過大な省エネ見通しはこう見直すべし
-政府長期エネルギー需給見通し小委員会で提示された省エネ見通しの改善提案-
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
これがいかに非現実的な想定かは、図2を見れば明らかである。過去、1.7%といった速さで経済が成長するならば、電力需要はそれを上回って伸びてきた。小委員会が想定するような大幅な電力需要の減少は、経済成長率が1.7%という想定と全く整合性が無い。
なお図2において、橙色の直線は45度線で、この線より上では、電力需要が実質GDPを上回ったことになる。黄色の直線は最小二乗法による回帰直線y=0.78x+0.014である。x=0のときy=0.014となるから、GDP伸び率がゼロでも電力需要は1.4%伸びたことになる。経済が成長しない時ですら電力需要が増えるのは、技術進歩によって、電気利用技術が次々に開発され、またそのコストが下がるため、電力化率は単に時間が経過するだけでも上昇してきたからである。(なおこのような電力化率の上昇は歴史的趨勢として世界諸国で普遍的に見られてきた。詳しくはこちら)
なお以上は家庭部門に絞って述べたが、業務部門についても全く同様の議論が成立する。もしも、経済成長率の想定を大幅に見直す、というならば話が別であるが、そうではあるまい。ならば、電力需要の想定は修正が必要である。少なくとも、今回の小委員会の家庭・業務部門の電力需要の省エネ見通しは、経済成長率との整合性が全く無いものだった。
では今後の省エネ見通しの精査はどのように進めればよいだろうか。
まず第1に、京都議定書目標達成計画において、同様な方法論で、同様に過大な省エネ見通しを立て、それが大きく外れたことを、今一度よく理解すべきである。
今後、LEDなどの技術進歩は見込めるが、それをいくら積算しても、全体としての電力需要が減少するという論拠にはならない。
過去にも、フラットディスプレイやエアコンなど多くの技術進歩があり、それを積算の対象として、京都議定書目標達成計画は作成された。だが家庭部門の電力需要は増大し、同計画は大きく外れた。この現実を直視すべきである。
第2に、家庭・業務部門の電力需要はGDP成長率を常に上回ってきたという「鉄のリンク」(図2、更に詳しくはこちら)の存在もあらためてよく理解すべきである。
第3に、長期需給見通し小委における「マクロフレーム」と省エネ小委における「積み上げ試算」の関係を再整理し、ダブルカウントを除くべきである(詳しくはこちらの図8)。2/27における長期需給見通し小委資料では、「省エネ対策前」のエネルギー需要の計算時と、「省エネ量の暫定試算」における省エネ対策前と後の差分の積上げ試算において、ダブルカウントしている。実際には、省エネ対策前の電力需要は、図2の45度線よりもはるか上方に位置しており、省エネ対策後でも45度線よりも上に留まるはずである。つまり、「省エネ対策前」の電力需要の成長率は、経済成長率よりも大幅に高いはずである。「省エネ対策後」の電力需要の成長率も、経済成長率を上回ると考えるべきである。
本稿が、小委員会によるエネルギー需要および省エネ量の精査のために、参考となれば幸いである。