【緊急提言】誤解だらけの気候変動問題

-基準年はいつにすべきか-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 実はまだ加盟195カ国のうち目標を提出した国はわずかで、先進国の中でもカナダや豪州、韓国、中国・インドといった新興大排出国は目標を提出していない。そのため、全体の傾向を語るには無理があるが、例えばスイスはシンプルに1990年比で2030年には50%削減、2021~2030年までの平均排出量で35%削減を目標として掲げているが、メキシコは対策を行わなかった場合に(Business As Usual)排出されたであろう2030年の排出量と比べて25%削減することを目標として掲げ、2026年には排出のピークを迎え経済成長と温室効果ガス排出量のデカップリングが起こること、GDP当たりの排出を2013年を基準として約40%改善することなども示している注2)

<我が国はどう考えるべきか>

 我が国の削減目標について、基準年を設定するとすればいつにするのが考え方として正しいのであろうか。4月17日付けの毎日新聞報道によれば注3)、経産省は東京電力福島第1原発事故後となる13年を主張し、環境省は「基準年を何度も変えると国際的な信頼を損ねる」として、05年を主張しているという。それぞれの主張に一理あるとは思うが、しかし、原発事故の影響により我が国のエネルギー政策はゼロベースで考えなおすことになった訳であるから、2013年あるいは14年といった「今の日本」を基準にする方が受け入れやすいし、削減目標について現実に即した議論ができるのではないか。2005年当時我々がどのような状況にあったかは少なくとも筆者は既に忘却の彼方であり、肌感覚を持ってそのレベルからの削減努力を議論することはできない。
 EUは相変わらず1990年を基準年としているが、それは基準年を変えないことで国際的な信頼を得られるからではなく、単に自分たちの削減目標が大きく見えるからだと理解するほうが普通だろう。それが証拠に、EUは今年2月、2050年までに世界全体の排出を2010年比で60%削減する長期目標を提案している注4)。世界全体の削減については2010年を基準とし、自国の削減については1990年を基準とするというのは、まさにダブルスタンダードではないだろうか。もはや四半世紀以上前のデータを「基準」として使うことに対して、我々は説明を求めていくべきだろう。

<約束草案提出に向けて>

 2020年以降の枠組みにおいては、基準年も年限も、そして総量目標であるのか原単位目標であるのか、はたまた行動計画であるのかも統一されていない各国が出してくる約束草案に対して、どう努力の公平性を評価し野心を引き出していくかが肝となる。求められるのはどこかの国にあわせて基準年や年限を置くことではなく、その根拠について説明責任を果たすことだ。
 日本政府がいま目標に織り込もうとしている省エネ目標は本当に達成できるのか、再エネの導入はそこまで拡大できるのか、国民運動はどこまで広がりを持ち生活のなかの排出を抑制できるのか。目標の内訳を見ていると様々な不安要素がある。政府には、国連交渉の場だけでなく、そのコストを負担する国民に対して、目標の意味するところを説明する義務がある。温暖化を「自分事」として捉え行動する国民を増やすためにも、目標策定のプロセスから丁寧に国民と共有していく必要があるだろう。

注2)
各国が国連に提出した約束草案については下記で確認できる
http://www4.unfccc.int/submissions/indc/Submission%20Pages/submissions.aspx
注3)
2015年4月17日毎日新聞記事
http://mainichi.jp/feature/news/20150417k0000m040137000c.html
注4)
欧州委員会ENERGY UNION PACKAGE のP5参照
http://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:e27fdb4d-bdce-11e4-bbe1-01aa75ed71a1.0003.03/DOC_1&format=PDF

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