループ(G77+中国)が決議原案を作成する慣行がある。本年は、国連総会における新たな開発目標(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の採択を翌週に控えたタイミングだったこともあり、とりわけ、開発課題に対処するための原子力科学技術の一層の活用に期待が寄せられた。
 本年の決議で特筆すべき点としては、2018年に原子力科学技術の応用に関する閣僚会議を開催することが明記されたことがあげられる。持続可能な開発のため、特に非発電分野での原子力科学技術の活用に途上国から高い関心が寄せられていることを踏まえたものである。2017年には原子力発電に焦点をあてた閣僚会議をアラブ首長国連邦で開催することが既に決まっている。この2017年、2018年の二つの閣僚会議は、天野事務局長が提唱するAtoms for Peace and Developmentの路線に一層の弾みをつけるためのものであり、その準備が今後、本格化することになろう。

保障措置

 昨年のIAEA総会と比べて最も対照的だったのが、保障措置に関する決議である。昨年は、「国レベル概念(SLC: State Level Concept)」とよばれる、限られた予算で保障措置業務を一層効率的、効果的なものにするためIAEA事務局が提唱した新たなアプローチを巡り、IAEAの査察活動の強化に懸念を持つ途上国と、核不拡散強化を目指す先進国との間で大きな論争が巻き起こった。各国が納得する内容となる決議が採択されるまでに多大な労力が費やされた。
 一方、本年は総じて静かであった。昨年の決議策定プロセスを経て、新たなアプローチに対する途上国の懸念が相当程度和らげられたこと、新たなアプローチの適用にあたり事務局が丁寧なステップを踏んでいることなど様々な理由があげられる。

核セキュリティ

 核セキュリティは、IAEAの活動としては、比較的新しい領域であるが、米オバマ政権になって核セキュリティサミットが開かれる様になったこともあり、近年高い関心を集めている分野である。他方、様々な理由により、核セキュリティ決議案を巡っては、紛糾する場合が多い。本年も同様であった。
 今回は、核軍縮に言及した前文パラグラフを巡って、ドラフト段階から各国の間で議論が紛糾した。根底には、核軍縮へのIAEAの関与を巡る各国の立場の違い(大きく二つに分けると、核軍縮はIAEAの活動マンデートの枠外であり、IAEAの場に持ち込むべきでないとする立場と、IAEAには核軍縮においてより積極的な役割を果たし得るとする立場がある)がある。様々な案文が提示されたものの、結局、全体委員会ではコンセンサスがなされないまま、本会議に提出され、一部パラグラフが分割投票に付されることとなった。最終的に、投票に付されたのは、前文パラ(c)後段の以下の部分である。

“and stressing that further progress is urgently needed in nuclear disarmament, consistent with relevant international nuclear disarmament and non-proliferation obligations and commitments,”

 議論が紛糾した背景には、本年のNPT運用検討会議が合意文書不採択という結果に終わったこと、その要因の一つとして核軍縮を巡る各国の立場の違いがあり、特に核兵器国による核軍縮が進まないことに対する非核兵器国側のフラストレーションが増大していることが挙げられる。各国の立場の違いが尖鋭化しており、それがIAEA総会の場では核セキュリティ決議案プロセスで噴出したといえる。
 来年前半には米国で核セキュリティサミットが、来年12月にはIAEAによる核セキュリティ国際会議が開催予定である。日本では広島でG7外相会合が、伊勢志摩でG7サミットが開催される。これらの国際会議を念頭に置きながら、NPT体制の立て直しという大きな流れの中で、この核セキュリティの問題についても取り組んでいく必要がある。

本会議において報告を行う、全体委員会委員長のベンフシーヌ・アルジェリア代表部大使(写真出典:IAEA)

本会議において報告を行う、全体委員会委員長のベンフシーヌ・アルジェリア代表部大使(写真出典:IAEA)

地域情勢関連決議(北朝鮮、中東)

 IAEA総会決議の中で、最も高い政治性を帯びるのが、地域情勢に関する決議である。
 毎年のIAEA総会では、北朝鮮と中東に関する決議が採択されてきている。いずれも、核の問題が地域の安全保障に密接にからむ地域であるが、その様相は両者で大分異なる。
 まず、日本の安全保障に直結する北朝鮮については、63ヶ国という過去最高の共同提案国により総会決議がコンセンサスで採択された。3回の核実験を行い、累次の安保理決議に違反しながら核関連活動やその他の挑発行為を続ける北朝鮮に対し、核の番人であるIAEAの場から、国際社会としての強いメッセージを示すものである。このメッセージには、IAEAとの関連では、北朝鮮がNPT上の義務を遵守し、包括的保障措置協定に従ってIAEAの査察を受け入れ、全ての核関連活動が平和利用目的であることを明らかにすることが含まれる。北朝鮮は1994年にIAEAを脱退しており、総会の場には北朝鮮代表団はいない。ただし、IAEAを脱退しても、北朝鮮はNPT非核兵器国の義務としてIAEAとの包括的保障措置協定に基づく査察を受けなくてはならない。北朝鮮の問題行動は誰の目にも明らかであり、また当の北朝鮮がその場にいないため、北朝鮮決議についてコンセンサスを妨げるほどの各国の立場の根本的違いはない。後はどの程度の強いメッセージを盛り込むか、主要国(特に六者会合の当事国である、日本、米国、韓国、中国、ロシア)の間での交渉により決められることになる。比較的シンプルな構図といえるが、それは北朝鮮の核問題が深刻でないことを意味するものではもちろん無い。北朝鮮がIAEAを含む国際社会との関係を断ち、世界から孤立した形で挑発行為を繰り返しているところに、イランとは異なる北朝鮮の核問題の深刻さがある。
 一方、中東地域を巡る状況はより複雑である。同地域のプレーヤーである、エジプトをはじめとするアラブ諸国、イラン、イスラエルはいずれもIAEA加盟国であり、ウィーンでもそれぞれ強い存在感を放っており、活発な外交活動を行っている。第4話でも触れたイランの核開発問題が近年はクローズアップされてきたが、より歴史の古い構造的問題としては、イスラエルがNPTに加盟せず、事実上の核保有国と目されており、これに周辺アラブ諸国が反発しているという対立構図がある。
 この構図の中、IAEA総会では、毎年アラブ諸国より、2つの決議案が提出される。一つは、中東地域の全ての国々にNPT加入をよびかけ、IAEA保障措置の適用を強化し、非核地帯の設立を後押しする「中東決議案」、もう一つは、イスラエルを名指しする形で同国の核能力の検証と報告をIAEAに求める「イスラエル核能力(INC: Israel Nuclear Capabilities)決議案」とよばれるものである。後者のイスラエル核能力決議案は、イスラエル非難を含意する、特に政治性の強いものであり、その採択を巡って各国の間で激しい駆け引きが行われる。いずれもコンセンサス採択は見込まれず、例年投票に付されてきている。中東決議案は例年採択、イスラエル核能力決議案は例年否決されてきているが、過去に一度だけ(2009年)、イスラエル核能力決議案が採択されて大きな波紋をよんだこともあり、投票結果はその時々の情勢に左右される。日本は、中東決議案については賛成する一方、イスラエル核能力決議案については、国際社会を分断するものとして反対の立場をとってきている。
 今回は、本年4-5月のNPT運用検討会議が、中東非大量破壊兵器地帯構想を巡る各国の立場の違いにより、成果文書不採択という結果に終わってから初めてのIAEA総会であり、NPTの場で作られたネガティブな雰囲気が、IAEAにも持ち込まれることが懸念された。
 いずれの決議案も、例年どおり投票に付され、前者の中東決議案は採択(賛成162、反対0、棄権14。一部パラの分割投票結果は省略)、後者のイスラエル核能力決議案は否決(賛成43、反対61、棄権33)という前年どおりの結果となった。もっとも、後者のイスラエル核能力決議案の投票結果にも見られる様に、中東問題における各国の溝は大きく、前途は多難である。

投票に付された総会決議案に対して挙手による投票を行う各国代表団(写真出典:IAEA)

投票に付された総会決議案に対して挙手による投票を行う各国代表団(写真出典:IAEA)

2016年はIAEAにとって節目の年

 総会が終わり、世界各国からやってきた代表団が帰国し、サイドイベント会場も撤収されると、会場となったウィーン国際センターも静かになる。
 その中で、翌週の月曜日には、再び理事会が開催される。総会前の一週間に開かれる理事会からメンバー構成が入れ替わっており、全35ヶ国の理事国のうち、総会期間中に新たに選出された11ヶ国の新理事国が入った形で行われる。
 この理事会での最初の仕事は、新たな理事会議長の選出である。昨年9月から一年間、理事会議長は、東欧グループ出身のスロバキアのマルタ・ジャコヴァ(Marta Ziaková)女史が理事会議長を務めてきた。同女史に替わり、本年9月から一年間は中南米グループ出身のビーニャス(Laércio Antonio Vinhas)ブラジル代表部大使が議長を務めることになった。新たに議長席に座った同大使の最初の仕事は。来年までの理事会、総会など主要行事の日程の決定である。来年のIAEA総会は、本年より少し遅めの9月26日から30日まで開かれることが決められた。同大使は、事務局のサポートを受けながら、順調に議事を進めていった。
 なお、この総会明けの理事会では、手続き事項のみを淡々と決めるものであり、実質的事項は取り上げられないのが通例である。他方、今回は、総会終了直後に天野事務局長がイランを急遽訪問したこともあり、その結果報告がこの理事会の機会を使ってなされた。

新たに理事会議長に就任した、ビーニャス・ブラジル代表部大使(中央) (写真出典:Dean Calma/IAEA)

新たに理事会議長に就任した、ビーニャス・ブラジル代表部大使(中央) (写真出典:Dean Calma/IAEA)

 いずれにせよ、2015年のIAEA第59回総会は終わった。
 来年の2016年は1956年のIAEA憲章採択から数えて60周年の記念の年であり、IAEA総会は1957年の第1回総会から数えて60回目の節目の総会となる。来年のIAEA総会はどのようなドラマが待ち受けているであろうか。

(※本文中意見に係る部分は執筆者の個人的見解である。)

【参考資料】

外務省ウェブサイト
(国際原子力機関(IAEA)第59回総会(結果))
http://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/n_s_ne/page3_001389.html
IAEAウェブサイト
(59th IAEA General Conference (2015) Resolutions and Other Decisions)
https://www.iaea.org/About/Policy/GC/GC59/Resolutions/

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