日本は石炭火力とどう向き合うべきか(1)〜エネルギー調達リスク評価


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


印刷用ページ

 このところ石炭火力発電所の新設計画が相次いで発表され、それに対して、環境大臣が意見書を提出し、火力の今後の在り方が議論の的になっています。一連の新設計画のニュースには、私自身も「CO2排出量が増加するのではないか」という懸念があったので、IEEI「オピニオン」に投稿された東京工業大学名誉教授の久保田宏氏の「石炭火力発電所の新設計画に、「待った」をかけた環境大臣(その1)、(その2)は関心を持って読ませていただき、大変参考になりました。
 石炭、石油、天然ガスなどエネルギー源のほとんどを海外から輸入している日本。東日本大震災後は、火力発電の電力量が増加し、化石燃料依存度は急上昇している状況です。気候変動対策を背景に、アメリカやEUが脱石炭政策へとシフトする中、日本は石炭火力とどう向き合っていけばよいのでしょうか。石炭火力のあるべき姿について模索したいと考えています。まずブレインストーミングとして、各燃料の調達に関する情報やデータを調べてみました。興味深いデータをいくつかピックアップしましたので情報共有します。
 最初に原油、天然ガス、石炭、ウラン、LPガスの各燃料の輸入先(2013年)についてまとめたものです。原油とLPガスは輸送にあたって、ホルムズ海峡やマラッカ海峡等を通過して輸入していますが、中東依存度が約83%とかなり高い状況です。天然ガスと石炭はオーストラリア、東南アジア諸国からの調達割合が高くなっています。天然ガス調達の中東依存度は30%程度です。ウランは、カナダやカザフスタンからの調達割合が高くなっています。

図1)各燃料の輸入先(2013年)   出典:貿易統計(2013年1月〜12月)

図1)各燃料の輸入先(2013年)   出典:貿易統計(2013年1月〜12月)

エネルギー調達に関するセキュリティインデックス評価

 続いて、「エネルギー調達に関するセキュリティインデックスによる評価(試算)」を見てみましょう。これは、日本やアメリカ、EU、韓国、中国、ロシアなど評価対象国の一次エネルギー構成やエネルギーの調達先の分散と各調達先のカントリーリスクから、エネルギー調達リスクを計算した値を「セキュリティインデックス」として計算したものです。値が大きいほど調達リスクが高く、小さいほど調達リスクが低くなっています。カントリーリスクの評価については、供給国の供給安定性、供給地域間のリスク相関、供給地域の紛争頻度、調達国までのシーレーンなどが加味されています。2010年と2012年の調達リスクについて計算しているのは、東日本大震災前後の状況を比較するためです。
 図2に示す通り、セキュリティインデックスがもっとも高水準にあるのが日本と韓国だということがわかります。日本の調達リスクが高いのは、自給率が6%と低いこと、エネルギー輸入先のカントリーリスクの高さ、極東の島国であることによるシーレーンリスクの高さ等が背景としてあります。また、2010年と2012年の比較した場合、日本は震災後の原子力発電の稼働停止により、化石燃料の利用割合が増加し、エネルギーセキュリティのレベルはさらに悪化している状況で、韓国よりも調達リスクが高くなっています。

図2)セキュリティインデックスの計算結果(試算) 出典:資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会資料「エネルギー基本計画の要点とエネルギーをめぐる情勢について」より抜粋

図2)セキュリティインデックスの計算結果(試算)
出典:資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会資料
「エネルギー基本計画の要点とエネルギーをめぐる情勢について」より抜粋

 このセキュリティインデックスから、日本の自給率の低さやエネルギー需給構造の脆弱さを改めて考えさせられます。石炭は、中東依存度0%で地政学的リスクが化石燃料の中でもっとも低く、貯蔵が容易で、国内在庫は約30日あります。熱量当たりの単価が化石燃料の中でもっとも安く発電コストは9.5円/kWh。一方、中東依存度83%と地政学的リスクが大きいのは石油ですが、国内在庫は約170日と可搬性が高く備蓄が豊富です。石油の発電コストは22.1円/kWhと燃料価格が高く、発電における経済効率性はあまり良くありません。
 CO2排出量が化石燃料でもっとも低い天然ガスは、石油に比べて地政学的リスクは相対的に低いのですが、貯蔵が難しく、国内在庫は約14日。天然ガスの発電コストは10.7円/kWhです。原子力発電は、燃料のウランの中東依存度は0%で在庫日数は約2.7年程度ですが、福島事故後は全電源に占める割合は大幅に低下し、現在稼働している発電所はゼロという状況です。再生可能エネルギーは国産エネルギーで自給率向上に貢献し、ゼロエミッション電源で世界的に導入拡大傾向にあります。しかし、日本では大型水力を除くと全電源に占める割合はまだ3.2%と、これから導入拡大を図っていく新しいエネルギーです。これらのことからも、ひとつのエネルギー源に大きく依存するのではなく、多様なエネルギー源を備えてリスクを分散していかなければならないことを痛感します。
 エネルギーの安定的な確保は、国民生活と産業活動で重要な基盤であり、国の安全保障にとっても重要な問題です。エネルギー調達セキュリティインデックスを見る限り、日本にとって石炭火力の選択肢はなくしてはならないものだと再確認しましたが、石炭火力を継続的に利用していくためには、環境負荷をいかに低減していくか、でしょうか。環境負荷を低減する方策や技術開発の動向については、またリサーチして書きたいと思います。



東京大学環境エネルギー科学特別部門 駒場キャンパスDiaryの記事一覧