【緊急提言】誤解だらけの気候変動問題
-基準年はいつにすべきか-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
日本の2020年以降の削減目標の「基準年」はいつになるのか。一般の方にはそれほど関心のない地味な事柄だが、しかし、基準年をいつにするかで目標の見え方は全く異なる。交渉プロセスにおいては必ず、各国の削減努力の公平性が議論されるので、いわゆる交渉官は基準年の違いによって生じる「見かけの削減量」の大小に騙されることはない。しかし一般社会は削減量の数字の大きさに左右されるので、削減目標を議論するにあたってそれほど軽視して良いものでもないのだ。
現在国連に約束草案を提出している各国の目標を、基準年を変えて比較した表を作成したのでご覧頂きたい。各国・地域ともに、数字が最も大きくなる基準年を選んでいるということがわかるだろう。
<これまでの枠組みにおける「基準年」>
京都議定書は1990年を基準年と置き、そのときの排出量と比較して、第一約束期間と言われる2008~2012年までの5年間での排出量削減率を定める仕組みであった。日本は▲6%、EUは▲8%、ロシアは0%といった具合である。
2013年以降2020年までの枠組みを定めるカンクン合意は、現在議論されている2020年以降の枠組みの素地となるもので、各国が自主的な目標を掲げる仕組みであった。当然のことながら基準年も統一されていない。米国は2005年比で▲17%、ロシアは1990年比で▲15~25%(前提条件付き)、EUと豪州は同じ期間ではあるが京都議定書第二約束期間の目標として1990年比でそれぞれ▲20%、▲0.5%という具合だ。なお、豪州については、2020年単年では基準年を2000年として▲5%という目標も提示している。いわゆる見かけの削減量がそのほうが大きくなるから2000年にしたというに他ならない。2000年比▲5%は、90年比▲2.6%だ。
なお、我が国は民主党政権時代に1990年比▲25%削減を掲げたが、2013年11月に2005年比▲3.8%に目標の差し替えを行っている。
<2020年以降の枠組み>
2020年以降の枠組みも各国が自主的に目標を掲げそれをレビューしあう仕組みであり、基準年も目標年限も各国に任されている。これまでに国連気候変動枠組み条約事務局に目標を提出した国の目標を整理すると下記のとおりである。