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石炭火力発電所の新設計画に、「待った」をかけた環境大臣(その2)

日本経済の生き残りのためにも、電力の生産は、当面は石炭火力に依存すべきである


東京工業大学名誉教授


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温暖化を起こすとして嫌われる石炭だが、抑制して使えば、温暖化は最小限に止まる

 いま、環境大臣が「待った」をかけている石炭火力発電の新設計画が次々と発表されているのは、本稿(その1)で述べたように、3.11事故以降、再稼動できなくなった原発の代替として、それが、最も安価な電力を供給できるからである。
 これに対して、いま、地球温暖化を促進する二酸化炭素(CO2)を多量に排出するからとして、この石炭を使ってはいけないとする環境大臣をはじめとするいわゆる環境派と称する人々の主張の根拠となっているのが、IPCC(気候変動に関する国際間パネル)による「温暖化が化石燃料の使用によるCO2の排出に起因する」とした科学の仮説である。最近(2013年~14年)発表されたIPCCの第5次評価報告書(IPCCの報告書)によれば、「世界が現状の化石燃料消費の増大を継続すると、今世紀中に大気中に放出されるCO2排出量の累積値は約7兆トンに達し、地球の地上気温の上昇幅が4.8℃になり、地球の生態系にとりかえしのつかない変化が懸念される」としている。
 しかし、私がIPCCの報告書の内容を詳細に検討・解析した結果によれば、IPCCが主張するように、地球温暖化が大気中へのCO2の大量排出に起因するとしても、地球気温上昇幅が4.8℃に達するのは、世界各国が経済成長を競って化石燃料消費の増大を継続した場合である。これに対して、同じIPCCの報告書は、今世紀末(2100年)までのCO2の累積排出量を3兆トン以下に抑えることができれば、予測結果として与えられる気温上昇幅は、現代文明社会が、何とか温暖化のネガテイブな影響に耐えることのできる気温上昇幅とされる2℃以内に抑えることができることを示している。
 また、私の試算によれば、世界が協力して、今世紀末までの世界の年間平均の化石燃料消費量を現在(2012年)の値32,562百万CO2トン(エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献2-1)から)に抑えることができれば、今世紀末(2100年度)のCO2の累積排出量は約2.9兆トン(=(32,562百万トン)×(100-12)年))に止めることができる。
 なお、これも私の試算結果だが、地球上の化石燃料の確認可採埋蔵量(現在の技術と経済条件で採掘可能な資源量)から計算されるCO2の累積排出量は、3.23兆トンと試算されるから、経済力のある大国が、この資源量の制約を無視して化石燃料を大量に消費しない限り、IPCCが訴えるような温暖化の恐怖は起こらないと考えることができる。一方、このように化石燃料の消費を抑制して使わない限り、地球上の化石燃料資源は枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰して、使いたくとも使えない国と人々が出てくる。現状で、化石燃料の殆どを輸入に依存している日本は、真っ先に、その仲間入りをせざるを得なくなり、経済的な苦境に陥ることが避けられない。以上、詳細については、拙著、文献2-2等を参照されたい。

再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用は、石炭の国際市場価格が高くなってから

 いま、政府は、地球温暖化を防止するために、経済性を無視しても、いますぐ、その対策として、化石燃料の代わりに再エネや原子力を使うべきだとしている。しかし、上記したように、世界が協力してエネルギー消費を、したがって、化石燃料の消費を抑制することができれば、地球温暖化の恐怖は最小限に止めることができる。
 また、本稿(その1)でも述べたように、これらは、現在、一次エネルギー(化石燃料の資源量換算値で表したエネルギー)消費量の約4割しか支えていない電力にしか変換・利用できない。この電力への依存を主体とする電力化社会は、今まで人類が経験したことのない社会である。その創造のためには、現代文明社会のエネルギー消費の構造を根本的に変えなければならない大変な困難を伴うことを認識しなければならない。
 とは言え、いずれは、化石燃料が枯渇に近づき、その代わりに再エネ電力を使用しなければならない時がやって来る。しかし、それは、再エネ電力の生産コストが、現状で最も安価な石炭火力発電の生産コストより低くなった時でなければならない。したがって、いま、石炭火力より発電コストの高い再エネ電力を導入するためとして、国民に大きな経済的は負担をかけている不条理な「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」は即時廃止すべきである。再エネ電力の導入促進のために国民のお金(税金)を使って行われる国の助成策として許されるのは、この再エネ電力が、いま、日本経済の貿易赤字の大きな原因になっている化石燃料の輸入金額の節減分のみでなければならない(文献2-3)。

日本の高効率石炭火力の技術を世界に普及すれば、世界の発電用の石炭の消費を削減できる

 地球温暖化を促進するとして嫌われ者になっている石炭火力発電だが、実は、現在(2012年)、世界では、発電量の40.5%が石炭火力で賄われている(日本では29.5%)。したがって、下記するように、日本の優れた石炭火力発電技術を世界に適用できれば、有限な資源としての石炭を少しでも長持ちさせることができるだけでなく、いま、IPCCが主張する地球温暖化の原因とされるCO2の排出を低減することになる。
 IEA(国際エネルギー機関)のデータ(エネ研データ、文献2-1から)から、世界各国の石炭火力発電の発電効率の値を試算して図2-1に示す。この図にみられるように、日本の石炭火力発電での発電効率が世界一高い値を示すが、これは、日本では、超臨界火力発電を主体とする高効率の石炭火力発電技術が普及・利用されているからである。したがって、この日本の優れた技術を世界に移転して、世界の石炭火力発電効率を現状の34.7%から、3%増加させることができたとすれば、世界平均の火力発電用の石炭消費量も3%節減できることになる。

図2-1

注;各国の石炭火力の発電効率の値は、それぞれの国の電源構成のデータから、
次式を用いて計算した。
(石炭火力発電効率)=(発電量kWh)×(860kcal/kWh)/(発電用投入石炭の発熱量kcal)
図2-1 世界各国の石炭火力発電のエネルギー効率の試算値
(IEAデータ(エネ研データ(文献2-1)から)をもとに計算して作成)

 また、同じIEAのデータ(文献2-1)から、日本での現状(2012年)の火力発電の電力の全てを石炭火力で賄うとした時のCO2排出量の増加量と、日本の高効率石炭火力発電技術を世界に移転して、世界平均の石炭火力発電の効率を3%増加させることができたとした時の世界のCO2の排出の削減量を試算して表2-2に示した。
 この日本の石炭火力発電技術は、特に、火力発電の石炭使用の比率の大きい新興国、途上国に喜んで導入して貰えるであろうし、また、いま、問題になっているCOP21(第21回国連気候変動枠組締結国会議)での世界のCO2排出削減対策にも大きく貢献するはずである。

表2-2日本の高効率石炭火力発電技術を世界に普及した場合の世界のCO2排出量の収支、2012年
(IEAによる世界の電源構成データ(文献2-1から)を用いて計算)

1)
CO2排出量原単位(CO2トン/石油換算トン);石炭3.96、石油3.07、天然ガス2,35
2)
日本の火力発電用の石油と天然ガスを石炭に置き換えたときのCO2排出量の増加;
石油から石炭;(石油36.6百万トン)×((3.96-3.07)CO2トン/石油換算トン)=32.6百万CO2トン
天然ガスから石炭;(天然ガス71.4百万石油換算トン)×((3.96-2.35)CO2トン/石油換算トン)=115.0百万CO2トン
合計147.6百万CO2トン
3)
世界の石炭火力発電の発電効率を3%アップした時のCO2排出の削減量;
(世界の火力発電用石炭消費量2,272百万石油換算トン)×(3.96CO2トン/石油換算トン)
×(発電効率の増加率0.03)=270百万CO2トン

引用文献

2-1.
日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2015年版」2015年、省エネルギーセンター
2-2.
久保田宏;2030年度電源構成のなかの再生可能エネルギー(再エネ)の意味を考える(その3)COP21に向けて日本に求められるのは、世界の化石燃料消費の具体的な削減提案でなければならない、ieei、2015/06/03
2-3.
久保田宏;科学技術の視点から、原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年

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