化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(その6)

エネルギー消費を増加させないで世界の経済成長を求めることはできない


東京工業大学名誉教授


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エネルギー消費の増加なしの経済成長を訴えるのは、先進国のエゴである

 いま、世界的な経済不況が言われるなかで、何とか成長を維持している新興・途上国だけでなく、工業先進諸国までもが、この世界的な不況感を脱するための成長継続の必要性を訴えている。しかし、経済の成長にはエネルギーが必要である。このエネルギーの主役を担ってきた地球上の化石燃料資源に、その枯渇が迫っている(本稿(その1)参照)ことに対して、どうやら、各国のエネルギー政策の担当者は目をつぶっているように見える。どこの国でも、経済成長を訴え続けることが、政治権力の維持にとっての欠かせない要件だからであろう。日本でも、失われた20年と言われるデフレ不況対策を進める政権党によるアベノミクスだけでなく、野党までもが経済成長を訴えている。
 各国の経済成長の指標としてはGDPの増加比率の値が用いられている。IEA(国際エネルギー機関)のデータ(日本エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献6-1)に記載)をもとに、先進諸国(OECD34)と、これに所属する一部の国の一人あたりの実質GDP(2010年価格米ドル換算のGDP)の値と、一人あたりの一次エネルギー消費の関係の年次(1971~2012年)変化を図6-1に示した。
 この図から、先進諸国(OECD34)では、国により多少の違いがあるが、2000年代に入ってから、GDPの増加を続けながら、一次エネルギー消費を停滞、さらには削減していることが見て取れる。これに対して、新興・途上国(非OECD)、および、そのなかの一部の新興国についての同様な関係を示した図6-2では、明らかに一次エネルギー消費の増加とともにGDPも増加している。
 図6-1に示す先進諸国での最近のエネルギー消費の増加とGDPの減少の関係を捉えてか、エネルギーを使わないでも経済成長が図れると主張する人がいる。しかし、これは明らかな勘違いである。すなわち、本稿(その2)に示したように、多くの先進諸国では、自国の景気の後退を理由にして、エネルギー消費の大きい産業を新興・途上国に移転してきた。これが、少ないエネルギー消費で、より大きい経済的な利益を得るための産業のグローバル化である。さらに、この図6-1に示す先進諸国における最近の異常とも見られるGDPの増加には、水野(文献6-2)が指摘するように、米国主導の「電子・金融空間」で創出された十数年間に140兆ドルにも上るとされるマネーが含まれていると見ることができる。
 しかし、図6-1と図6-2の両図に示した世界(世界平均)の値に見られるように、世界全体では、GDPの増加と一次エネルギー消費の増加がはっきりと連動している。すなわち、世界全体では、エネルギー消費の増加無しで、実質的な経済成長を図ることができないことが明確に示されている。したがって、いま、先進諸国に代わって、世界の経済成長を担っている中国をはじめとする新興諸国(BRICS)に、この成長に必要とされるエネルギーの大量消費を負担させることで、自国の経済成長を図ることは、先進諸国のエゴ以外の何ものでもないと言ってよい。

図6-1

図6-1 先進諸国における一人当たりのGDPと一次エネルギー消費との関係(1971~2012年)
(IEAのデータ(エネ研データ6-1))に記載)をもとに作成)

図6-2

図6-2 新興・途上国の一人あたりのGDPと一次エネルギー消費の関係(1971~2012年)
(IEAのデータ(エネ研データ6-1))に記載)をもとに作成)

世界が協力して化石燃料消費の節減のために経済成長を抑制することこそが、地球を守り、日本経済を救い、人類文明を存亡の危機から守る

 水野(文献6-2)によると、「いままで、経済成長がいつまでも継続すると信じてきた資本主義社会が終焉を迎えようとしている。それは、資本投資が経済的利益をもたらすための成長に必要なフロンテイアが、もはや地球上には存在しなくなったからである」としている。しかし、いまでも、この資本主義の終焉がもたらしている世界的な不況を脱するための成長の継続が世界中で競われている。
 これをエネルギーの問題として見てみると、いま先進国の多くでは、図6-1に見られるように、経済成長のために必要なエネルギー消費が減少傾向にあるなかで、GDPの増加を図っている。一方、新興・途上国では、図6-2に見られるように貧困からの脱出のための経済成長に、エネルギー消費を増大させているから、世界全体では、依然として、エネルギー消費が増加している。このまま、世界のエネルギー消費の増大が継続すれば、やがて、現在のエネルギー源の主役である化石燃料は、本稿(その1)~(その3)で述べたように、今世紀中に費消尽されることになる。いや、その前に、本稿(その4)に記したように、化石燃料の国際貿易価格が上昇し、使いたくとも使えない国が出てくる。
 産業革命以降続いてきた現代文明社会は、有限な化石燃料(エネルギー資源)に支えられて成長を続けてきた。その化石燃料資源が枯渇に近づいている今、次稿(その7)に述べるように、化石燃料枯渇後の社会でも、再生可能エネルギーを用いれば、経済成長を図ることができるとするのは、科学技術力の限界を知らない人々の妄想であると言ってよい。先進諸国の一員として、今までのままの経済成長の維持を目的として、化石燃料消費を増大させた時に、真っ先に先進国の地位を捨てなければならなくなるのは、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本であることを私どもは厳しく認識すべきである。

<引用文献>

6-1.
日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2014年
6-1.
水野和夫;資本主義の終焉と歴史の危機、集英社新書、2014年

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