緊急提言 【提言8】

—COP21:国際交渉・国内対策はどうあるべきかー


国際環境経済研究所前所長


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※【提言7】はこちらから

Ⅱ 国内対策は、国際合意や状況の変化に適合する柔軟性あるものに

提言8

 既存技術への補助と抜本的な温室効果ガスの削減を可能とする革新的技術開発に対する研究開発投資とのバランスを見直せ

温暖化の進展を食い止めるためには、「抜本的かつ継続的な排出削減が必要※23」であることはIPCC第5次評価報告書にも指摘されているとおりである。しかし、今年6月のエルマウG7サミット首脳宣言にあるように、「世界全体の温室効果ガス削減目標を2050年までに2010年比で40%~70%の幅の上方の削減とすることを目指す」というような大幅な排出削減を実現するためには、現在人類が保有する技術や現行の努力の延長では不十分であり、革新的技術の開発と普及が必要となる。将来的に大幅な排出削減を可能にするためには、今からここに多くの資源を投入していく必要がある。たとえばトヨタ自動車が2014年2月に販売を開始した燃料電池自動車は、実に四半世紀以上前の1992年に開発を開始したとされている※24ことからも分かる通り、革新的な技術開発には莫大な時間と投資が必要である。
問題はリソースに限りがある中で、革新的技術開発に投入されるリソースと既存技術の普及・拡大に投入されるリソースとの間にトレードオフが生ずる※25ことだ。
翻って、現在の我が国は再エネの普及策であるFITに国民負担を原資とした資金を集中投下している状況にある。上述のように2015年度にはFITにより1兆3,222億円もの間接補助金が賦課金の形で支払われている。他方、経済産業省、環境省、農林水産省、文部科学省、国土交通省、総務省の2015年度の再生可能エネルギー関連予算2,001億円のうち、技術開発に振り向けられているのは607億円だけだ。FITは既存の技術の普及に向けた補助制度でしかなく、新技術開発やコスト低減のための技術開発を促進する効果に乏しい。補助金に依存した高コストの再エネの普及をいつまでも続けることはできない。ましてや資金力に乏しい途上国で、再エネ普及の補助金を出し続けて化石燃料からのエネルギー転換を図ることは現実的でないが、まさにその途上国において、今後エネルギー需要が急拡大していくのである。地球温暖化問題に抜本的に対処していくためには、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーを、化石燃料並みのコストで安定的に供給する技術が必要であるが、いまだ人類はそうした解決策を持ち合わせていないのである※26
温暖化対策として期待が高い再エネ技術が、市場において補助金なしに自律的に普及していくためには、再エネによる発電コストが石炭や天然ガスなど化石燃料による発電コストを下回る必要がある。そのためには、コスト削減を可能とする技術開発を動機付ける政策が重要であり、基礎段階・実証段階にある技術開発と商用技術の加速的普及に向けた支援策とのバランスが見直される必要がある。また商用技術の普及支援においては、市場統合とコスト低下が必要なことは提言7に述べたとおりである。
抜本的な温室効果ガス削減につながる革新的技術開発は再生可能エネルギー分野にとどまらず、多岐にわたる。原子力も、温室効果ガスを出さない低炭素電源という意味でクリーンなエネルギー源の一つであるが、その大規模な普及にはいまだ克服すべき課題も多い。放射性廃棄物を出さない原子力発電技術や、あるいは核廃棄物の核種転換技術などへの技術革新への期待は高い。あるいは既存の再エネ技術を超えた人工光合成や宇宙太陽光発電など、基礎研究から壮大なエンジニアリング上の挑戦を要する次世代の再エネ技術開発への期待も大きい。これらの技術の開発と実用化には莫大な資金と時間がかかり、民間企業だけで進めるにはリスクが高い場合も多い。このため、政府による戦略的な研究開発投資が不可欠であり、例えばGDPの一定の割合を政府が革新的エネルギー研究開発に充当する等の思い切った取り組みが求められる。提言6で述べたように地球温暖化対策税の税収の使途のプライオリティを、従来の「既存技術の導入支援」から「革新的技術開発に向けたR&D投資」にシフトすることも一案である。革新的技術開発は国内対策にとどまらず、国際協力イニシアティブを通じた世界規模での取り組みを主導していくことも必要となる。この分野は提言3でも言及したICEFと並ぶ日本の国際貢献策としても、大きな可能性を有している。温暖化問題が長期かつ世界的課題であるからこそ、既存技術への野放図な補助から将来技術の開発に資源投入のリバランスを図るべきである。

※23
エネルギー基本計画における訳
※24
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001-1.pdf の7ページ
※25
http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/environment/fcv/
オックスフォード大のディーター・ヘルム教授はその著書” The Carbon Crunch – How We’re Getting Climate Change Wrong – and How to Fix it” (2012) の中で、既存の再生可能エネルギーの導入支援に膨大なリソースを投入している欧州のグリーン政策を痛烈に批判している。
※26
既存の低炭素エネルギー技術が化石燃料に対して競争力がなく、補助金依存の普及策ばかりがはかられていることの限界と非効率性を指摘し、低コストでクリーンなエネルギー技術開発に向けて世界各国が国情に合わせた技術革新プログラム(NAIA)を掲げて推進していくことについては、ロンドン経済大学を中心とした研究グループ(Hartwell Group)から提唱されている。(” The Vital Spark: Innovating Clean and Affordable Energy for All” (July 2013) London School of Economics MacKinder Programme)邦訳:http://eneken.ieej.or.jp/data/5107.pdf
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