「クリーンパワープラン」~石炭火力に厳しい新規制(2)
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(前回は、「「クリーンパワープラン」~石炭火力に厳しい新規制(1)」をご覧ください)
2013年9月20日、環境保護庁(EPA)は、CO2排出制限を含む新設設備のパフォーマンス基準(NSPS:New Source Performance Standards)を公表している。この中で、今後、新設される年間発電電力量2億1900万kWh超の発電設備(2万5000kW級設備を100%稼働した場合に相当)に対して、
- (1)
- 天然ガス火力については、大規模設備1000ポンド CO2/MWh(0.45kg- CO2/kWh)、小規模設備1100ポンド CO2/MWh(大規模とされる閾値は、投入熱量850MMBtu/時=10万kW級設備に相当)
- (2)
- 石炭火力については、1100ポンド CO2/MWh、あるいは7年平均での融度措置を求める場合は、1000~1050ポンド CO2/MWhをCO2原単位基準とすることが提示された。
特に石炭火力については、昨年3月に一次提案(旧提案)された際には、30年平均で1000ポンド/MWh(0.45kg/kwh)のCO2原単位の基準を満たせばよく、当初10年間はCCS(二酸化炭素回収・貯留)なしで石炭火力を新設し(約1800ポンド/MWh)、運開11年目以降の20年間はCCSを建設し、67%程度のCO2の回収を行うことで(約600/MWh)で、30年間の平均値を満たすことは可能とする、とある程度の柔軟性をもたせていたが、新提案では一層厳しい内容になっている。
またCCSについては、電力業界は技術的にも商用的にも採用できる段階にはなく、天然ガスとは適用される基準を分けて、2000ポンド/ CO2/MWh(0.9kg- CO2.kWh)以上とすることを要望していただけに、現在建設中の3つのプラントへの適応除外以外に柔軟性を許容しない新提案に対して閉口しているという。
2012年末時点で全米にある石炭火力発電所は1308である(設備容量310GW)。2012年単年で合計設備容量10.2GWの石炭火力が退役しているが、これは2011年の発電容量の3.2%を占める。2015年には合計発電容量16GWの発電所が退役する見込みだが、そのうち81%12.9GWは石炭火力発電所である。
EIA(Energy Information Association)の「The Annual Energy Outlook 2014」によると、2020年までに設備容量として60GWの発電所が退役するという予測が出されている。短期的に老朽火力の退役が進む理由の背景として、環境保護庁(EPA)によるMATS(Mercury and Air Toxics Standards)の規制の発効がある。EIAの「2040年のエネルギーミックス」によると、石炭火力発電所と原子力発電所の退役の割合によって4つのケースで電源割合が予測されている。いずれのケースでも再生可能エネルギーの割合はほとんど変わらないが、退役した発電所を補完するのは天然ガスで、その割合が大きくなる見込みである。シェールガス革命により中長期的に安価で豊富な国産天然ガス供給が中長期的に見込まれることから、石炭から天然ガスへの燃料シフトが進み、全米で石炭火力を減らす傾向が加速しており、「クリーンパワープラン」がこの動きを促進するとみられている。
米国では、シェール革命により安価で豊富な天然ガス資源が手に入り、また既存の充実した天然ガス・パイプラインがあることから、短期的に国産天然ガスの調達量を増やし、既存の天然ガス火力を炊き増しすることで、燃料転換が進んできた。
しかし、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)・上席研究員のチャールズ・エビンジャー氏は、「2020年以降、米国のシェールガスの黄金時代が続いているかは疑問だ」と話し、「中国やアフリカでも今は水の確保などの問題でシェールガスが掘削できない状況だが、将来技術的に可能になるかもしれない。米国で石炭火力から天然ガス火力発電シフトが完全にできると私は楽観的な見方はしていない。むしろ悲観的な見方をしている。カナダがいい例だが、シェールガスによる多くのLNG輸出ターミナルの建設プロジェクトが進められているが、政治的な対立が多く、まわりは驚くかもしれないが、この先10年で2、3つのLNG輸出ターミナルができればいい方だと思っている。世界的にみると石炭市場は伸びており、電力市場において天然ガスと競争力を持っているのは石炭だ。安価で安定的にエネルギー供給ができる石炭の可能性を否定することはない」として、オバマ政権の一連の石炭火力への規制強化に疑問を投げかける。
また、電源割合については地域性があり、西部のマウンテン(アリゾナ、コロラド、アイダホ、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、ユタ、ワイオミング)、中西部のウエストノースセントラル(アイオワ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタ)やイーストノースセントラル(イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン)では石炭火力が依然50%超を占めている。石炭火力発電所が多い州で天然ガスなど代替燃料へシフトする場合、電気料金が上がる可能性は高い。石炭産業で成り立っている地域での反発は容易に予想される。共和党や産業界からも反対の声が根強い新規制案がどう決着するのか。今年夏頃に最終的に規制化される見通しだが、2016年に任期を終えるオバマ大統領が打ち出したクリーンパワープランは、次期政権まで多くの事案がもつれ込むことを見越した長期戦になりそうである。
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- 謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。
次回は、「米国のCCS実証事業」についてです。